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~49~ 港町ミーナルの攻防 ④

 


 奴はなんだ?......魔獣?いや、違う。


 俺は、沢山の魔物、魔族を狩り、果ては魔界の高位魔族ですらも倒したことがある。......だが、これ程迄に禍々しく強大な魔物を一度も見たことが無かった。


 奴は......一体......。


 うねる魔力の体、まるで黒い炎のように揺らめき、その狼の形の体型の肩と腰からは太く長い腕がはえている。四本はえているそれとは別に四肢があり、それも獣の物では無く、人の手足があった。


 眼と口からは、絶えず立ち上る碧翆色の神器の粒子。



「なんつー魔力量だよ......どう倒す」


 と、ガルデアが思考を巡らせていると、とてつもない速度で黒い鞭が飛んで来た。


「おわっ!?」


 ギリギリ斧を盾にし、ガードすることに成功したがその威力は凄まじく、付近にあった木を薙ぎ倒し森の深くへと吹き飛ばされた。


 そして、その数秒前、ミミが気を取り戻し戦場へと戻ってきた時眼にしたのは、狼のような姿の異形な魔物が尾を鞭のように変化させ、ガルデアに攻撃していた瞬間であった。


 ミミはその直後、弓を構えた。


 ――(こいつはヤバすぎる、全力で殺らなければこちらが殺られる......!!)――


 ミミが構えたこの弓は、王徒十二騎士がその座についた時に王から渡される「宝王器」という武器の一つだ。名前を《王魔弓滅》と言い、内蔵された神力により、射ち出した矢は魔力を消滅させる。


 ――(奴が魔物なら、この矢を当てさえすれば勝負は決する。そう、当たりさえすれば、奴の魔力は矢により消滅し続け、そしてやがて枯渇し動けなくなる......そこをたたく!)――


 ギリリリ......バヒュッ!!


 放ったミミの矢は真っ直ぐにノアの体を目掛け飛ぶ。ノアはその肩からはえている腕の形状を一瞬で変え、自分の体ほどの大きな盾を作り出し、矢を防ごうとした。


 が


 しかし、ミミの矢は魔力を消滅させ、ノアの盾に穴があいた。そして、見事にノアの右肩へと深々と突き刺さる。


「よし、これで......私の勝ちだ!」


 しかしそのとき。


 メキッ......ドゴオオオォォッ!!


「ぐぶっがっ!?」


 ミミの足元から、二枚の巨大な黒い刃が天に向かって伸び、彼女の胸部を深々と貫いていた。それがノアの攻撃だとミミは自身を貫いている刃の禍々しいオーラに触れ、確信する。


「こ、こいつ......ぐっが」


 口と傷口から大量の血を流し、意識が飛びそうになりながらミミは思った。


 私は対峙した時、奴の事をただの強大な魔力を有する魔獣で、理性も何もなく破壊の限りを尽くす、程度の違うだけの魔界の魔物と同じだと考えていた。

 だからこそ、消耗戦に持ち込み魔力を削る事で、容易に勝てると踏んでいたのだが......違った。


 ズシュッ!――ドシャッ。


 刃を引き抜かれその場に倒れ込むミミ。


 しかし、ミミはそのまま絶命しなかった。なんと、一瞬にして体が修復、復活を果たしたのだ。


 これがミミの有する二つ目の能力。

 ある島の不死の鬼と呼ばれる「屍鬼」は《屍鬼の魔眼》による超再生能力を使う。その魔眼を持っているミミは、同じように再生能力を使うことが出来る。


 《屍鬼の魔眼》

 まず、命のストックは五つ。全て使いきると勿論死んでしまうが、最後の一つが消費された後、数分間は生きていることができる。(この間はいくら致命傷や命を失うレベルの傷を負っても復活し続ける)

 命のストックは時間経過で補充される。一つつくられるのに約七十二時間。


 ミミは後悔する。交戦開始時にストックを一つ使ってしまったこと。

 不死の能力を見せる事で、ノアを精神的に揺さぶれると思い使用したが完全に悪手となってしまった。

 そしてミミにとって、予想外の事が起こっていた。


 ――(......矢は刺さっているし魔力を消し続けてもいる。 しかし有り得ないことに、その魔力に底が見えない。 このまま消耗戦になれば負けるのはこちらか)――


 ズギャッ!!!


 地中からの攻撃がまたミミを襲う。それを飛び退き回避するミミ。


 三つもある命のストックが心許ないと思える程の、強敵と化したノアだったがまだ勝てる可能性があると彼女は思っていた。

 そして、ミミはガルデアの元へと走り出す。

 ガルデアの能力を上手く使えばノアを殺れると思い、誘導を兼ねて移動する。


 はずだったが、ミミの両足はノアの尾でつくられた黒い鞭により一瞬にして斬られてしまう。

 突然支えを失い勢い良く転がるミミ。そこをノアがとてつもないスピードで突進、追撃する。


 ミミは辛うじて腕を交差させノアの噛みつきをガードできたが、両足のない状態で突進を止めることは出来なかった。

 ノアにくわえられたまま、ミミは森の中の木々にぶちあてられながら進む。

 その突進の破壊力は凄まじく、大きな大木であろうと粉々にしてしまう程であった。


 そして、吹き飛ばされたガルデアがやっとの思いで戻ってきて眼にしたものは、血みどろの噛み潰されたミミの姿だった。


「......ッ!」


 ガルデアが斧を構える。ノアの後ろの方角から木々の倒れる音と振動がする。


 ノアが、ガルデアに向かって、ぶんっとミミを放り投げた。それに気をとられノアから目を離した瞬間、ガルデアの左腕がスパンと斬り落とされる。


 ――(......っぶな! 首を、狙っていたッ!! 危なく死ぬところだった!!)――


 ガルデアは腕を失いながらも、ミミを空中でキャッチすることに成功した。

 宙に放られた瞬間から、命のストックを消費し体が修復され、ガルデアがキャッチする頃には元に戻っていた。


「ミミ、お前......あとストックいくつだ?」


 ガルデアはがミミの顔を見ると、今まで見たことのない表情を浮かべていた。

 それは恐怖と畏怖、今までの戦いにおいて交戦したことのないレベルの敵、死の迫る感覚。


「......あと、一つだ。 わ、私は......どうしたら。 王魔弓滅も効かない......」


 そして、ガルデアもノアのスピードにはついていけていない。それを目の当たりにしたミミはもはや心が折れていた。


 ノアが大きな雄叫びをあげ魔力を大概へと放出する。あまりの魔力量に周囲のものが飛ばされ、破壊される。


 ガルデアが呟いた。


「......しっかりしろよ。 殺らなきゃ殺られるだけだぞ。 ミミ......お前、変えるんだろ? この国を!」


 その言葉がミミに我を取り戻させた。



 ◇◆◇◆◇◆




「終わりだ!!」


「......! しまっ」



 蒼の四騎士隊長がナツメの頭を貫こうとした時、突然雷の結界が壊された。


「!? 私の結界を!? 誰だ!?」



 結界の破壊元には、ぶつけられたであろう、黒焦げた片腕の無い死体が転がる。



 そして暗闇の奥からゆっくりと現れたのは、禍々しくも美しい燃えるような黒い魔力を纏う狼のような魔物であった。



 ステラが言う。



 ――ノア......?









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