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~50~ 港町ミーナルの攻防 ⑤

 


 その、漆黒の魔力を纏いし狼のような魔物は、明確な殺意がありそれに応じるかのように身体中から黒いオーラが発せられていた。


 そして、騎士隊長は結界を壊された事により、《四重奏蒼電》の能力が解除された。それにより魔力が空になる。


「なんという、禍々しい魔力なのだ......これ程の力は見たことが無い」


 ――(......しかし結界はなぜこれ程までにあっさりと破壊された? 結界を破壊した物......死体に何かあるのか? ......これは、矢?)――


 蒼の四騎士隊長の雷結界により、焼け焦げた片腕の無い死体には無数の矢が刺さっていた。


 キキッ......キキキキキキキ!!!


 不気味に笑いだす魔物は、ゆっくりと姿勢を低くし攻撃に移ろうとした。

 肩と腰から伸びている長い四本の腕が、ブレード状に形成される。尾は鞭になり、ヒュンヒュンと振り回している。


 体中からおびただしい量の魔力が、ドロドロと天へと昇るように流れ出している。

 まるで夜の闇へと溶けるように。


 ナツメは妖刀を構える。妖力が騎士隊長との戦いで、空になってしまっていて、もはや霧の結界すら展開する事も出来なくなっていたが、エルナやステラ、ノアを殺させる訳にはいかない。



「......私の友達だからね」



 ナツメは生まれてから親に虐待を受けていた。

 何気ない小さな事で、殴る蹴るなどの暴力を受けた。酷いときには刃物を使った躾を受け、死にかけるほどの怪我をおわされることもあった。


「ナツメ、私はあなたの事が大切なの......わかる? だから、こうするの」


 その暴力は最初、(しつけ)の意味合いがあったが、時が経つにつれ、それはストレスの捌け口としての行為になっていた。


 そして、親の理不尽な躾にナツメの思考と性格が歪んでいく。


 そうか、暴力は好きな人にする行為なのか......確かに、この痛みも悲しみもそうなのかも。

 私の体に刻まれる傷痕......それは証なんだ。愛の証。


 だったら、私もお母さんとお父さんにちゃんと伝えないと......大好きだよって、愛してるよって。()()


 そして沢山の愛を受けたナツメの両親は、赤く綺麗に飾られた。


 今まで感じた事のない感情と、充足感......押し寄せる快感。

 それからナツメにとっての殺しとは愛情の表れとなった。


 ――(私が三人共、殺してあげなきゃ......だから絶対ここでは死なせない。 だって、お店での会話も楽しかった、この子達の事が好きになった。 大切だから......絶対に逃がす)――


 そして、ステラ、レナ、エルナはナツメにとって初めてできた友達だった。



 ◇◆◇◆◇◆



「とてつもない魔力を感じる! あれは......民宿街の近くの森だな」


「どうしますか、領主とは連絡もつかないですし、我々の判断で現場へ行くことは......」


「いや、この町には蒼の四騎士がいる。 連絡がないということは、彼等が対応している可能性がある......」


 この町には、領主の有する蒼の四騎士以外にも町を守る組織、自警団がある。彼等は四騎士の下の位置にあたる者達で、約百名の組織である。

 基本的には領主の指示がなければ動く事を許されていない。しかし、正義感の強い者も多く裏で動く者もいて、それにより救われている人民も多く、町民からの信頼も厚い。


「確かに、蒼の四騎士に見られてしまうと、それはそのまま領主へと伝わってしまう......」


「組織の維持に使用している資金は、領主からの物だ。 以前にもあったろう......拐われた子供を救いにいったのが見つかり、資金を減らされた事が。 維持費がなければ武器を買うことはおろか、生活すらできん」


「......けど、あの事件はおかしい。 なんで人が一人拐われているのに蒼の四騎士は動かなかったんだ。 生け贄でもないのに......」


「他にも明らかに魔物が絡んでそうな事件には、奴等は動かない......領主は......やはり」


 やはり裏で領主魔物以外の魔物や魔族と繋がっているのでは?と、言いかけたところでリーダーの男に遮られた。


「そこまでだ。 お前さん、命惜しくねえのかい? 誰が聞いてるかわからねーんだぜ。 滅多なことは言うない」


 彼の言う事はもっともで、その以前あったという子供が拐われた事件は完全に自警団だけでの解決で、領主とその周辺へは話が漏れないよう徹底していた。

 しかし、領主は情報を得ていた......つまり内通者がいる。その可能性が高い。


「連絡がない以上行動は出来ない。 が、いつ出動要請がくるかはわからん......町の見回り組以外は待機。 見回り組は行くぞ」


「はい!」「うぃっす」「はい」


 そしてリーダーはサブリーダーであるメガネの女に、後は頼むと言い巡回へと出掛けていった。



 ◇◆◇◆◇◆






 ――真っ黒な壁。



 床は白と黒の正方形で埋め尽くされている。




 ここはどこだ?



 あ、誰かが座っている。



 腕が四本......褐色の肌。




 彼はまさか......。






『......ああ、お前か』




 振り向く彼は、以前僕が殺した魔族の男。




『派手にやっているみたいだな。 もう正義の味方ごっこは卒業か?』



「ごっこ......ははっ。 確かに」



「わかったよ、君が言っていた言葉の意味が。 この世界は地獄だ......あまりにも暴力と悲しみが多過ぎて、あまりにも......簡単に命が消えていく」



『そうね。 目に写るもの全てが儚い......まるで夢のようね』



 後ろから、かつて僕が殺した女が話しかけてきた。




 夢か、そうだ......これは全部夢だ。でも醒める必要はない。



『......私はね』



『妹がとても大切だったの......両親を失い、妹と二人きりになって......その妹も奪われてしまった』



「知ってるよ。 君の記憶は僕の中に流れ込んで、ちゃんと理解している」



『そう......』



『少年......俺は、お前には正直に話をすると言ったことを......覚えているか』



 男の燃えるような赤い目が僕の目を見つめる。





『それは、その想いは、()()()......背負うものではない。 置いていけ』



「え......なんで......いやだ。 僕は」





『罪悪感で押し潰されそう?』




 女が僕の頬を撫でた。



『何もわかってないわね......やっぱり貴方は何も知らないただの子供』





「それは......当たり前だ。 知らないよ! 今の今までだってお母さんが僕の為に神器になった事だって忘れていたんだ! 僕は何も知らない......そして」



「君の言うとおり......僕はもう、争いを生む側だ......」



「だから、もう知る必要もない......僕はこのまま誰かに殺される。 それでこの悪夢が終わる。 それだけだ」




『......貴方は私のこと知らない』



 私の......サリアさんの、事。



『思い出せ、少年。 お前は俺たちの想いを......繋いでくれると、そう言ってくれた......』



『そう、ノア、憎しみだけを糧に進んではいけないわ』



『お前が俺たちから継いだものは、悲しみや怒りだけではないだろう? 思い出せ、お前が戦う本当の理由を......!』






 ――




 ――お姉ちゃん、私がお姉ちゃんにご飯作ったんだよ。嬉しい?えへへ――




 ――トウガの兄貴、俺はあんたがいて救われた......兄貴も? ははっお互い様ってやつですかね――




 ――サリア、これ、どうかな? 綺麗なお洋服でしょ、似合うと思って。 いいのよ値段なんて気にしないの......いつも沢山頑張ってるんだもん。 ご褒美よ――




 ――トウガ! ははっお前、まだ生きていたか! 酒飲むぞ!――




 ――わー! 綺麗なお星さま! お姉ちゃん、お願いした!?――




 ――トウガ......さん、俺、幸せだったよ。 あんたと馬鹿やって、毎日......楽しかっ......――




 ――サリアさん、ありがとう――





 ――




 ......そうか。



 憎しみや、悲しみだけじゃない。



 二人とも、それだけじゃない。確かに幸せがあったんだ。



 だからそれを守りたかったんだ。



 戦う理由......僕の。



 憎しみじゃない。悲しみじゃない。





 そうだ、僕は......。




 ステラ。



 レナ。




 エルナ。




 アレオス。




 皆といて僕は楽しかった、幸せだった。




 だから戦うんだ。





『そう、憎しみを背負う必要はない......守りたい気持ちと大切な人への想いだけを......』




『お前は争いを生む側だ......しかし、お前のその優しさは、きっとそれを断ち切る事ができる』



『私が......私達が、今こうして貴方の力になっているように......』




『未来へと繋げ、ノア』






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