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~40~ 誰かの希望と

 


 リザードマンの死体が転がり、血の海と化した森の中。


 自分を死神と呼んだ最後の一匹に手をかけようと、ロングソードを振り上げた。


「......ごめんね」


 今更なにに謝っているのか、わからない。それもそのはずで自然とでた言葉にノアは気がついてはいなかった。


「ノア! まって! ストップ!」


「......どうしたの、エルナ?」


「今、お前はそいつを殺したらダメだ。 何故かはわからないけど......お前、壊れちゃうような気がする」


 壊れる?僕はもう壊れている。いや、命を奪った者はすべからく壊れている。

 君もそうだろ、エルナ。こうやって沢山の命を、狩ってきた......君も死神だ。


「今更どうしたの? これは戦い、殺しあいでしょ? まさか君に止められるとは思わなかった......」


 エルナはよくわからないけれど、とても辛そうな顔をしている。


 彼女と話をしていると、動けるようになったのかリザードマンがよたよたと走り、逃げてしまった。

 追いかける気にもならない。


 そして、エルナが言う。


「ノア、命を奪うことは、戦いにおいて仕方のない事だ。 それは否定出来ることじゃない......でも」


「自分の心を殺す事は間違っている」


 心を殺す......けど、僕は......そうしないと......。


「大丈夫だ、ノア、お前には仲間が、家族のような存在がいる! 僕だってそうだ! お前がもう戦いたくないのなら、僕が守る。 だから!」


 ? 僕を守る?僕を......?


 その時、ノアは混乱する。里で戦えと言われ、いじめにあい、()()()()守られる事など一度もなかったノアは、自分が守られるなんて事を考えた事もなかった。


 エルナは思った。ノアをレジスタンスにいれ上手く利用すれば、この国を変えるこができる。おそらく、今までにないくらい現実的に。


 しかし、ノアを見ていて、自身の心を殺して戦う姿を見て、この優しい少年にはもう戦って欲しくないと思ってしまった。

 何故ならエルナは、ノアの事を本気で家族のように思いはじめていたから。


 幸い、ここには他の仲間も居ない。ノアの圧倒的な力を隠せる。

 レジスタンスで戦い続ければ、ノアは壊れる。


 そんなのは、嫌だった。



「な? 大丈夫だ......僕もお前程じゃないけど、強い」


「ダメだ。 僕には、渡された想いがある。 僕が止まる時は想いを果たす時か、死ぬ時だけだ」


 エルナがチッと舌打ちをした。そして、ノアの顔を抱き込む。

 そして足払いをして押し倒す。


「ノア......この、わからず屋めっ!」


 ドサッ!


 二人は草の伸びる地面に転がり、抱き合う。


「甘えろ。 これはお姉さん命令だ」


 ノアは思った。......何を言ってるんだろう、と。


 すると、エルナの胸に頭を埋められ、撫でられる。


「辛かったな。 僕が何かを知ってる訳じゃないけど......お前が壊れそうになるくらい辛いのは、わかるよ」


 ......あれ。なんで、僕は泣いているんだ。


「よしよし、頑張ってきたな......えらいよ、お前」


「僕は......沢山の人の想いを......受け継いできたんだ」


 ヤバい、涙声で恥ずかしい。エルナ、引いてないかな。


「うん、うん......」


 彼女は僕の頭を優しく撫でる。


「だか、ら......こんなところで、やめるわけには......う、あ......あ」


 押さえていたものが溢れ出し、僕はエルナの胸で泣きじゃくっていた。



 ◆◇◆◇◆◇



「成る程な、お前のその神器は貫いた相手の想いが伝わってくるのか......」


 エルナははだけた服を直し、ノアの話を聞いている。ふんふんと言いながら、猫耳をぴょこぴょことさせる。


「ノア、でもお前、確かにそれは大切な事だよ。 でもさ、何が一番なのかって話じゃないか? お前が守りたいのって、そう言う人達なんじゃねえのか?」


「だったらその想いに潰されたらダメだろ」


 ......確かに。彼女の言っている事は、そうだ。

 このまま僕がダメになったら、結局の所、僕に託された想いと犠牲になった命が無駄になるのだから。


「そう......かもしれない」


「うん。 まあ、あれだよ......僕はお前の味方だから。 辛いときはいつでも話せよ。 神器持ち同士の秘密にするからよ」


 にい!っと八重歯を見せ笑うエルナ。彼女のお陰で心が軽くなっている。これはきっと気のせいではない。

 お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな?なんて、彼女の優しい笑顔と撫でる手の感触にノアは思うのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



「――お! 戻ってきたか!」


 槍を地面へと刺し、展開していた結界を解いたガンディーが笑いながら迎えた。

 まだ薄暗い朝、僕らは皆の元へと帰ってきた。エルナが一生懸命に僕の体についた血などを綺麗にしてくれていて少し戻るのが遅くなった。


「やほー! みんな無事かー? たでーまだよ、たでーま! ハイム、無事に帰ってきて安心したかー?」


「そりゃそうだろ。 お帰り......頑張ったじゃねえか」


 うぐっ......ありがとう。とエルナがハイムの素直な返しに調子を崩されている。

 ああ、こういう人に育てられたから、エルナはあれほど優しく強いのか。と、僕は心の中で思い、府に落ちた。


 家族......か。



 幸せそうに眠るステラとレナ。アレオスは起きていて、おつかれ!と、労ってくれた。アレオスも旅で疲れているだろうに、僕の事を気にしてくれている......本当に優しい人だ。


 僕は、エルナはああ言ってくれたけど、戦いたい。強くなければ、奪われるだけ。国を変えなければ、悲しみが生まれ続ける。


 大切な人、一人も守れない。


 けれど、一人で戦うのはもうやめだ。エルナがくれた優しさと、想いで、僕は覚悟する。

 必ず、この国を変え、悲劇をなくしてみせる。


 ()()()()()



 ◆◇◆◇◆◇



 ???「海......か。 良いねえ。 のんびり海水浴とか、したいねえ」


 ???「お前が行けば血の海になるだろう......せっかく、この地方一のリゾート地であり、美しい町と有名なミーナルなんだ。 やめておけ」


 ???「いやいやー、本当に有名なのはリゾート地でも美しい町でもねえだろー? 国王のお気に入りのとんでも領主の方が有名だろーよ。 裏でいろいろヤバイことしてるらしいし......奴隷売買とか、人体実験とか」


 ???「いや、そもそも、そんな話はどうでも良いのだ。 我々は任務で来ているのを忘れるな」


 ???「おかてー女だな......ぐあっ! いったあー! なぐんじゃねえよ!」


 ???「ふん。 我々は神徒十二騎士だぞ。 真面目にやれ」


 ???「あー、はいはい。 お国のために......がんばりまっかあ」


 男は斧を振り上げ、背負う。

 女は弓を背負い、腰には剣を差していた。




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