~45~ 夢幻
「ふひーっ! おいしかったー! ありがとうナツメさん!」
「ありがとうなのだわ。 ナツメさん!」
「ありがとうございました! とっても美味しかったです!」
ナツメがお邪魔してしまったからと言うことで、代金を支払ってくれた。楽しげな会話が終わり、店の外へと出る。
「良いの良いの! 可愛い笑顔が沢山みられたしね! あー、ところでさ、君たちこのあとお時間ある? もし、良ければもう少し付き合ってほしいんだけど......」
と、ナツメは頬を赤らめている。エルナは気がついていた。ナツメから漂う血の匂い。それは魔獣の血の匂いと......人のもの。そしてその匂いの濃さから、大量の人間を殺している事がわかる。
エルナは考える。
さーて、どうすっかなー。このまま二人とも一緒だと危ないよな。
てか、この人の目的って、なんだ?うーん。私一人なら負ける気はしない......けど。二人をどうアジトに帰すか。
「......大丈夫だよ。 私は強い奴とヤりたいだけだからね」
ナツメはエルナの目をじっと見た。それは、とても優しく、到底人を幾人も殺している者の目には思えない。
「二人には手を出さない......約束して」
「! エルナ......いいね! 凄く良いよ! さっきまでの呑気な雰囲気からのその変化......ギャップ!」
舌なめずりをし、笑顔で綺麗な顔が歪む。とてつもない殺気でステラとレナの体が強張る。
「私が勝ったら、皆を見逃してくれる?」
「それはもちろん......ていうか、殺しあいだよ? 死ねばちょっかいかけられないでしょ?」
急変するナツメの雰囲気。ステラとレナもそのオーラにあてられ理解する。彼女がとてつもなく危険で、決して信用してはならないものだと。
「エルナ、ダメ......この人、危険すぎる......」
ステラは震えた声でそう言った。このナツメは、あの時の狂気を纏っていた神徒教会のサリアを上回る殺気と異様な、気味の悪い雰囲気を発していた。
「......キュウ」
レナの側にいるリンドは臨戦態勢で、レナを守るように前にたっていた。
けれど、皆が気が付いていた。この人から逃げ切ることも出来ないことを。
そしてナツメにミーナルの近くにある森へと誘われた。暗くなり始めた町の空には、とても美しい星が輝く。
ナツメはそれを見て、呟く。
「......ああ、素敵。 星に照らされながらするの好きなんだ、私」
ふふふっ。と、可愛らしく笑い歩いていた。
◇◆◇◆◇◆
「いよー! ただいま! 皆集まってるかー?」
突然入ってきたオレンジ頭の騎士。出入口の警備を兼ねてカウンターにいた男は一瞬、何が起こったのかわからなかった。
しかし、その出で立ちは明らかに国の騎士、しかも騎士の中の騎士である王徒十二騎士の紋様を鎧の一部に施されていた。数字が入っていて、女が二で男が五であった。
あり得ない、なぜ国の最強騎士が!?
そして混乱する男はただひとつ、とにかく冷静に対応しなければ「死ぬ」それだけがわかっていて、震えそうになる声を無理矢理正し言葉にする。
まだ、わからない。俺たちがレジスタンスだということはまだ......とにかく、冷静にだ。俺だってまだ死にたくない。家族が......故郷で帰りを待っている家族がいる。
「? 何ですか? 王都の騎士様がなぜこのような所に? ここの施設は貸し切りで......私ら魔獣調査団体で借りているもので、部屋が無いんです。 申し訳ございませんが、お泊めすることが出来ないです」
「ああ、泊まる目的じゃねえさ。 俺ら二人は王の命でここに来た。 なあ、とぼけんなよ......わかるよな? 言っている意味が」
「返答次第では皆殺しだぞ。 よく考えて答えろ......」
「貴様らはレジスタンスか?」
――何かが崩れ始めた音がしていた。
◆◇◆◇◆◇
ーミーナル領主屋敷ー
「君か! 久しぶりだね。 こんな所までなぜ君が来たんだ? 十二騎士の二人が来ていたが......別件かな?」
「別件と言えば、別件だな。 お前の仕事の話を聞かせて貰いたい」
「? 仕事......? この領土内の里、村、町の統治だろ。 君も知っているだろう。 もしや、殺された魔物側の領主の補充の件か? それは......」
「......違う。 お前が裏で行っている......奴隷、武器、他だ。 正直に話せ」
「あー......いや、それは仕方ないだろう。 奴隷と言っても、神徒教会のやつらが荒らした村や里の孤児なりなんなりを、受け入れて貰っているだけだし、武器だって不足している場所へ配給してあげているだけだ。 勿論、金は頂くがね」
ミーナル領主マリアノは、言及され内心かなり戸惑った。どこから情報が漏れたのか。
そしてまさかこの男が、直々に訪れるとは思いもしていなかった。
王徒十二騎士のトップであり、最強の騎士に位置する男。
ベルフェゴール。
「そうか。 ならば、調査部隊を派遣しよう。 それが適正なものか監査する......いいな?」
ちっ......金になる良い仕事だったのに。蒼の騎士達は別の仕事で出してあるからな......あの四騎士ならばベルフェゴールであろうが殺せる。どうにか殺らせたいところだが......。
あ......そうだ。この町には今、良い駒が居るじゃないか。
奴等を使えば......あるいは。
◆◇◆◇◆◇
ビュンッ!!――ガッ!!キィン!!!!
エルナの神器がナツメの武器と撃ち当たり、暗い森に光の粒が舞い上がる。
「ふっ!ーはっ!......ッ」
「おー、凄い! あなた、本当に強いわね!」
ナツメの刀をことごとくかわし、うちはらい、更には反撃とカウンターを撃ち、エルナのその実力と技術が高いものだとナツメは認識する。
「わとし、王都から来たの。 王都はね、強い人が集まる所でね......別名、死の都なんていわれてたり」
「でも、確信したわ。 あなた、王都の強者にも匹敵する剣士ね」
この十数の攻防。全てのナツメの攻撃がエルナの命に届きそうで、紙一重で届いていなかった。
互角以上に渡り合えていたように見えるが、実力の差は刃を合わせたエルナがはっきりと感じていた。
ナツメの剣は、死線を幾度も......途方もない数越えてきた者の剣。
しかし、それは禍々しくも美しい太刀筋だった。
「......はあ、はあ、貴方は、何者なの......ただの狂人には思えない。 貴方の太刀筋は、恐ろしく美しく禍々しい......」
エルナとの至福の殺しあいで、恍惚の表情を浮かべていたナツメだったが、あ、忘れていたと言い、キョトンとした表情になった。
「わたし、王都で殺人鬼って呼ばれてるの。 キラージャックって、知ってる? あれ、わたしなの」
「ぷぷぷ......驚いた? ね、驚いた?」
と、ナツメは無邪気な笑顔を見せた。
「キラー......ジャックって、霧の中に現れるって言う......」
「そうだよ。 私の武器はね、霧とこの妖刀......ゲゲ丸ちゃん! 可愛いでしょう? ちゅっーちゅ」
「はっ......! 刀にちゅーしたら危ないのだわ!」
いや、そうじゃない!?と、レナが心で突っ込む。
と、同時にエルナが低い体勢でナツメへと突っ込んでく。狙いは脚!
ナツメが後ろへと下がりながら、その妖刀で綺麗に捌いていく。
と、その時、エルナは片方の拳で地を殴り頭へと向かい切り上げる。
頭を動かし、最小限の動きでかわすナツメ。それを目眩ましにし、脚を蹴り払おうとしたが、軽く飛んでかわされる。
エルナは思う。こいつの......ナツメの身のこなしは普通じゃない。
エルナの身体能力は普通の人の比ではない。それどころか、獣人の中でも飛び抜けたものだ。
それなのに......僕の剣が全然届かない......!!
「......いいねえ! 本当に素敵な動きだよ......ヤバイな、食べたくなる」
ズズズズズ......!!
ナツメから禍々しい魔力が立ち上る。




