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~56~ と勇者

 



 王はキアリクに、僕の封印具を外させた。


「......」


 辺りを見回す。沢山の人が僕と王を囲んでいる。

 すると王は僕の心を見透かしたように、心配ないと言う。


「優秀な結界師がいてね。 見えないだろうが、思い切り暴れても大丈夫だよ」


「......わかった」


 手渡された剣は、ロングソード。


 ヒュンと振り下ろし、王を見据える。


「さあ、来るが良い.....お前の力を見せてみろ」


 タイミングを見る。王の呼吸、まずは相手の手の内を知る。


 ――タッ......ヒュオッ!


 一瞬姿が消えたかのように見える素早い斬り込み。目で追えたのは場にいた数百人の内、実力者十数名。


 ――ガキィンッ!!!


 斜め下から振り上げるように斬撃を放つ。王は僅かな動きでそれを剣で受けていた。

 最小限の動き、そして非常にゆったりとしたそれに実力の差を知る。


「......!」


 ガギギギギッ


 力も王の方に部がある。押しきることは出来ない。

 ならば......。


「王様は......なぜこれ程の力を持っていて、人を犠牲にするの方法を選んだの?」


「......ふむ」


「貴方なら変えられるハズだ......これ程の力を持つ貴方なら」


「それが答えだからさ。 お前が今まで目にした、沢山の悲劇、そしてどうにもならなかった現実......お前もそれほどの強さを持ちながら、なにも出来なかっただろう?」


 王の言葉が心を貫いた。


 その一瞬の迷いという隙。脇腹に蹴りを貰った。


 剣が手元を離れ、カラーンと言う音と共に床へ落ちる。蹴りとばされた僕は、ごろごろと転がりやがて止まる。


 僕は、何も見えていなかった......そうだ。これは、驕りだ。


 僕にはこの力があるから、特別だから......この神器が最強といわれた証だから、何かがあるから。


 全てあの里へと置いてきたと思っていた。弱さも悲しみも、辛さも。

 でも違ったんだ......。


 外の世界にも沢山の弱さも悲しみも、辛さも同じくあった。


 僕は、何も出来なかった。里にいた頃と同じだった。


「終わりかな?」


「......いいや、まだだ」


 転がる剣を拾いあげる。


 里をでれば、何かが変わると思っていた。でも違った......違ったんだ!


 ビュオッ――!!



「なあ、ヘンリー。 あいつなんで能力つかわねーんだろな。

 神器持ってんだろ?」


「さあな......」


 ヘンリーと呼ばれる男は考える。その牙が王へと届きうる物であるか。

 彼の力をその戦闘技術以外のところで計っていた。やつは利用価値のある物か、と。



 キアリクは思う。


 彼はおそらく神器は使わない。どうやって戦えば良いのかを探っているんだ。

 力だけでは何も変えられない。それがわかったから必死に探さしているんだ。


 戦う術を。



 キィン!ガッ......カーン!!ヒュン――ギィン!



 幾つもの剣の撃ち合い。その剣技が、王へと届かないことは明らかだったが、その動きに何かを感じる者はいた。




 ふ......君の言った通りになったな。なら、約束を果たさねばならないね。


 シルフィ。


 お前の弟子は、とても良い勇者になったよ。





 王が体をよじるように、相手の横を抜ける。脚を後ろからかけ転ばせると、剣を叩き斬った。


 周囲からは歓声が上がる。素晴らしい!流石、王!美しい動きだ!様々な言葉が飛び交うなか、じっと見つめている者が三人。



 ???(ああ、あれは使えるな......王を落とすための布石にはなりそうだ。 先ほどのセリフ......彼の心の隙はあれだ。この国の何かに憤りを覚えているんだ。 そこをくすぐれば、あのタイプは簡単にコントロールできる。 問題はどう近づくか、だな)



 ???(危なかったな。あんな子供が、これ程の剣技を持っているなんて、どんな経験を経たらあんな技術をあの年齢で会得できるまでに至るんだ? とにかく、王に殺されなくて良かった......前に戦った男は真っ二つにされていたからな)



 ???(......ふふっ、面白い。 あれはアタシの獲物だ。 人形にして可愛がってあげる)




 王は封印具を、とキアリクへ頼み、僕を見据えて言う。


「君の負けだ。 まだまだ、だ。 だが......」


「君はまだ()()()()()()()......違うか?」


 !


 この目は......知っている。僕はこの人と同じ目をする人を。


「まだ......僕は戦える」


 うん、と王は頷いた。


「ならば見せてみろ。 お前が如何に未来を創るのか......」


 そう言うと王は周囲の観客を見渡した。


「皆の者」


「彼を我が国の力として迎えいれる! 無論、厳重な監視のもとで、危険性が高いと判断すれば、その場で即刻抹殺する」



 ――お前はまだ若く、何も知らない。


 世界を救う力を秘めていても、それでは迷いが生じる。


 だから......。



「お前は知るべきだ。 この世界を」



 キアリクに連れられ来た道らしき所を戻る。目隠しが無いのは処刑が伸びてここで仕える事になるから......?


 この先、どうなるんだろう。僕は......いったい。

 けれど、確かな事がある。


 このままでは守れないものが沢山ある。そして、今の僕では手の届く範囲でさえ、守れない......。


 強くならなければ、何も守れない。


 力だけじゃない。心も体も、知識も......。



 キアリクが話しかけてくる。


「ねえ、私、これからあなたの監視役で行動を共にすることになるから......よろしくね。 名前はキアリクよ」


「よろしく......お願いします」


「あ、それと......今の部屋覚えておいてね」


 ?


「これから毎日あの場へ行くのよ。 王が待っている。 こんなの異例中の異例なんだけどね......貴方を鍛えるんだって」


「僕を......? なんでそこまで......」


「わからないわ。 でも、そうね......世界を変えたがっているのは貴方だけじゃない、って事かな」


 世界を変える......。


 王は強かった。剣だけの戦いだったけれど、あの人は多分、ベルゴさんと同じくらいの強さを持っていた。

 強くなれるのかな......あの人に鍛えてもらえれば......。


 いや、強くなるんだ。


 もう、失うのは......嫌だ。


「ふふ......」


「?」


「良い眼をしているわね」



 キアリクは、何もかも見透かされそうな......その美しい紫色の瞳で僕を見つめていた。







 ◆◇◆◇◆◇






 ~二年後~






「――ノア・チェシャ・ハートキャット......」




「君を王徒十二騎士へと任命する」






 No.12 ノア・チェシャ・ハートキャット






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