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59/103

~57~ 始まり

 



 ~王都~



 カラカラと馬車が通り過ぎる。


 雨上がりの空を映す水溜まりをはね飛ばし、近くの犬にかかる。


 がやがやと賑わう買い物通り。


 天気が良くなり、買い物客で沢山だ。


「いらっしゃい! 今日は新鮮で良い野菜があるよー!」


「さあさあ、見ていってよ! この肉は食べれば頬が落ちるくらい美味い肉だぜー!」


 店主や店員がお客様争奪戦を繰り広げている。



「ねえ、ロドリゲスさん! シラトリラグのモモ肉ってもう在庫なくなった!?」


「ううむ、それは昨日仕入れ業者が持ってくる手筈になっておったんだが、来ていなくてな......お客様、誠にすみません」


「すみません、お客様」


「レナちゃん、すまない、裏の畑でガッカリ草を採ってきてくれないか? 店は私がみているから」


「わかりました! 」


「あら、今日もいるのね、可愛いウサギちゃん」


 客が店前にしゃがみこみそれを撫でる。うちの看板ペット、リンドだ。

 見た目がウサギみたいで可愛い事から、客寄せとしてかなり店の売上に貢献している。


「キュウ! キュイッ? キュー!」


「うさぎさん、可愛いね、今日も」


 子供達にも人気で、毎日のように見に来る。リンドは人の言葉を理解しているようで、かなりおりこうだ。


「ロドリゲスさん! 持ってきました!」


「ありがとう! 私はパンを焼くから、店番頼むよ!」


「はい!」






「......」


「今日も大繁盛ね。 良いの? 声かけなくて」


「彼女が無事であれば、それで良い」


「そう......向こうはあなたのこと心配だと思うけどね」


「だとしても、俺が近づくのは危険だ。 俺を利用しようとしている奴ら、忌み嫌う奴らは多い......」


「まあ、確かにね......」


「キアリク、頼んでいた件は何かわかったか?」


「ああ、ステラね......うーん、わからない」


「うーんって、なに? 隠し事?」


「それらしい人は見つけたんだけど、神出鬼没と言うか......消えるのよ。 だからそれがステラかはまだ判断できていない」


「消える......」


「そう。 後を追おうとしたら、霧がぶわーって......まるでキラージャックの殺しに使われる霧のようね。 そして、もしそれがステラであれば王都にいる事になるね」


「......そう」


「エルナって人はちょっと難しいわ。 彼女レジスタンスだから、私達は近づけない......王都のレジスタンスの隠れ家は幾つか調べはついているけれど、かなりの力を持つものが所属しているからね。 下手につついて大事になったら嫌だし」


「いや、ありがとう。 この礼は今度必ず」


 両手をあげキアリクは首を横にふる。


「いいえ、別に大した事じゃないし。 ()()()()を守ってくれれば......私はそれだけで良いわ」


「......うん、わかった」


 二人は、王徒十二騎士の印がついた黒のコートを翻し歩き出す。



 ◆◇◆◇◆◇



 バチチチ!!!


 ビュオッ!!――カァン!


「――ッ!」


 紅い雷が地を這う。直撃した彼女はその姿を霧散させた。霧で作られた分身。


 互角に渡り合う二人は、片方は笑顔で片方は真剣な表情をしていた。

 ひょうひょうとした動きで攻撃を捌く刀使い。雷使いの紅色のダガーを次々と弾き、懐へともぐろうとする。


 しかし、その時刀使いの動きが鈍る。


 あれ......動きが!? ゆっくりと流れ......!


 白の雷が紅い雷と混ざりあい、刀を持つ女の体に流れていた。

 その白い雷の効力に自分の気持ちや想いを相手へと伝えるといったものがある。

 それにより、雷を流されていた感覚を打ち消していた。



 違う! 私の体が痺れて動かないのか!!


 そこへ雷使いの蹴りが飛ぶ。直撃したそれに雷使いは気がついた。また霧の分身。


 雷を流す事には成功した。けれど、蹴りが入ったのは霧で作られた分身......いつ逃げる隙があったのだろいう?


 考える雷使いに、刀使いが声をかけた。



「......ふふっ。 さてと、今日はもう終わりかな」


「ええ、ありがとうなの、ナツメ」


「いえいえ。 でも、ステラ凄いね。 どんどん動きが良くなってる」


「ナツメはまだ全然本気じゃない......でしょ。 わかるのだわ」


 ナツメは少し微笑み、自分の前髪を撫でて言う。


「うーん、でも本気になったら......止まらなくなるからねえ」


 ナツメは殺人鬼だ。キラージャック。

 王都をかつて震撼させたお尋ね者。国の指名手配、危険度S+とされている人。

 今は私とある目的のために行動を共にしている。


「......そういえば、ステラの言っていたノアって人」


「ん?」


「王徒十二騎士でとてつもないスピードで功績を積み重ねてるみたいだね......各地の暴動を沈静化。魔力治療に貢献。他国へ赴きその紛争を終結。......ちょっと化物すぎない?」


「そうだね、ノアはとっても凄いよ」



 私の......勇者だからね。




 ◆◇◆◇◆◇




 みんな......僕が、必ずみんなの敵を討つから。


 王徒十二騎士。


 必ず......あの二人を殺して見せる。



「大丈夫か。 顔色が悪いぞ」


「うん、大丈夫だよ。 僕はまだ大丈夫だ......奴等を地獄に叩き落とすまで、死ねない」



「......地獄か。 確かにね。 この国には地獄へ落とさなきゃいけない奴が多い」



「オトイ。 まだ作戦の日は決まって無いの?」


「うん、まだだよ。 まだ鍵が揃っていない。 もう少しみたいなんだけどね」


「......そう」



 エルナの瞳が闇に染まる。




 ◆◇◆◇◆◇




 ガチャ......ギィ。



 カツーン......カツーン......。




「あら、また来てくれたの? とっても嬉しいわ......紅茶を用意しましょう」


 辺りを青い薔薇で囲まれた部屋。天井のステンドグラスが美しい。

 ここは神徒教会本部。そして、目の前にいる白髪の女性は大聖女のティアラ。


「いや、いいよ。 それより、次はどこで計画を進めているのか......いい加減教えてくれないかな」


「ノア......そんな事を聞かずとも、貴方は私達の計画を阻止できているでしょう」


「君が素直に教えてくれれば、俺が毎回ここへ足を運ばなくても良くなる......と、言うかもうやめてくれ、生け贄を用いた神器を創る儀式をするのは」


「ふふ......すごく良い眼をするようになったわね。 貴方が初めて此処に来てくれたのは、二年前くらいだったわね。 あの坊やが......もう貴方も立派な()()()()


 屈託のない笑顔でノアを見つめるティアラ。彼女は言葉を用いずこう言った。


 貴方は神の一人なの。私達の信仰する神では無いけれど、しかし偉大なる神には代わりないわ。

 死をもたらす神......ふふ。

 なんと神々しいことか。ああ、美しい。


 死は生から最も遠く近い。


 貴方は狩るほう。命の芽を。



「もういい。わかった......また来る」


 今日は会話にならない事を察知すると、ノアは早々に話を切り上げる。


「ええ、待っているわね」




 ヒラヒラと手を振るティアラ。




 しかし、この大聖堂には何かある気がする......僕の中の神力が共鳴している。







 ......




 死は生と表裏一体。



 死がなければ生は生まれず、育まれない。



 ああ、ノア。



 私の......私達のノア。



 サリアの功績ですね。素晴らしい......あれほどの器は他にない。



 待ち遠しいですね。



 彼を神器として取り込む日が。







 嗚呼、(いとお)しい。









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