~52~ 港町ミーナルの攻防 ⑦
......私......ノアの、黒い爪がかすめて......。
エルナとレナが何か叫んでる。
ステラは血溜まりをつくり、力なく体を横たわらせている。
多分、死ぬのだわ......。
でもノアに殺されるのなら、私......。
死を覚悟し、目をつぶるステラ。ぽつり、ぽつり......いつの間にか雨が降り始める。
そして深い眠りへと、彼女は招かれた。
――
―――
――――様
......ステラ様。今からあなたに魔力封印の魔術と魔法をおかけします。これは、お父上の御意向です。少々、お待ち下さい。
私の身の回りを世話してくれていたミアラがそう言った。
私はこれからどうなるの......?
木々が生い茂り、薄暗く心さえも蝕みそうな陰鬱なふんいきの森。
私はここへ置いていかれるそうだ。でも、私も王族の血をひく者よ......不安そうな顔を見せてはいけないのだわ。
毅然とした態度でいなければ。
術をかけおわったミアラが独り言を言う、これで神力は抑えられた......あとは魔王様から預かったこの魔力封じの魔法を......。
私は、ミアラに物心つくまえからお世話になっていたらしい。
だから、ここでミアラとお別れをするのが、この森に置いていかれる事の方よりも辛かったりする。
厳しい戦闘訓練、勉学、教養、そして、御姉様方の厳しい躾......それらを耐えてこられたのは、間違いなくミアラが居てくれたから。
「ミアラ......今までありがとうなのだわ......」
思わずミアラに対し、お礼の言葉がこぼれ出た。それを聞いたミアラはめをまるくしたのち、今まで見たことのない悲しい表情になった。
「......ステラ、ごめんね。 私......あなたを守るって......い、言ったのに」
泣き出したミアラに私は微笑み、そして言う。
「また......会いましょ、いつか、必ず」
私の頬にも涙が伝う。
とても悲しかったから。
もう二度と会えないのはわかっていたのだから。
そして私は独りになる。今までは常に回りに人がいて、困ったことがあれば使用人の方々が助けてくれた。
私は本当に孤独なんだと、不安に苛まれはじめる。
森に入り数日が経過し、食料や水が尽きはじめた。
急な事だったので、十分な量も持って来れず森を抜ける前に殆んど無くなってしまった。
「もう、あとパンがひとつ......これは、出来るだけとっておくのだわ」
しかしそのパンはステラの口にも鞄にも入る事は無かった。なぜなら矢による狙撃で吹き飛んでしまい、跡形もなくなってしまったのだ。
「魔力、全然感じない......」
「まじだな、魔族なのに......なんだこいつは」
声のする方を見ると男が二人いた。
私はすぐにわかった。殺される。
鞄もなにもかも捨てて逃げたが、その人間の追跡能力が高かったからか私は何度もみつかり殺されかけることもあった。
それが繰り返され、私の体も精神も限界に達する。
お腹、空いた......。
ぼんやりと見える、空に伸びる煙。
建物が見える。......食べ物あるかな。
一週間と数日のサバイバルと門番との戦闘で、ステラの思考能力は正常な判断が出来ないほど低下していた。
暗く日差しの入ってこない森を抜け、人里に侵入した。
しかしそこで限界が訪れた。
ステラは、操り人形の糸が切れたように、その場に倒れ込む。
あ、私......このまま......死ぬのかしら。
でも......それでもいいか。だって、生きる意味......ないもん。
大切な人がいた私の場所は、もう私の場所じゃ無くなってしまった。
だから......。
そしてステラの意識は落ちていく。
誰かの近づいてくる音がする。そして、意識のはっきりしない私が聞いたのは。
「......綺麗だ」
優しそうな少年の声だった。
◇◆◇◆◇◆
すでに勝敗の決しているこの戦いに、何故ノアが逃げずに挑んでいるのか、理由はわからない。
逃げられないと感じているのか......あるいは。
ズバッ!!ガッシュ!!!ガキィン!!!
幾重にも及ぶ互いの攻撃、打ち合い。その場へ駆けつけた旅人には腕に覚えのある者、戦いで名のある者もいたが、誰も援護すら出来ずに遠くからそれを見守る事しかできない。
近付けば死ぬことは明白で、その戦いが次元の違うものだと理解できた。
「あれが......最強の騎士ベルフェゴール。 とてつもない魔力と、動きだ......それに、太刀筋が美しい」
「そしてそれと互角に戦うあの化物は......一体」
「あの化物、動きがどんどん早くなってきてねーか? 攻撃を貰う回数も段々と減ってるような......」
戦い続けることにより、ノアはベルフェゴールからその技と戦闘における動きを学習していた。
そして少しずつではあるが、その力に、高みに近づきつつあった。
そして
キィーン......!――カンッ......。
ついにノアがベルフェゴールの鎧の装飾を斬り落とす事が出来た。
はじめてまともに入った攻撃だった。
......ノア。
どうした......迷っているのか、俺は。
俺は、ノアを殺したくないのか。
......いや、それでも。ここで捕らえても......おそらくノアはどの道処刑だろう。
これはやつらも裏で見ている。
ならば、俺がここで殺してやる方が良い。
お前の命を我が剣に......!
せめて苦しませずに、その命に届かせる!
「......ノア」
ノアは先程のパターンをもう一度試そうとしている。ベルフェゴールへ届いたものと同じパターン。
しかしそれは、ベルフェゴールの迷いから生じた隙であり、届いた攻撃。
もう、ベルフェゴールにそれは無かった。
「眠れ」
今までに無いほどの速度でバルバトスが振り下ろされる。狙いはノアの頭。
ギィギギッギギキッキキィィィィィイッイイギギ――!!!
バルバトスが悲鳴をあげるような魔力による異音を放つ。
その攻撃速度は、反応できるそれを越えていて、ノアは全くガードも回避も間に合わなかった――
が、それがノアへと直撃する寸前
ノアとベルフェゴールの間に紅く美しい落雷が落ちた。
その破壊力と魔力質はとてつもなく、落ちた場所は砕け散り、白と紅の雷が滞留していた。
そしてその威力たるや、二人が数十メートル引き退く程であった。
バチチッ......ジジジッジジ......。
「ノア、助けに来たのだわ!」
声のする方、そこにはレナとアレオスそして
白と紅の雷を纏っている、ステラが立っていた。




