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~4~ 別れ道

 


 ――ん?あれ、僕......ああ、そっか。いつの間にか寝てたんだ。


 鳥達の(さえ)ずりが聞こえる。朝......か。


 ぎゅっ......


 ......ん?


 よく、今までにもよく布団を抱き締めて寝ていることはあったけど、この感触は......あ、明らかに違う......。


 静かに息をころし呼吸している音が聞こえる。そして微かに吐息が僕にふわっとあたって、僕はまさか......と思う。


 おそるおそる、目を開けると、そこには僕の腕の中で抱かれているステラがいた。


 頬を赤らめ、上目遣いで小声で「......お、おはよう」と彼女は言い、赤い瞳を(うる)ませていた。


「ぼ、ぼぼぼぼぼ僕、ごめんなさい! いつの間にか寝てしまってて......!」


「う、うん......大丈夫なのよ。 と、とりあえず離してもらえるかしら......」


 彼女を抱えていた腕をよけて、逃げるように部屋を出た。

 温かなステラの体温が触れていた部分に残っていて、どきどきが収まらずにいた。



 ◇◆◇◆◇◆



 朝食の用意ができ、ステラを呼んで昨日と同じく丸いパンを二人で食べる。勇者の儀式の後に何か食材を買おうと思っていたけど、それどころじゃなくなったから......けど、同じもの食べさせて申し訳ないな。


 そして、ステラに今日の話しをする。これから僕は勇者の学校と言うところへ訓練に行くこと、帰りの時間を言っておく。そしてもうひとつ、一番の重要事項、家からでたらダメだということを強く言う。

 しかし、それに関しては、ステラは逆に家から怖くて出られないと言っていた。まあ、そうなんだけど、一応いっておかないと。


 さて、と......今日の早朝の自主鍛練は出来ないな。起きるのが遅かったし、なによりステラを放っておいて鍛練に出掛けるなんて無理だ。

 出来るだけ側にいてあげないと......違うか。



 僕が側にいたいのか。




 玄関、扉の前に立ち、振り返る。ステラは少し寝癖になってしまった髪を丁寧に撫でて戻そうとしながら僕を見る。


「......いってらっしゃい」


 と、にっこり笑い、手をひらひら振っている。

 僕も微笑んで手を振り返す。


「なるべく、早く戻るから。 ......行ってきます」


 嫌で嫌で仕方のなかった朝が、重かった心が、彼女がいてくれて全てが変わっている。

 救われたのは僕なのかもしれない。



 ◆◇◆◇◆◇



 いつもの教室に到着した。


 にやにやと笑うアラン達。目を合わせないように、席に着き本を出し眺める。

 何か変だな......いつもなら嫌がらせのひとつでもしてくるのに。

 そう思いながら僕は読み飽きた本の句読点の数を数える。頭がおかしくなったわけじゃないよ?こうしていると余計な事を考えないで済むから......って、あれ?なんかすごく悲しくなってきた。


 そんな感じで今日一日を心を、感情を殺して乗り切ろうとしていたら、突然外から里の大人達の叫び声が聞こえた。


「魔族だあああああ!!! 魔族が里に侵入しているぞおおおお!!!」



 え?


 心臓がドクンとなる。


 え、うそ......いや、そんなはず。

 まさか、ステラ......!?外に出てしまったの!?


 すると、アランがにやにやした顔で僕に言う。まさか......!?


「ダメだろ。ノア。 魔族なんて家に連れ込んだら......勇者としてどうなんだろうな? ククッ」


 瞬時に理解した。僕が家にステラを連れて帰ったのを見られていたんだ。

 それを大人達にアランが教えた。

 先生がいつまでも姿をあらわさないのは、ステラを捕らえるために人手がいるから......それでか......!


 僕は教室を飛び出た。最悪だ。ステラは......考えるまでもない。

 このままでは殺されてしまう。というか捕らえる際に殺されてしまっているかもしれない。


「――はあはあ......い、嫌だ......ステラ......」



 家へと到着すると、ステラは連れ出され拘束されていたところだった。

 里の人々が集まるなか、まるで見せ物の様に晒されている。それはそうだ。魔族がこの里に侵入するなんて今まで無かったことだ。


 ステラは駆けつけた僕に気がついた。が、すぐに視線をそらした。

 そして尋問が始まった。


「お前、どうやってこの里に侵入した!? この里は迷いの森の特殊結界で認識できないはずだぞ! 答えろ!!」


「......知らないわ。 偶然入れたのよ。 たまたま家があったから侵入したの......」


 ! ステラは僕が連れてきたことを隠すつもりなのか......!

 そう言い顔を背けた。体が震えているのが見える。

 どうしたら......このままじゃ......どうしたらいいんだ!


「だから言ってるだろ? ノアが連れてきたんだよ」


 と、あとから到着したのはアランとその仲間達だ。

 里の人達の目が僕にあつまる。場が僕の悪口と批判で満ちていく。

 おいおい、頭おかしいんじゃねえか?とか、勇者でありながら......里を危険に晒すなんて、追放してしまえ!など沢山の怒号にも似た言葉を投げつけられる。


「どうしますか、長?この魔族はここで処分しますか?それとも外部機関に引き渡しますか?」


 里の長はその長く白い髭を撫で、僕へと向き直り頷き、言った。


「ノア。このままでは皆も納得が行かん。(みそぎ)と言えば聞えは悪いがお前がこの魔族を......殺せ。お前が撒いた種じゃ......お前が殺れ。 殺らねば皆、納得せんぞ」


 よりいっそう僕へと注目が集まる。緊張がピークに達し、ノアはパニックになりかけていた。

 息が......呼吸が、苦しい......。


 僕はステラの前まで歩いた。里の人々の視線に背を押され、目前へと来た。彼女は両手と両足を縛られ、二人の大人が押さえている。

 ステラの顔が見れずに、立ち尽くす。心臓の音がうるさい。




 ......




 ......





 どうしたらいいの?


 ステラを殺さないと、僕はどうなるの?


「おい」


 とアランが背後にいた。そして僕を押し退け、ステラの前に行く。


「お前が出来ないんなら、俺がやってやるよ」


 アランの右手に金色の光が収束し、ロングソードが顕現する。

 そしてそれを高らかに掲げ、里の皆を見渡す。

 その表情は誇らしく、満足気だ。


 そうか、アランはこれのためにこのタイミングを狙ってすぐに報告しなかったのか......。僕とステラを利用して、里での地位を高めるために。


 そして、掲げた剣をステラへと振り下ろした。空を裂くヒュオッと言う音と共に彼女の体を切り裂いた......かのように誰もが思ったが


 ガキィンッ!!!


 間一髪でノアも神器を発動させ、盾でアランの斬撃を防いだ。

 バキバキと、今にも壊れそうな小さな盾でギリギリ耐えた。

 民衆がざわつき、アランが声を荒げて僕に聞く。


「おい、てめえ!!どういうつもりだよ......!?頭おかしくなったか!?」


 ど、どういうつもり?確かに......この子を助けてどうするんだ僕は......。

 魔族を、しかも魔王の娘を助けるなんて、もう僕は勇者にすらなれないんじゃないか......。


 するとノアはアランに脇腹を蹴り抜かれた。


「がはっ......!!!」


「邪魔だ。寝てろ、ノロマ」


 蹴り飛ばされ転がる。周囲の観客と化している里の人々は、魔族から皆を守ろうとしている里の英雄、勇者になっている、アランに声援を送る。


 痛みに耐えながら顔をあげるとふとステラの顔が見えた。

 彼女は、笑っていた。口が動き声になっていなかったが、確かに「ありがとう」と言っていた。視線は僕には向かってなかったが、あれは確かに僕への言葉だ。


 ――だ、だめだ......僕は、嫌だ!


 再度、アランを止めるべく神器の盾で剣を無効化しようとステラの前に立とうとすると、アランは予測していたのか顔面を拳で撃ち抜かれた。


「うるっせえな!!!邪魔だっていってんだろーが!!!お前から殺してやろうか!?」


 転がり込む僕を蹴り続ける。

 動かなくるのを見て、「お前、次はねえぞ」と言いアランはステラへと向き直る。

 魔族を手引きした里の裏切り者である僕への暴行を止める人は、もういない。


 身体中が痛い。


 ごめん、ステラ......弱くて......守れなくて、ごめん。











 ――ノア、あなたは弱くないわ。




 私を救ってくれたじゃない。




『――私の勇者様』






 ノアはステラの言葉を思い出し、目を見開いた。


 そうだ......大事なもの。僕の大切なものはなんだ?


 何のためだ?何のために僕はずっと戦ってきたんだ?






 僕は――




『良い勇者になれよ、ノア』




 師匠の言葉が、想いが僕の頭をぶち抜く。





 ――ステラの、大切な人の




 勇者になる。





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