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~63~ 空と星の間

 



 魔界のとある城の一室。大きな影と大命四魔の一人がそこにはいた。

 ゆっくりとその影の主である生物を撫でる。



「よーしよし、いいこだな。 ふへへ」


 カミナラの使役している魔獣は、魔神と呼ばれる特殊な個体だ。

 魔族と勇者の混合獣。かつてノアが成り果てた、かの魔獣である。


 あの時、ノアは内なる二人の魂により力を押さえ込み、本来であればミーナルまるごと消し去る程の力をとどめ、被害を限りなく少なくした(それでも多数の死者と町に壊滅的な被害をだした)


 しかし、カミナラの扱うこの三体の魔神は違う。


 本能のまま、人の命を求める純粋な魔獣。


「もうすぐたらふく喰わせてやるからよ。 パーティーだぜ。 楽しみだな?」


 今、カミナラが話しかけているのが、コウキ。

 大きな羽を持つ蝙蝠(こうもり)のような姿に、手足がうじゃうじゃと生えている。顔は二つ有り、目には杭が打たれている。全長約五メートルの大きな体だ。


 そして向こうで死んだように伏して、ピクリとも動かないのが、ジャキ。

 山のような巨大な体で、顔が七つある蛇。民家の二倍はあるかと言うその巨体の背には至る所に杭が打たれている。


 その横に鎖で巻かれて吊るされているのがライキ。

 体長三メートルくらいの大男のような外見で、首にはふさふさとしたライオンのようなたてがみがついている。

 筋肉の塊のような身体で、両肩と額に太い杭が打ち込まれている。


「たくさん遊ぼーなあ? くくく」


 すぐそこで、作業に及んでいたウリアラが呼ぶ。


「カミナラー、ここの床だぜ。 ここだからなあ? 一体一体いれろよ? 一気にいれたら魔紋がぶっこわれちまうからな?」


「おう、わかったぜ。 ああああああ楽しみだなあー! 王都は人が沢山いるんだろ? 早くあそびてーぜ!」


「本当にわかってんだろなー? 前に作ってやった時もそんな事言ってよ、壊したじゃねえーかよ。 今回は俺も仕事沢山あっからよー作りなおしにもどってこれねえからな?」


「しかたねえだろう! こいつらの気持ち考えてやれよ! 暴れたくて暴れたくて仕方ねえんだ......俺やお前のように自由はねえ。 だからこう言う時にはしゃいじまうのは仕方がねえだろ?」


「あーはいはい......(これだから脳筋ばかたれは......魔紋壊れたら楽しめねえつってんじゃん)」


「んじゃまーあ、そのまま待機しててくれー。 俺は他の部屋に魔紋設置しにいくから」


 ああ、わかったぜ。ひゃっはー!!!!と叫ぶカミナラ。あのバカさぶりには辟易するぜ。と精神的な疲れがどっとでるウリアラ。


 王都を仕切りに行き来し、この作戦の調整と現地の人員整理、見張りを全てこなしていたウリアラ。

 ここまでずっと動いていたのは大命四魔では実質ウリアラだけだった。


(ベルフェゴール......これもあんたがよお、魔界の七つの大罪に返り咲く為の事。 俺はあんたが魔界の王に君臨してくれれば......それでいいんだぜ)



 次はシンララだなあ。あいつは部屋の前に魔紋をつけといてくれって言っていたなーあ。

 シンララは普段大人しいが、キレると何するかわからないからなあ。

 あの万物を分解する能力は、あらゆるものに適応するからなあ。その手のひらに触れれば死があるのみだ。


「よし、定着したなあ......次は、待機場に二つと......」


 次々と魔紋を設置し、その仕事をこなしていくウリアラ。この魔紋は、出入口の距離が遠ければ遠い程その消費魔力が多くなる。

 魔界と人間界という恐ろしく遠い場所にある二つを繋ぐのはとてつもなく、途方もない魔力を必要としていた。


 そしてそれを可能にしていたのは、【魔樹】の存在である。これは人が魔力を大量に摂取し魔物と化した姿で、この樹木になった状態で置いておくと、魔力を地中や空気中から大量に集める性質がある。


 その集めた魔力を使い、魔力を捻出していたのだ。


 その【魔樹】の数はおよそ三千。全て人間界から拐ってきた人間である。


 さあーて、お次はー......。




 計画は最終段階。





 ◇◆◇◆◇◆




 王都の町外れにあるスラム。そこは法が意味をなさない場所で、騎士でさえ手を焼く場所。

 彼らは家を持たず、実質ゴミ溜めになっているこの場所で使える物を漁りながらその日暮らしをしている。


 そこで生まれた一人の少年。彼の名前はシン。いや、生まれたと言うのは定かではなかった。何故なら彼は赤子のままこのゴミ山へと置き去りにされていたのだから。


「......おっちゃん。 明後日に何か良くないことが起こるよ。 逃げた方が良い」


「あん? どーいうことだ?」


 おっちゃんと呼ばれた前歯の抜けた男が聞き返す。片手には酒を握りしめている。


「王都や町中の強い奴らのオーラが激しく揺らいだりしている。 戦争の前兆かもしれない......ここにいたら多分殺されるよ」


「まじかよ。 けどなあ......おめえ、その日にちかけて皆避難できるお思うかよ? 何百人いると思ってんだ? しかも女子供も多いぜ......無理だな」


 シンはわかっていたが、育ての親であるこの人には一応伝えておかねばと思っての話だった。


「そうだよね。 わかった」


 シンはある特殊能力を持っていた。それはシンの生まれた秘密によるモノで、だからこそ戦わねばと覚悟をしていた。


(そうだ、もう逃げられない......この町に生まれた以上、戦わねばならない)


(後悔、それは後には立たない......僕は必ず、今度こそ戦い抜く)




 シン・ジタラーム 二十五歳


 元、王徒十二騎士 No.10


 魔界の魔族との戦闘により数年前に死亡。自身の特殊能力により記憶をとどめたまま転生。


 数多の戦場で戦果をあげた彼の戦闘力はかなりのモノで、その頃の魔物を屠った数は十二騎士中で、ダントツのトップであった。




 愛しき人を凌辱され、殺された......あの身も焼けるような壮絶な痛み。


 僕はもう負けない。必ず、守り抜く。




 ◇◆◇◆◇◆






 夜の空。雲のただよう川に、数多の光輝く星達。



 少し飛べたら、掴めそうに思えるそれらは、思う以上に遥か上にあって触れることすら出来ない。


 私達が求めているのはきっと、それと同じくらい難しいものなんだと......









 ねえ、ステラ。私、思うんだ。











 でも、あの人なら、変えられる。だって、星を掴んだ事あるんだから。



 ねえ、ステラ。







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