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~60~ 華と死神

 


 王都はとても広い。その規模は町の端から端まで歩けば、半日を有する程。

 そして、その広大な町に住まう約二十五万人の人々の三分の一が魔族である。


 三分の一、この魔族の中には数年前、ベルフェゴールと共に来たものが殆んどだ。


 それらは数年たった今でこそ普通に生活をし、人の社会に溶け込んでいるが、当初の予定では王都グラインの襲撃、制圧要員であった。

 そして新たな計画により、王都を魔族の都にするべく活動開始の命がくだる。


 しかし、彼らの中には人間との家族や大切な者がいるものも多く、深く悩んでいた。




「あいつら、ちゃんと動くかなあー、みんな腑抜けになって見えるぜえ? ベルフェゴール。 お前が言い出した事だからな、ちゃんとやれよー?」


「ぬかりはない。 大切なものがあるなら寧ろやり易いだろう......」


「あん? どゆこと?」


「奴らは、その大切な物の為であれば何でもする。 それを利用すれば良いだけの事」



「ああ、なるほどなあ! くく......」


 黒フードのウリアラが小さく笑う。


「どうした」


「いやあ、数年前は、急にお前が人側について戦いだして、頭がおかしくなっちまったのかと思っていたが......いや、安心安心。 流石は七つの大罪、ベルフェゴールだね」


「俺は......目的の為ならば、手段は選ばない」


 鎧の奥で、確かな覚悟と欲望が燃えていた。ベルフェゴールの国取りが始まる。



 俺は、必ず手にいれて見せる。大切なモノを。


 その途上に無数の死体の山を築こうとも......俺はもう止まれはしない。



 ◇◆◇◆◇◆



「――ステラ!」


 レナの声が店前で響く。


「レナ、元気?」


「元気だよ! 久しぶりだね、ステラ!」


 そして、その後ろでにこにこしているのはキラージャックの異名を持つナツメ。


「ホントに元気そうで良かった。 ......うん。 レナ、あなたも美味しそうに育ってきたわね」


 何とも言い難いナツメの目つきと舌舐めずりに、ぞわぞわとするレナ。

 身の毛がよだつとはこういう事か、と思いながらナツメへと反撃の言葉を返す。


「ナツメさん、またリンドにお尻つつかれたいの?」


 はっ!と何かを思いだし、辺りを見渡すナツメ。そして、背後からそろりそろりと忍び寄っていた、それを発見する。


 リンドはその頭のあたまの角をナツメへ向かって差し向け、威嚇するように横にゆらゆらと振っていた。


「おおわっ、危なー! めっちゃ殺る気じゃんか、こいつ......」


 リンドが鼻息をふんっ!と噴出。まるでレナを守るナイト、騎士だ。


「......それで、ステラ。 何かあったの?」


「唐突な話だけれど、落ち着いて聞いて。......単刀直入に言うと、この町は危ない。 もうすぐ魔族による内乱がおこるのだわ」


 え?と、呆けた表情になるレナ。当然の反応。急にこの平和な王都で戦が始まるとか言われたらそうなる。


「......冗談じゃ、なくて?」


 ううん。と首を横に振るステラ。


「これは間違いないのだわ。 エルナから......レジスタンスからの情報なの」


 レナの表情が曇る。情報源がレジスタンスと言うことで、その確かさを理解したのだろう。


「レナ、覚えてる? 二年前のミーナルでおこったこと」


「......覚えてるよ。 沢山人が死んだ」


「うん。 多分、あの比じゃない程の死者がでると思う......だから、今のうちにロドリゲスさんと家族を連れて逃げた方が良い」


「逃げた方が良いって......ステラはどうするの?」


「私は......」


 レナは言いながら気がついていた。多分、ノアの事を......。


「きっと内乱になれば、戦える人が必要になる......だから私は残る」


 私は......確かに、ミーナルの一件でノアが居なくなり、何も持たない私とステラを迎え入れてくれたロドリゲスさんとその家族にはには感謝している。

 けれど......。


「話はする。 けど、私も......私にとっても大切だから。 だから戦う」


「レナ......お願い、逃げて。 私、あなたを失ったら......」


「ステラはいつもそう。 自分が危ない目に遭うのは良いの? 私達、姉妹じゃないの?」


 その時ナツメが口を開いた。


「いやあ、良いじゃない。 ステラは過保護過ぎるのよね。 みたところレナだって普通に強くなってきてるし、普通に戦えるよ」


「ナツメは黙っていて」


「黙らないよ。 なにもしないで......出来ないで大切な人が居なくなる。 それって怖いでしょ? ステラならわかるはずだけど」


 ステラの頭にノアの事がよぎる。ミーナルの戦いの後、ノアはベルゴにより連れ去られた。なにもできずに。


 でも今になって思う。あの時、ダメでもノアを奪い返せていれば、奪い返えそうとしていれば、少なくとも今この胸の奥を蝕んでいる「後悔」は無かったかもしれない。


 レナに今言われてわかった。......同じなんだ。


「......レナ。 わかったのだわ。......でも、無理はしないで。 絶対死んだらダメだよ」


 レナは少し驚いた顔をし、すぐに笑みを浮かべた。


「それはステラもだよ。 絶対死なないでね、お姉ちゃん」


 ナツメは思う。

 そう、なにもしないで大切な人を誰かに殺されるなんて......奪われるなんて、絶対に許せないでしょ。

 ちゃんと自分で、好きな人は壊さないと。愛情をかけて、殺さないと。


 自分のモノにする。



 じゃないと、後悔、しちゃうでしょう?




 ◆◇◆◇◆◇



「これくらいでいいかな? ノア、準備できた?」


「中々難しいね。 前の時は短期の遠征だったから......今回の何日かかるんだっけ?」


「二ヶ月」


「二ヶ月の旅支度なんて、どうして良いものやら......こういうの苦手なんだよね」


 そういえば、ダーナムのエリア。あそこの領主、紫オークとゴブリンは元気かな。

 確か、最後にあったのが二ヶ月前くらいか。


 港町ミーナルの人側の総領主が失踪して、彼がおこなっていた奴隷や武器の闇取引等の、違法行為が明るみにでた。

 裏で行っていたそれらの悪行のうち、特に人の道をはずれていたと思ったのは、奴隷を使った人体実験。


 魔獣と人を手術、魔術あらゆる方法で組み合わせ、失敗したら飼っていた魔獣の餌にしていたようだ。その魔獣も総領主と同様、姿を消した。


 そして新たに総領主に就いたフルアーダと言う人により、これまでとは違い、死刑囚が生け贄として各魔物領主へと配給されるようになった。


 この生け贄と言うものには俺は反対だが、どうにもならないことがあるというのは......この十二騎士になり、様々な世界をみた今ではわかる。


 この国以上の不条理な所がたくさんあって、同じように苦しんでいる。


 それらを変えるとなれば、根本的な......魔物との繋がりを変えるしかないのだ。



「さて、行くよ、ノア。 国境を越えるのに一週間以上かかるんだからね」


「うん、行こう......」



 そして二人は扉をあけた。







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