~54~ 港町ミーナルの攻防 ⑨ 結
ステラの雷には、二種類ある。
一つは、高密度の魔力による紅い雷。
一つは、神力により形成される白い雷。
紅い雷は、王族の血を引くステラ特有のもので、高密度魔力による強力な破壊力を有する。
白い雷は、ステラの出生に関わるもので、魔力に強い性質を有する神力によって出来た《神器》である。
この神器は、ノアのように特殊な力が備わっていて、ノアの《心映》が対象の魂から記憶や感情を読み取り取り込むのに対し、ステラの神器は、対象に自分の心と神力を流し込むと言うものだった。
神器の名は《心移》。
――(......凄まじいな。 これが魔王の、王族の血筋。 ステラの成長速度はもはや俺の援護無しでも、あの状態のノアと互角に渡り合えている)――
「ノア! 大丈夫、大丈夫なのだわ! 私は味方! 貴方の......安心して!」
右から下から、上から斜めと次々と繰り出されるノアの腕と尾による変幻自在の攻撃を、ステラはその戦闘センスによりさばき続けている。
そして、ステラはノアの動きのクセを見極めた。
次......これで、決着をつける!
ステラの右足に紅い雷が集約される。接している地面に亀裂が入り、ぼろぼろと塵と化す。
「ベルゴさん!」
「私、これ打ったら、動けなくなるから、後よろしくなの!」
そうベルフェゴールに伝えると、左手に白の雷が集約される。その手には武器が握られていて、それはシウがくれた紅色のダガー。
そしてノアへ向かって突進する。その瞬間、ノアが右方向へと飛び退き、その着地地点を蹴りステラに対し、斜め横から飛び込んだ。
腕は全てブレード状になっていて、尾から鞭が伸びる。
――しかしそれはフェイク、本命は地中にあった。
ノアが地中をつたいステラの進行方向、前方に出した黒く大きい刃。
ステラの突進のスピードはもう止められる物ではなく、ノアの事前のフリの動きで反応が遅くなる。
しかし、ステラはものともしない。
紅の雷で強化されている右足で地面を蹴り、進行方向を無理やり変更。
ついでにノアの出現させた魔力刃をそれで粉々に粉砕。
そのままノアの四本のブレードを、体をひねり回転しながら次々と壊していく。
とどめに後ろ回し蹴りをノアの腹部へと放つ。吹き飛び、後方の海へと凄まじい音を鳴らせ突っ込む。
すかさずステラも勢いそのまま飛び込む。
今ステラの放った、多種の蹴りを連ねる連撃技は《紅蓮華》と言い、本来なら相手の四肢を、魔力で強化した蹴りにより粉砕し、とどめに心臓を撃ち抜く技である。(攻撃を受けた相手が真っ赤に血に染まり、とどめで華のように咲くため)
魔王城で暮らしていた頃の戦闘訓練で習った技だ。
ノア......!お願い!
帰って来て......!
ステラは海中で、ノアの胸へとダガーに纏わせた白の雷、《心移》を突き刺す。
届け......私の想い。
祈りながら。
◆◇◆◇◆◇
......赤黒い。
空に立ち込める雲は、雷雲のように黒く、しかし染め物のように所々赤い。
けっこう歩いたけど、出口......ないな。
周りには魔物や人の骸が散らばり、血臭と腐臭が漂う。
もう、無理なのかな。僕は......此処で朽ちるのか。
それもそうか、あれだけの命を奪ってなんの代償もなくすんなり戻れるわけがない。
幾つもの怨念が僕を閉じ込めているんだ、きっと。
下を見ると、白骨化した人の手が足首を掴んでいた。
想いが流れ込んでくる。――ドウシテ、コロシタノ――
ごめん。
言い訳の余地はない。
沢山の命を、殺さなくても良かった命を奪ってしまった。
だから。
だから、僕はこのまま死ぬわけにはいかない。
ごめん、僕は行かなきゃ......ごめん。
――ミシッ
――ビキビキ......バキッ
空が......ひび割れてる?
「――ノア!!」
「ステラ!?」
ひび割れた雲間から光が射し、その先に手を差し伸べているステラがいた。
「なんで、ここに!?」
「ノア! 手を掴んで!」
手を掴むなんて無理だと思われた距離。空にいるステラとは途方もない距離がある。
そう思っていたが、この世界は違うらしく手を伸ばすとステラの手をとる事が出来た。
手に触れた瞬間、世界の景色が変わる。辺りは暗く、闇に包まれ、幾つもの星のような光が周囲に散りばめられている。
僕らの体から重さが無くなり、ふわふわとしていた。
手が、温かい。ステラの想いが伝わってくる。
「ノア」
「あの時、あなたが私を里の人から守ってくれたあの時、私の心は救われたの」
「だから今度は私の番......」
ステラがノアの体を抱き寄せる。
そして、そのまま抱き締め、その頭を撫でる。彼女の体から白い光が発せられ、ノアの全身を包んだ。
「ステラ......ありがとう。 僕は一人じゃないんだね......いつだって君の想いが側にあった」
ステラはノアの目を見つめ、こくんと頷いた。
「僕は......まだ、君の勇者でいても良いのかな」
ノアがそうステラへ聞くと、彼女はクスクスと笑う。
「うん、私の勇者でいて。 ふふっ......でも、今は私がノアの勇者みたいだけれどね」
「あはは、確かに」
二人で笑いあう。そして――。
二人はこれから、未来へと向かい歩き出す。苦難の道だとわかっている。
だからこそ、約束を結ぶ。
「私が、ノアを守るのだわ。 あなたがまた挫けそうに、独りぼっちになるのなら私が側で支える」
「僕も、ステラを守るよ。 君が居場所をなくし誰にも弱音を吐けず泣いているのなら、僕が君の心を救う」
二人は誓い、そして。
――ゆっくりと唇が重なる。
世界が光で満ちて行く。
◆◇◆◇◆◇
ざぶ......ばしゃっ......。
鎧を着込んだまま海へと飛び込み、無事二人を発見し両脇に抱え上がってくる。
「......まさかあの状態から、本当に戻してしまうとはな。 これが魔王の血か。 いや、違うな......おそらく、ステラだから出来た事か......」
勇者と魔王の......か。故にその命を狙われたのだな。
確かにこれ程の力を持つ物が居れば、困る奴等もいよう。
そして、ノアもまた......おそらくまだ、神器以外に何かを持っている。
こいつは......これからの生き方によって、鬼にも悪魔にもなりうる。
勿論、英雄にも勇者にも。
ベルフェゴールは、連絡用の魔石を耳元へ当てる。
「......俺だ。 今から勇者を一人連れ帰る。 危険度はSS+。 封印具の用意を頼む」
「ノアを......どこへ?」
「アレオス......ノアは最早、逃げることも出来ない。 おそらく俺が拾わずとも他の腕利きがノアを殺すだろう。 今の昏睡状態のノアであれば容易に殺れる......そして、殺したい者は多い」
「......」
「ベルゴさん......」
「すまない。 俺はこの国が......レナ、そこを退いてくれ」
ベルフェゴールは側に突き立ててあった、バルバトスを拾い封印を施す。
バシュッっと言う音と共に白い布のような物が巻き付いた。
そしてステラをそのばにゆっくりと寝かせ、ベルフェゴールはノアを抱えたまま闇の中へと消えていった。
「......ノアさん」
キュウ......と、リンドは困ったように、レナを見上げ鳴いた。
◆◇◆◇◆◇
~半年後~
王都ー王宮会議室ー
――こいつは殺した方が良いだろう。
......制御できない力は持たぬ方が良いさね。
いや、これが兵器として機能すれば......我が国は最も力の持つ国となるぞ?
んまあ、あの悪魔......七つの大罪ちゃんが制御するわさ。
拾ってきたんだから、責任があるでしょ?
いや、そうではなくてだな、あれが暴走してしまえば......くっ。
では、こうしないか?あれを完全な兵器として運用する。
どうせもう意識は戻らないだろう。
例の技術を使い、欲しいものだけを抜き取る......皆のもの如何か?
十人中......挙手、八人。
王よ、どうでしょう?危険性を考慮すればこれが最善かと。
......そうだな。




