~51~ 港町ミーナルの攻防 ⑥
ノアは、駆けつけた四人の自警団のメンバーと、蒼の四騎士、ナツメに重症を負わせた。
その圧倒的な攻撃に対しなす術も無く、そしてどんどん膨れ上がるノアの魔力量に場の誰もが死を覚悟する。
辺りは地形が変わるほどの力にさらされ、大樹は倒れ地面はいたる所が抉られ、近くにあった民家等の建物もノアの攻撃によりほぼ跡形もなく破壊され見る影もなかった。
もはやその力は魔界の高位魔族と何ら遜色が無い程だった。
が、しかし突如ノアは何かを目の当たりにし、苦しみだす。
その何かとは......。
血まみれになったステラだった。
そして、ノアは逃げるようにしてその場から消えたのだった。向かった先は、温かな笑顔の飾る住民街。
そして、彼は人の温もりをいただきに......お返しに死をもたらす。
死神が落ち生じる。
ギガガガアァアアァアアア...ガガ..ッ.:!!!
町民が犠牲になった。なんの戦闘経験もない彼等は、まるで紙屑のように噛みちぎられ、引き裂かれ、叩き潰された。
倒壊する民宿、武器屋......公園の遊具。
ただひたすらに血を求め、破壊を求め、死を求める。
全てを壊し、殺せと呪いのように魔力がうねりまとわりつく。
そして、ノアは目の前に逃げ遅れた母子を発見する。
「あ......ああ......どうか、この子だけは」
「お母さん、お母さん......うわあああん」
ビキビキビキ......!!ミシッギギギギ......!!
高質化する黒い刃。
ゴギァアァアッアアァアアアア!!!
まさに死神の鎌。二人に振り下ろされた。
ガギィイイイィィィーン......ッ!!!
しかし、その刃は母子へと届く事はなく、突如現れた男の大剣に受け止められた。
「ノア......そうか、お前だったか。 間に合わなかった......か」
間一髪で母子への凶行を阻止した黒い鎧の男は、悲しそうにそう呟いた。
ノアの斬撃は、魔力の上昇とここまでの戦闘による学習で、とてつもない威力となっていた。
この町に滞在する者ではもう勝てないレベルの戦闘力。
魔力と神力の操作技術と体術の技量が、この国で五本の指に入る程のモノとなっていた......が、偶然か必然か、その最強の魔物ノアをも止められる男が数時間前、この町ミーナルへと来ていた。
名をベルフェゴール。七つの大罪であり、王徒十二騎士を束ねる、この国最強の騎士長、そして......
ノアが旅を共にした、ベルゴであった。
「......飲まれたか。 こうなってはもう戻れまい。 せめて苦しまないようにその命、落としてやろう」
ゴア ア ア ア ア ア ギ ギギア ア アー!!!
あ イ あ あ げ ゲ げ げゲが がガ が がー!!!
ノアの叫びが、全てを呪い殺してしまいそうな、悲しみと憎悪にまみれた声が響き渡る。
ベルフェゴールの右手には、布でくるまれた大剣があった。
それに施されている封印を、手をかざし解除すると、シュル......バサッと言う布が落ちる音と共に、その大剣が姿を現した。
「魔剣、バルバトス」
その大剣は、まるで骨から作り出されたような色と見た目で、刀身には所々に黒い穴が空いていた。
そして剣先からは、薄く赤い魔力が一筋立ち上る。
ベルフェゴールがバルバトスを解放した数秒後、ノアの口から放射された神力の波動に撃ち抜かれ、吹き飛んだ。
後ろにあった一つの二階建ての住宅が貫かれ、出入口とその向こうに大きな破壊痕の道ができた。
本能的に、ベルフェゴールがそれまで戦った誰もを越える、次元の違う強敵だと確信したノアのとった行動は、まず神力で魔力を削る事。
今のノアに理性や思考能力は無いが、本能で動くノアに迷いもなく、故に迅速な攻撃に移ることができる。
しかし、壊れた家のそこから現れるベルフェゴールは、傷の一つもなく歩いて戻って来た。
そのバルバトスで攻撃を受けたのか、蒸気のような赤い魔力が昇る。
「成る程、神器......お前のそれは、魔力を引き寄せ纏うように動いているのか。 身に纏う魔力は自身の物では無く、他の魔物の魔力を吸収する事で、その魔獣のような体を形作っている......」
「魔力がある者が存在する限り、お前の魔力も尽きることはない......見たことの無い能力だ」
ズザッ!!ギィイイーン!!!
突如、地中を伸び元から出現したノアの刃を、ベルフェゴールは大剣で反らしガードした。
「!」
しかし、それはノアの意識をそちらへ向けさせる為の布石であった。
大剣をガードに使わせる事で、動きを縛る。
ノアが視界から消える。
気がつくと、辺りを黒い魔力の煙が立ち込めていた。
......ノアの纏っていた魔力の煙幕か......。
するとその霧の中からノアが大きな口を開け突進してきた。
しかしベルフェゴールが、大剣へと魔力を込めると、刀身にある黒い穴が赤く光だし、稲妻のようなものが発せられ魔力が跳ね上がる。
それにより、ノアの突進を瞬時に大剣でガード......するのかと思わせ、カウンターで体に一閃を喰らわす。
ゴガァアアッ......ッ!!!!
――ドゴオオオォーン!!
ベルフェゴールが先ほどノアの一撃の元、吹き飛ばされ破壊された家を今度はノアが違う角度から突っ込み突き抜けた。
二階建ての家は、大きな轟音をたて崩れてしまう。が、それも二人の気には止められず殺しあいは続いた。
◇◆◇◆◇◆
「ステラさん......血が......止まらない!」
レナの顔が悲しみをおおい、絶望の入り口を見る。
このままでは確実に、あと数時間もしないうちに死んでしまう。
そう確信させるくらい傷の状態は悪く、ステラの顔色は悪かった。
「ま、間に合ったか!? はあはあ......」
エルナとレナが、その聞き覚えのある声に振りかえる。
そこに立っていたのは、全力で走って駆けつけてくれたのか、腰を折りぜえぜえと荒い息を吐くアレオスだった。
「なんでここに!? アレオス!?」
エルナが驚き、レナは泣きながら助けを求める。
「アレオスさん......ステラが! 死んじゃう!」
アレオスの目付きが変わり、杖を構える。ステラは魔族、なら魔法を使える。......大丈夫だ。
「大丈夫、必ず僕が助ける」
アレオスは、かつて助けられなかったレナの母を思った。そのレナにとって、また大切な存在が消えようとしている。
そんなのは......ダメだ!
次こそは、必ず......救うぞ、僕は!
ステラの体に癒しの光が、その蛇の巻き付く杖から流れ込む。
◇◆◇◆◇◆
「......ノア。 どうする。 このまま黙って死ぬか?」
ベルフェゴールの戦闘力は圧倒的だった。
そのバルバトスと呼ばれる魔剣には、ノアの纏っている魔力が非にならない程の異様な質量の魔力が宿っていた。
封印を解除し発動させたバルバトスは、その武器自体の破壊力の増加は勿論、使用者の身体能力の大幅強化をもたらした。
ノアは武器として使っていた四本の腕を全て切り落とされ、片足も失っていた。
魔力を吸収し、また再び失った腕と足は再生するが、復活したところでベルフェゴールには勝てない。
ノアが殺されるのは時間の問題となっていた。




