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~62~ 未来の先

 


 静かな、蝋燭(ろうそく)に飾られる部屋。


 此処は、とある酒場の地下にあるレジスタンスのアジト。


 トレーニング器具や、武器、魔石があり、レジスタンスの隠れ家と訓練に利用のできる場所に作られている。


「......また、ここか。 っていうかお前、どれだけ外でてねえの? 来る度にいるじゃねえか」


 彼女は二つのダガーを振り、その動きの質を高めている。滑らかで流麗。

 獣人の体を持つ彼女は、その身体能力をいかした独自の戦いの型を用いる。


「......」


「無視、ね」


 無視された男はヘンリー。困った顔をしながら、無精髭(ぶしょうひげ)をジョリっと撫でる。


「レナに......まだあってやってねーの? 心配してるぞ」


「レナ......会えるわけない。 僕が側にいれば危険がつきまとう」


 まあ、そうだな。だから、俺もノアの事......誤魔化したんだよな。


 数年前、港町ミーナルで大規模な魔獣災害があった。その時の死者は約百五十人いたとされ、その原因が十二騎士とレジスタンスの戦いだったとされている。


 そして、その被害のほとんどがレジスタンスを守るため、己を変貌(へんぼう)させ、魔神となったノアによるものだと後に彼女は知った。


「僕はただ、大切な人のために戦う......」


 手に持つ双頭のダガーをじっと見る。


 ライカム


 ガンディー


 ハイム......


 今度こそ、何も失わないように......皆、僕に力を。


 エルナが立て掛けてある槍を撫でる。それは改造されていて先端に斧がついていた。



 ヘンリーは、ハイムと仲が良かった。この上にある酒場でよく酒を飲み、お互いの話を肴にした。

 家族を魔物に殺された事も、ハイムと共に乗り越えた。


 ヘンリーはエルナを見て思う。これは戦い、戦争だ。けれど、手の届くにあるものは、必ず守るぞ。

 あの時、お前と約束したからな......



 ――(ヘンリーよ、俺にもしもの事があったら、仲間を頼む......特にエルナのやつは、女の子だからな。 頼んだぞ)――



 ギュッ。拳を握り、目を閉じる。


 俺は、だからこの力を手にいれたんだ......必ず守るぞ。



 今は亡き、愛する妻と娘の姿を脳裏に描く。エルナ、レナ......ノア。




 もう、後悔はたくさんだ。




 ――王城襲撃作戦まで、あと二日。レジスタンスは王都が大規模な魔族による攻撃を受けることを察知しており、そのため住民を保護、魔族と戦う戦闘員を各地から呼び寄せた。


 その数、約八百。この王都を魔族から守るには少なすぎた。




 ◇◆◇◆◇◆




 王城の廊下をあるく一人の女。


 王徒十二騎士 No.3 フローラ・シリウス


 頭に赤いリボンを巻き付けていて、右上で括られている。瞳が赤く、黒髪。眉の上で綺麗に前髪が揃えられている。タレ目。


 彼女は扇子をパタパタさせ、王の間へと歩いていく。


 すると、その道中、後ろから声をかけられた。


「おう、久しぶりだな、フローラ。 どこ行くんだ?」


 彼もまた十二騎士。長い髭を生やし後ろで髪を束ねた頭の中年男性。


 王徒十二騎士 No.9 バーナル・ガン・ジンガロウ


「あら、バーナル。 私は王にこの先の事についてお話を持ってきたの。 ついでにお茶しないかなって......あなたも王に用事?」


「ああ、お前と同じさ......レジスタンスの動きが活発になってる。 この王都にかなりの数が集まってきているぞ。 これは放っておいたらまずいことになるぜ」


 フローラは扇子をパチンとたたんだ。そしてにっこりと笑うと、こう言った。


「でも、あなたが居れば安心ね。 戦神バーナル。 かつて王と共に、魔界の魔城を落とした事のあるあなたが居れば」


「はっ、何年前の話だよ。 今の俺にはそんな力はねえ。 ......茶、冷めるだろ行くぞ」


 フローラはふふっと微笑み大丈夫と言った。


「その場で沸かすから。 これ便利なのよ? 魔石が内臓されていてボタン一つでお湯が出来るの......すごくない?」


「すげーな。 いいじゃん、今度俺も買おう......いくら?」


「ふふ......教えない。 今度、差し上げるわ。 あなたの誕生日近かったでしょ?」


「まじかよ! やったぜ!」




 ◇◆◇◆◇◆




 雷が鳴る。まるで怒りの矛先を定められずに、駄々をこねる赤子の様に。


 やがて雨が降り、泣き寝入りをする。


 誰もが望むものだが、誰もが手に入れられない。




「いい感じだね。 マリアノ? これは君の成果だよ。 そう、人体実験の結果だよ......!」


 培養液の中のマリアノが頷いたように見える。


「マリアノ、君は本当に賢い男だ。 そうだね、いくら強い者をまわりに置いていても、意味は無いんだ。 自分が強くならねば自分を守れない......だから、君は実験をしていたんだよね。 魔族になる実験を!」


 話をしている黒フードの男は後ろを振りかえった。

 そこには幾つもの培養液とナニカが入ったカプセル。


「この数でこの質なら......今度の王都襲撃、国落としには使えるだろう。 全く、本当に有能だぜ、マリアノ! いいね!」


 なあ、皆、準備どう?間に合いそう?と、集まっていた他の黒フード三人に話しかける。


 ???「まあーな! しっかりあいつらが動けばなあー! たのしみだぜええ国取り」


 ???「へへ、待ちきれねえくらいさ。 早く人を殺したくてウズウズしてるぜ、俺はよ」


 ???「うぃっす! 準備ばんたーん!っす」



「準備オッケーだぜ、王。 ベルフェゴール......しっかりと見せてやれよ。 あんたのこの数年かけた計画。 魔界の魔族達に」




 黒フード。それは、七つの大罪、ベルフェゴールの部下。


 大命四魔と呼ばれる彼らはベルフェゴールには及ばないが、とてつもない力を有する。




【大命四魔】


 《ウリアラ》 転移能力


 《カミナラ》 魔獣使い


 《シンララ》 分解能力


 《マニアラ》 結界能力




 ベルフェゴール側、魔族の戦力は王都の人口の三分の一を占める魔族と、魔界の魔族三百、マリアノの人体実験で生まれた半魔が二十、そして魔獣使いカミナラの使役する獣が三体。


 他、王徒十二騎士の密偵二人。



 戦力差はあまりにも大きく、この時点で勝敗は決していると言っても過言ではなかった。




 そして......









 ~王都~



「ああ、ここに居たのか......お前の匂い。 忘れたことは無いぜ、あの日から......ここまでずっとな」



「ノア......会いたいよ。 ああ、早くお前の......泣き叫ぶ姿が......」




 赤いフードを被り、王都の外から王城を眺める男。


 彼の手には神器が握られていた。しかしその色は、金色でも青でも白でもなく、黒く禍々しい赤であった。




 かつて、ノアに壊された神器を復活させた彼の目的は......







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