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~46~ 港町ミーナルの攻防 ①

 


 夜空に雲がかかり、月明かりがその隙間から差す。


 落ちる鮮血は、赤ではなく黒になる。


 まるで煙のようなナツメの発する濃霧の中で、エルナは死を覚悟する。


 やはり、キラージャックの名は伊達ではなかった。ともすれば、この殺人鬼の力はあの時見たノアのそれ。

 ノアがあのまま負の感情に身を委ね、血を、戦いを、狂気を求め殺しに喜びを見いだした、壊れた獣のような強者となり果てた姿......それがナツメ。


 そう感じさせる程の脅威だった。


 ビュン......ヒュオッ!スパァーンッ!!!......ギィイイィン!!!


 ナツメは霧の結界を展開し、その妖霧により作った自身の分身を使いエルナを巧みに攻める。しかし、意外にもどの攻撃も致命傷には至らず、血を流させはするけれど、その命に届くにはあと少し足りなかった。

 明確な実力差があるにも関わらず、ナツメはエルナを上手く殺しきれていない。


 その理由は二つ。


 一つは、ナツメがエルナの戦闘センスが予想以上だった事。勿論、ナツメは獣人を殺した事は幾度となくあるが、そのどれよりも動きが鋭く、想像以上の動きをする彼女との戦いが楽しくなり始めていた。


 二つは、先の可能性。このエルナと言う獣人はまだ若く、思っていたよりも遥かに戦闘センスがあり、伸び代があった。

 それを考えると、一度始めた殺しあいではあったが、成長し真の強者となったエルナとの殺しあいを楽しんだ方がいいのではないか?という迷いが生まれ始めていた。



 対して、エルナはこの戦闘の攻略を考える。


 彼女が霧の能力を使い出してから、エルナは思うように攻撃が出来ていない。ナツメが発動させた能力《夢幻妖霧》は、ナツメの分身を三体、霧で作ると言うもの。(目の前で霧を分身にして見せていた)


 そして、ナツメが能力を発動させてから短い攻防の間、わかった事がある。霧の分身自体はあくまで霧であり、実体としての攻撃力等は無いが、気配、魔力、その他が全てそのままのコピーとなり見分けがつかない。(精巧な幻のような物。......そんな物を三体もつくれる当たりにも、ナツメが相当な使い手だということがわかる)


 そのためそれぞれ本物と同じく応戦しなければならない。動きも同じくナツメのそれであるので、単純にナツメが三人増え四人のナツメを相手しているような状態だった。


 更に、増えた分身とのコンビネーションも巧みで、ナツメ本体を見つけてもすぐに紛れてしまう......削られていく精神と体力が凄まじい、殺られるのも恐らく時間の問題だ。


 ――(なんとかこの二人だけでも無事に帰さないと......その策をこの攻防の間に、なんとか考える。)――


 思い付かなければ、皆が死ぬ......。



 ◇◆◇◆◇◆



 ーレジスタンス拠点ー



 ? 何か部屋の外が騒がしい。なんだろう......。


 ノアが異変に気がつき部屋の外へでると、曲がり門でハイムと会った。ガンディーも一緒だ。


「まて。 今は行かない方が良い」


 ただならぬ二人の雰囲気に、悪いことが起こっている事が汲み取れた。


「......どうしたの?」


「かなりヤバい奴等が来ている。 あんまり......と言うか、かなり来て欲しくない奴がな」


 そしてレジスタンスの他のメンバーが来て言う。


「ハイムさん、ガンディーさん、裏から逃げて下さい。 もうここにとどまるのは無理です。 おそらく応対している彼は殺されます。 彼が時間を稼いでいる間に......早く」


 え?と、ノアは唖然とした。......殺されます?あの人が......?


「そうだな。 行くぞガンディー。 ノア、お前も支度をしろ。 もうこの町には居られない」


「え、待って......あの人達は誰なの? 殺されるって......助けないの?」


「助けられない。 あの二人の騎士は王徒十二騎士だ......魔力を抑えていて普通の騎士に見えているが、恐ろしく強い。 ここの、お前を含め武闘派の連中で戦っても勝ち目は薄いだろう」


「で、でも......」


 戸惑うノアを見、その気持ちを理解したガンディーは言う。


「これは見捨てるんじゃない......繋げるんだよ。 その為の犠牲だ。 お前が組織に入るなら、自覚しろ......そう言う戦いに身を投じると言うことを」


 組織......そうか、僕らは王を討ち、この国を変える。それには仲間の犠牲無しでは到底叶うはずもない。


 ......。


 いや、そうだ。僕は......まだ。


 あの騎士の二人......確かに強そうだ。けど、僕が殺す気でかかれば、殺れないことは無い。


 この手の届く範囲で、僕は守るんだ。必ず。

 落ちこぼれだけれど、勇者として生まれ育ったんだ。


 サリアさんを否定した僕は、仲間の犠牲は......認めちゃいけない。


『そうね......でも、出来るかしら』


 出来るよ。僕なら、必ず出来る。


「ごめんなさい、僕はまだ組織には......レジスタンスには入ってない。 だから、彼を助ける」


 はあ!?と、ハイムの声を背中に受けながら、謎の理由を盾にして僕は飛び出した。その時、横目で見たガンディーは少し笑みを浮かべていた。


 僕は神器の弓を顕現させ狙いを定め言った。


「二人とも、その人から離れて」


 カウンターにいたレジスタンスメンバーはオレンジ頭の騎士から斧を振り下ろされる直前であった。間一髪まにあ


 ドガッ!!ブシュッ!


「――え?」


「お、わりい......何だって?」


 真っ赤な血飛沫を散らし、肉塊となったカウンターの人は頭から股まで綺麗に割られ、潰れたトマトのようにぐちっちゃりとしていた。

 女騎士が話しかけてくる。


「む? 貴様......その武器は、神器......しかも見たことのない顔だな。 おかしいな。 まだ里から勇者は出されていないはず......いや、まてよそもそも色が勇者の神器ではない。 貴様は」


「いいよ。 考えるのは。 とりあえず拘束して吐かせる。 それだけだろ? やるぞミミ」


「ああ」


 僕は思う。僕のミスだ......そのまま弓をあのオレンジ頭に射っていれば、あの人は殺されずに済んだ。なんで射たなかったんだ?

 今さらなんで......殺したくなかったのか?僕は、あの騎士を。


 またか、僕は......一瞬の迷いで、失った。


 でも、まだだ......無駄にはしない。この二人を倒して、仇を討つ。そして皆を守る。

 弓を引き、神力を込める。サリアへと射った特大の神力の矢。この距離であれば、外す事は無い。


 ズズズズズ......!!!


「あの弓、凄まじい神力だな......どうする? ミミ、お前やるか?」


「ああ、良いだろう。 あの子は私がやろう......ガルデア、あとはわかっているな?」


 そしてミミと呼ばれる女騎士は両手を広げ、微笑んだ。


「さあ、私を射て......この距離で外す事はないだろう? 私は避けないぞ。 こい」


 避けない?何か防御系の能力か......?


 けれど、この神器の矢に込められた力は到底ガード出来るものでは無いぞ......と、すればまた別の能力?もしかして僕のように反応速度が速くて避けられる自信があるとか。


 ......いや、ダメだ。考えてもわからないし、仕方ない。


 そしてノアは意を決して、ミミへと狙いを定め......矢を放った。


 ヒュッ――......ドゴオオオォォォンンン!!!


 矢は見事、ミミの頭に当たり騎士二人が入って来たドアをぶち破り外へと吹き飛ばした。

 鳴り響く轟音。矢の破壊力は凄まじく、扉回りの壁が殆んど無くなっている。



 その一瞬、ミミの頭部を吹き飛ばし、手応えを感じていたノアは一人倒せた事により、油断していた。


 その刹那の隙。背後にいつの間にかガルデアが回り込んでいた。先ほどレジスタンスメンバーを頭から叩き斬った斧をノアへと振り抜く。

 しかし、恐ろしい程の反応速度を持つノアは、背中に背負っていたレナから貰った盾を体をよじる事により、ガードを成功させた。


 が、ガルデアの斧の破壊力は凄まじく、ミミがぶっ飛んで行った方向へノアも飛ばされる。

 ノアは持ち前の運動神経と身のこなしで、空中で体勢を変え受け身を取った。

 盾を当てることは出来たが、衝撃によるダメージがノアの体に残り、盾も破壊され使い物にならなくなっていた。


「ごほっ......ぐっ......ヤバい! 戻らなきゃ......皆が殺られる!!!」


 ふらふらと起き上がり、ガルデアと戦いに戻ろうと走りだした時、目の前に女が立ちはだかった。


「待て。 お前の相手は私だぞ」


「なん......で......?」


 そこには、先ほど頭を吹き飛ばしたはずのミミが、何事も無かったかのように立っている姿があった。



 そして、拠点からは悲鳴が上がりはじめていた。




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