~55~ 王
――ぽたっ。
――ぽたっ。
目がさめると、身体中に白い布が巻かれていた。
手足をベルトで固定され、身をよじる事すら出来ない。
動けない。
自由なのは、目くらいなもので、しかし目が自由なので、辺りを見回す事ができる。
あ、耳と鼻も利くしそれも自由と言えば自由か。
見える範囲にあるものは、扉が一つ。
天井には灯用の魔石を使った装飾が吊るされている。
部屋は全体的に白一色で、なんだか落ち着かない。
......。
ここは何処だ?
「......っ!」
身体中が痛い。僕は確か......あの時......そうだ、あの時。
ガチャ。
記憶を辿ろうと、ゆっくりと思考を働かし始めた時、ドアが開いた。
「......はぁ、まったく。 何で私がこんなこと。 どうせ今日も起きないわよ。 いや、今日どころか死ぬまで起きないのに。 もう半年この状態なのよ? いい加減にしてほしいわ......」
凄く不機嫌そうな女の子が入ってきた。
背がすごく低い。僕より年下のようにみえる......子供?
白髪で、腰の辺りまでありそうなロングヘアー。目はとても綺麗な紫で、まるで硝子玉のように透き通っている。
そして
「何が兵器利用よ......私だって忙しいのに......」
ん?
「......」
彼女と僕の視線が交差した。
「......え」
白髪の女の子は目を丸くしていた。動きがぴたりと止まり、十数秒の時がすぎた頃、口を開いた。
「お目覚め、ね。 さて」
そう言って彼女は腰に携えていたナイフを抜いた。
「殺しはしないから暴れないで。 少し血を貰うだけよ」
指先をちくりと刃物の先端で刺す......少しだけ血液が付着する。
それを彼女は指先へと付け、舐めた。
あ、え......な、舐めた......?見間違いか?
白髪の女の子は
「......え」
と、言った。
彼女は対象の血液を舐めると、相手の心と魂を見ることの出来る、《深心眼》と言う魔眼を持つ。効果時間は三分間で、再度同じ相手の心を読むには、また同じく血を舐めなければならない。
彼女は思った。これ程の美しい魂は見たことがない。
今まで、こうした尋問や戦いで、多くの人と魔族の魂を見てきたが、これ程の力強くて優しい......淡く碧翆に光る魂の形を見るのは、初めてだった。
この子は......そうか。彼がこだわる理由がわかった。
私を担当に指名した理由も......これは、魂を可視できるものなら、惹かれてしまう。
強く感じる。覚悟と悲しみ、そして強烈な意思の力を。
「――キアリクさん?」
扉の方から声がした。いつの間にか扉が開かれていて、白い帽子を頭に乗せた、糸目で金髪ショートの女の子が顔をひょっこり出していた。
「さっきからたたずんで、どうしたんです? って、あれ......え!? 目覚めてる!!」
「シータ......報告は少し待って。 とりあえず体調を確認してくれる?」
「キアリクさん、それ......命令違反なんですが。 いや、いつもの事か......」
「あまーいもの、食べたくない?」
「おっけー! そこどいてください!」
「はやっ」
機敏な動きで検査を始めるシータ。
「君は、どうしてここにいるかわかる? 貴方は長い間眠ってたの......記憶はある?」
問いかけ、心を読む。そのため彼女に嘘は通じなく、故に尋問を担当する事が多かった。
だが、キアリクがその相手に興味をひかれるのは初めてで、本来であれば、他に人の立ち会いを求め行う尋問だが、心情を一人占めしたいと思ってしまった。
これが、彼女の人生を狂わせる事になるのだった。
私は、この人の事をもっと......知りたい。
◆◇◆◇◆◇
「これは......?」
手首に赤色の手錠をかけられた。ちょっと大きい。あとゴツイ。
「封印具よ。 簡易的な物ではあるけれど、これはただ魔力、神力を抑えるものじゃない......自分へと帰ってくるの。 だから破壊不可」
成る程。力ずくで壊そうとしても、循環して破壊できないようになっているのか......。
ひんやりとする封印具の感触が、不思議と心地良い。
この白髪の子、名前をキアリクと言うらしい。金髪の女の子はシータ。お互いにそう呼んでいた。
キアリクが僕に幾つかの質問をしたあとに、また人が増えた。今、室内には僕含め六人。
キアリクとシータの他は男の人で、名前はわからない。わかるのは何かがあった時のための戦闘兵だと言うこと。
武器を皆携帯している。
そして様々な検査と質問をされ、数時間が経った。
キアリクが誰かと連絡用の魔石で話をしている。
それを終えると、僕は立たされ、目隠しをされた。次に、部屋をでるよう促される。
いったいここは何処なんだろう。
沢山の疑問と思いが出ては消えて行く。
けれど、不思議と不安は無かった。
「どこへ......?」
「......もうすぐよ。 足元、気をつけて」
キアリクが返す。
目隠しをされているが、周りに人がいるのがわかる。視線を感じる。
やがて僕の手を引いてた人の足が止まった。
「SS+死刑囚、連れてきました」
大きなドアがゆっくりと開く音がした。
目隠しを外される。
僕は、大きな部屋に連れてこられていた。
そして目の前には、金髪の鎧を着た男が、僕を迎えるように立っている。
そして思った通り、沢山の人が距離をとって周りにいた。皆僕を見ていた。
目の前の金髪の男が話し出す。
「君が......成る程。 ......さて、体調は如何かな? 眼が覚めてすぐに歩けるとは思っていなかったが......流石だね。 それでこそ、だ」
「あの......僕はいったい......。 どうしたらいいの? 早く皆の所へ戻らなきゃいけないんだけど......」
「いや、残念だが君は帰せない。 しかしここへ呼んだのはその事について、話をしたかったからなんだ」
帰れない......いや、僕は帰る。皆が待っている。半年も待たせているんだ。どんな方法を使おうとも、帰る。
「君は沢山の人を殺した。 故に今君は、重犯罪者として死刑になる予定だ......しかし、それを回避することもできる。 が、それには時間もおそろしくかかる」
「その内容とは、この国での兵力となること。 君の力は殺すには惜しい......だからこの国へと力を貸して欲しいんだ。 それに応じ、君の罪は軽くなっていく......簡単に言えばそんな話だ」
それは......多分、一生とか、そのくらいの途方もない時間がかかるんでしょ?
そんなの......
「が、もう一つ、道を用意した」
まわりがざわめく。「もう一つ?」「そんな話会議ではなかったぞ?」「何を言っているんだ?」と、沢山の人が口々に言う。
「この場で私と戦い、殺せれば君の罪を無くそう」
ざわめいていた場が一気にどよめきと変わり、側にいたキアリクが叫ぶ。
「な、なにを言っているんですか!? 貴方は自分の立場をご理解しておられるのですか!? 撤回してください!!」
キアリクの言葉を聞かずに、彼は剣を抜く。そして僕にも同じものを投げてよこした。
「......!」
「使うが良い。 能力もな」
「僕は、無駄に命を奪うことは、もうしたくない......」
「だが、このままではお前の時間という命が奪われるぞ? お前の守りたいものも守れないかもしれないな?」
守りたいもの――
そうか......じゃあ戦うしかない。僕には守らなければならない物がある。
これは仕方ない事。覚悟を決めろ。
「いい目付きだ......思い出したか。 何が大事かを」
僕も剣を抜く。彼はマイナと言う人に、今の会話を記録しているな?と確認をとっていた。私が殺されれば彼は無罪だ、いいな?と。
側のキアリクが僕に声を潜めて言う。
「......あなたに言っておくわ」
「今、あなたが戦おうとしてる人は、あなたの会いたがっていた人よ......この際、やってみるといい」
「あなたの想いをぶつけてみるの......」
「僕の......? 彼はいったい」
「あの人が......この国の、グライン王国の」
「王様よ」
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