~47~ 港町ミーナルの攻防 ②
「し、死んだ......はずじゃ......」
「残念。 もしかしたら、外してしまったのかもしれないな......?」
怪しげな笑みを浮かべるミミ。
そんなバカな。確かに当たっていたのを見ている。どういう事だ......。
と、ノアが動揺していると、レジスタンス拠点から聞こえる、断末魔にも似た悲鳴が更に焦りを増長する。
ノアはすぐに神器を弓から、ロングソードへと変化させ敵へと向かい走り出す。
「!? 神器の形状を変えた!? ......いったい......貴様は......」
会話に付き合っている暇は無い。とにかく、早くこの人を倒して皆の元に助けに行かなければ。
ギイィン!カァン!ヒュオッ――キンッッ!!
ノアが斬りつけるが、ミミは綺麗にその斬撃を捌いていく。
そして、斬り結び直ぐに理解した。この人の方が強いと。
戦闘開始数手で勝てないと思わされた、初めての敵だった。ここでノアの思考が鈍り、更に混乱が加速する。
どうしよう、僕が勝てると思って始めてしまった戦い。そ、そうだ、さっきの悲鳴......拠点はどうなっている?
誰か死んだのか?ガンディーはハイムはライカムは......い、いや、ダメだ。ダメだダメだ。そんな事を考えてこの人を倒せない。
......そもそも、倒せない。倒せない。
逃げる?出来ない。さっきが逃げる最後のチャンスだった。それを僕が......。
皆は無事か......ステラは?レナは?エルナは?
――はっ!?
ドガッ!!
ノアの腹部にミミの伸ばすように出された、踵が入る。
そして、回るように脚を払われ、ノアは完全に倒され地に伏した。
「......っ!!」
「うん? どうした? 酷い動きだな......本当なら、もう四回は死んでるぞ貴様」
その痛みにうずくまるノア。そして、顔面へと蹴りを入れられ、ごろごろと転がる。ノアの意識が暗い闇のそこに落ちていく。
悲鳴が......聞こえる......。
やめて......皆を......殺さ......。
『さようなら』
◇◆◇◆◇◆
ビュオッ......!!
「ッ......!」
「!」
エルナとナツメが戦う中、霧を引き裂くように文字通り横槍が入った。二人の間に突き刺さる蒼く美しい大きな槍。
「貴様ら、こんな場所で何をしている。 !......おまえ、その妖刀は」
「あ、しまった......時間かけすぎたか」
ナツメがペロっと舌をだし「しまった」と言う顔をした。
「もしや、王都の殺人鬼、か......? なぜこのような場所にいるかはわからんが......我々、蒼の四騎士に見つかったが運の尽き。 ......お前達、こいつは生け捕りは無理だ。 殺すぞ」
「あー、やっぱりその鎧、領主直属の蒼の四騎士か。 巡回中だったか。(いい獲物が来たな......美味しそう。 けど、エルナ達はどうしようか)」
エルナは瞬時に理解する、これは逃げるチャンスだ。上手くタイミングを見計らい、ステラとレナを連れて逃げよう。そして町を出てナツメから姿を隠ないと......タイミングが大事だ。
と、ステラの方を見ると、蒼の騎士が彼女の、ステラの首を斬り飛ばしていた。
隣にいたレナの悲鳴が響いた。
が、しかし、首を跳ねられたステラはそのまま霧になり、消えた。
その後ろにいつの間にかナツメが居る。お姫様だっこして抱えられたステラと共に。
「おいおい。 ステラは私の獲物だぞ......あと友達。 手出すなよ」
ナツメが、蒼の四騎士へとそれだけで人を殺せそうな程の凄まじい殺気を放つ。
「......霧の分身、か。 能力の特徴と妖刀からして、お前がキラージャックで間違いないな。 しかし、これは幸運かもしれん。 お前を狩れば領主が更に王へ気に入られる......必ず仕留めるぞ」
蒼の四騎士の隊長らしき男がそう言うと、他の三人は頷き、各々の魔法を展開する。
体から発せられている魔力量から察するに、鎧の中身である本体はおそらく魔物、魔族だとわかる。
隊長らしき男は、大槍を持つ男だ。魔力による電撃が鎧に流れ全身黄金に光輝いている。
他の三騎士も武器は槍を持っているが、隊長に比べると少し小さい。しかし立ち上る魔力は、今までステラが目にしたどの魔物、領主のオークよりも遥かに大きい物だった。
「......雷か、良いね。 今までで、雷使いに外れはいなかった」
蒼の騎士隊長は考えた。
霧の能力。先ほど、ステラという女の首を跳ねた時、それが霧の分身だと気がつけたのは斬った後だった。恐ろしく精巧な分身がつくれる能力......か。
分身のどれが本物かわからない以上、どれも同じように相手をしなければならない。
勿論、武器を打ち合えば分身であることがわかるが、それは使い手であるキラージャックもわかっているはず......そこから予想されるのは、回避に重きを置いた攻防か。
一度でもガードするか触れられればどれが分身かがわかる。そして、この霧の能力の核、恐らくはあの妖刀。あの妖刀さえ破壊、もしくは手放させる事ができればこちらの勝ち......。
つまり、キラージャックの攻撃をガードで受け、もしくは触れるかして分身を見つけ、本体の武器を破壊する(もしくは本体を殺す)
他にも能力はあるやもしれんが、まずはわかっている能力の対処......それからだ。
スゥー......と、結界の妖霧から分身を作るナツメ。その表情は、まるで空腹の獣がご馳走である捕食対象を見つたそれだった。
そして、エルナ、ステラ、レナは先程のやり取りで確信した。この場からは逃げられないこと。
ステラを殺しに来た事から考えると、蒼の四騎士が勝った場合、おそらく三人共殺される。
どの道も、死へと続いている事にはかわりない事が明らかだった。
「......ステラ、レナ、僕はナツメに加勢する。 そして必ず隙をつくる......だから、頑張って逃げて」
ステラは直感的に現状的に理解する。エルナは死ぬ気だと。
......わたしは、また守られて、助けられて命が消える様を見ている事しか出来ないの......?
エルナはダガーを持ち直し、蒼の四騎士へと走り出した。
「ステラさん......私たちも、戦いましょう......エルナさんを......失いたくない」
見るとレナは涙を流していた。蒼の四騎士、キラージャックの強さは、行けば確実に殺されるとわかるレベルのオーラを放っていた。
そして、二人が参戦してもエルナの邪魔になる可能性がある......考えれば考える程、体が動かなくなる。
ビュオッ!!蒼の騎士隊長が繰り出す槍の突きがナツメの顔を目掛け放たれる。しかしナツメはそれを余裕でかわし、動きを見ている。
相手の呼吸を読み、致命の一撃を入れる隙を観察している。ナツメがこれまで幾度もの強敵との戦いで殺されず、ここまで生き残れた理由の一つにその卓越した観察眼がある。
ギィイイィン!!
部下の騎士にエルナが、食らいつく。ナツメの分身(本体かもしれない)を使い攻めることで勝率をあげようと言うもの。
「お、いいねー! エルナ、殺れそうならやってね」
「わかった!」
エルナとナツメの相性は良く、部下の騎士が殺られるのは時間の問題となっていた。
しかし隊長は焦ってはいなかった。大事なのはナツメ本体。ナツメさえ始末できれば、他はどうとでもなる。
その時、突然別の部下がナツメとの戦闘をほうり出して、ステラとレナへと襲いかかった。
エルナはそれを止めようと離脱、そちらへ向かってしまった。
「......あ、やば」
その時もう少しで倒せそうだった部下の騎士が、ナツメの肩に触れる。
「!! コイツは分身確定......!」
ドスッ!!!
横からの衝撃と鋭い痛み。騎士は脇の隙間から刀を入れられ刺されていた。
「分身見つけたからって、油断したらダメじゃない」
「なっ......ぐあっ、がはっ」
いつの間にかナツメ本体が騎士の死角へ回り込んでいた。
「あと、三人......か」
ナツメが舌を出して笑う。




