~5~ 神器【盾】覚醒
――世界を守れなくても良い。
でも、僕は
自分の大切なものを......
この子を......ステラを守る!!
小さくボロボロで歪んだ盾が光始める。
それは他の勇者とは違い、青く緑色をはらんだ翠緑色の発光体。
「あの光は......まさか」と里の長が反応し言葉をもらす。
僕は地を蹴り勢い良く体当たりのようにアランへと盾を前にしてぶつかる。体の痛みがなんだ?たぶんステラを、彼女を失う心の痛みの方が何倍も、痛い!!
ギイイィンッ!!!
その攻撃をアランは剣で防ぐ。しかし......
ズ、ズズズズ......
!?――コイツ、力が......!!
今までになく、覚悟を決めて本気でぶつかる僕は、アランを押し込め、全力で防御させることに成功した。
もはやアランに蹴りを入れる余裕もない。
「お前、わかってんのかよ? こんなことしてよ......殺されても仕方ねえくらいのことしてるんだぞ?」
「――うん、わかってるよ......」
僕の中の何かが叫んでいる。
「だから僕は――戦ってきたんだ!!!!」
ドクン......
盾を包む光が大きくなり、その形を変えて行く。
それは、彼の神器と形が似ている、夢にもみた......心の底から欲してやまなかった、最強の勇者の神器。ロングソードだった。
ギギギギギギ......!!!
ノアの翠緑色のロングソードとアランの金色のロングソードが火花にも似た光を散らして、ぶつかり競り合う。
「ど、どういうことだ、こりゃあ......!?何で俺と同じ......」
それはノアにもわからなかった。けれど、神器がノアに語りかけてくる気がした。想いがどんどん大きく、強くなる。
それを剣に乗せろと、大切なものを......ステラを守り抜けと!
里の全体がざわめく。なぜノアの神器が盾から変化したのか、里で一番の実力者であるアランと互角に張り合っているのか。
まるで、歴代最強の勇者が魔王討伐に失敗したと言う事実を知った時のような、里の人々にはそれくらい大きな衝撃であった。
先生が一人呟き言葉をもらす。
「な、なんで......あいつは才能も力もない、落ちこぼれじゃ......。 あいつが最強の神器を発現させるなんて......!」
すると、となりにいた里の長が、いや、違う。と話し出した。
「......あれは神器ではない。 あれは、原初の勇者が持ち得た力。 全ての神器の始まりの存在。 想いを反映し、形を変える器......」
「神ノ器《心映》」
アランが笑う。
「――はは、いいぜ。 お前がその気なら、やってやる!」
「今度こそ、お前の神器をぶっ壊してやるよ! お前の勇者人生終わらせてやる! 俺と同じ神器は二つもいらねえ!」
アランの力と神器の光が強まる。けれどノアのロングソードはびくともしない。
それどころか、アランの神器に異変が起こった。
ミシッ......!ビキビキ......
手元を見ると、彼の神器にヒビが入っていた。
「なんで......まって、神器は壊れないんじゃ......ノ、ノア、まて! やめろッ」
僕はアランの目を見据え力を想いをその剣に込める。僕は叫んだ。
――アランと交錯する思いと叫び。
「やめて、やめ......うああああぁああああぁ」
バキイィイイイイイ―――ンッッ!!!
アランの勇者の証は、見事に二つに折れ、砕けた。やがて綺麗な金色の煌めきになり消えてゆく。
膝をつき消えた神器のあった場所を見つめている。
「お、お、おれの......神器......が?」
すると状況を見兼ねて、他の勇者が乱入してきた。
「調子のんじゃねえぞ!」
大剣を持った勇者の一人であるゴーランが、突進の勢いを乗せ横凪ぎの斬撃を放つ。僕は襲い来る大剣を瞬時にガンッと腹下から叩き、軌道を反らしかわす。
「な......!?」
体勢を崩すゴーランの足を払うと、地面を数メートル転がり伏した。
そして間髪いれず、両手剣を持った勇者シンとレイピアの様な剣を持った勇者ニーナが攻撃を仕掛けてくる。
「落ちこぼれのクセに!!」「死んどけッ!!」
――遅いッッ!!
ドスッ!!シンが両手剣を振りかぶった瞬間に腹に拳をめり込ませる。
その後に迫っていたレイピアの突きを、右手で掴み止めた。
「......なっ......う、嘘だ」
驚きと恐れの混在した眼差し。レイピアを離すと、ニーナはその場にへたりこむと、目を丸くしていた。
他の勇者達は神器を構える者もいたが、今の一連の攻防をみて戦おうという意志はもはや消えてしまったようだ。
けれど、大人はそうはいかない。先生が出てきた。
「仕方ない。 ノア、本気で行くぞ。 死にたくなければすぐに降参しろ......」
子供の勇者達では抑えがきかないと判断し、僕達に戦闘の訓練をしてくれていたコウキ先生が向かってきた。
先生は勇者ではないが、戦闘のスペシャリストだ。
対峙する先生は今までに見たことのない顔をしていた。多分これが僕がしっかりと敵として認められた証拠だ。
先生は武器を使わない体術を得意としている。
一呼吸の後一瞬で間合いを詰め、僕の懐へと入る。恐ろしく速く滑らかな動き......でも。
ドゴッッ!!
掴み掛かろうとした瞬間、バックステップをしながら先生の顎を蹴り上げた。
先生は何が起こったかもわからなかっただろう。
僕はこれより速い動きで戦う人に、訓練をしてもらっていた。
師匠......シルフィ。
その圧倒的な戦闘力にその後、誰一人として僕を止めに来ることはなかった。
ステラの元へ行く。拘束していた人がまるで化け物に対するように恐れ、ステラを離し逃げた。
「......大丈夫?ステラ」
ステラは心配そうな泣き出しそうな顔で聞いた。
「ありがとう。 ......でも、ノアは......大丈夫なの」
僕はステラに笑いかける。
「うん、大丈夫。僕は......」
「君の勇者になる。 君を、守り続けるよ」
ひとときの間の後、へ?とステラが赤面した。ん......なんで?
すると里の長ルードが僕に言う。
「ノアよ......わかった。 お前を認めよう。 今まですまなかった」
僕が里でいじめにあっていたことは里の長も知っていたはずだ。そのことだろう。
「......お前の持つその神器は、ただの神器ではない。 それこそが歴代最強の勇者を越える、神ノ器《心映》。 持ち主の心を映し出し、姿形を変える力を持つ......破格の武器なんじゃ」
「お前はこの里の......いや、世界の希望じゃ。 頼む、お前が世界を救うために......里のために......」
里の長を見て僕は答える。
「ごめんなさい。 僕は、この里を出ます」
「なっ......か、考え直せ。 お前はまだ子供じゃぞ。 里を出たところで生きては生けぬぞ!」
かもしれない......けど。
「僕は、彼女の勇者になると決めた。 さようなら......」
◇◆◇◆◇◆
僕とステラは逃げるようにそのまま迷いの森へと出て走る。
里から追っ手がきたら面倒な事になるから、とにかく離れなきゃ。
そんな事を考えていると、ふふっとステラが笑う。
「......ど、どうしたの?」
「......あ、ごめんなさい。 でも、ノアはやっぱり弱くなんてなかったのだわ......!」
彼女は僕が今まで受けたことの無い衝撃で
「助けてくれて、ありがとう。 ノア」
その笑顔で、僕の心を撃った。
そして、落ちこぼれ勇者と追放された魔王の娘、僕ら二人の旅が始まった。