~39~ 悲しい
ノア......つ、つええ!何だこれ!?
エルナはノアの戦いを観戦し、その強さに圧倒される。
神器を出し、それを後ろ手に持ち、リザードマンの首へと刺し殺す。次に、そのまま鎖を切り両手が自由になった所で、神器がロングソードから鞭へと形を変えた。
ヒュオッ!と突然、風が吹いたかと思った直後、周囲にあった魔物の気配が消え、ドサッ......ドサッと暗闇で魔物の倒れる音が、命が消える音がした。
いや、ノアが消した。その命ごと、この世から。
ヒュンと一振りし鞭を右手に戻し束ね、ノアが言う。
「......潜んでいた君の仲間は皆、死んだ。 この鞭で頭を......潰した」
トウガは動けずに、思考を巡らせる。
まさか、こんな......遠距離攻撃部隊は二十近くいたんだぞ!?
こいつ......!一振りで、奴らを......全滅させたってのか!?
あ、あり得ねえ......!こいつは化物過ぎる......!どうする、どうする!?
いや、まだだ、数は......仲間はいる!こいつが如何に化け物染みた力を持っていようが、この五十もの数が同時にかかれば、必ず隙は生まれる!
その時、隙の生まれた瞬間に、この右手に溜め続けている超圧縮魔力、焔魔法メギドフレイムをぶちこむ!
最大威力になっているこいつさえ食らわせる事が出来れば、こちらの勝ちだ!
ノアの耳元に女の幻が耳打ちをする。
『ああ、また......命を奪うのね......私と同じ、ね?』
彼女はあれから、時々現れてはこうして語りかけてくる。
僕は答える。僕は、君の想いを継ぐと言った。必ず目的を果たす......だから。
仕方ない。
仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない......
仕方ないんだッ!!!!
ノアはそう自分に言い聞かせ続ける。何かを呪う様に、祈りながら。
次々と襲い来るリザードマン。しかしノアにたどり着く前に、皆神器の鞭にやられ、首を跳ねられ頭を潰され肉塊へと変わっていく。
ヒュガガガガガッ――ガガガガ!!!
ギャッ......ぐげっ!ぐはっ......ぎゃあああ!!!
うぎっ......げっ......ぶっごっ......!
リザードマンの中には魔法を使える者もいたが、それを発動させる前に殺され、殆んど抵抗すら出来ないで倒れていった。
それほどまでに圧倒的な力の差。隙を見計らっているトウガの顔に焦りの色が見え始めた。
エルナは思う。ノアは強い......それは、自らの勘とこれまでの戦闘での動き、立ち振舞いでわかっていた。しかし、これ程の、名のある盗賊団を一人で殲滅できる戦闘力があるとは思いもしなかった。
......ノアを僕らの、レジスタンスの仲間に出来れば!王を討ち取り、この国を本当に変えられるかもしれない!それは、限りなく現実的な話に......夢物語では無くなる!
あの力はそれ程の力......!おそらく王徒十二騎士や神徒の戦闘員をも凌ぐ......!
『ねえ、みて。 彼の目。 恐れと悲しみ怒り、わかるでしょう? これが憎しみ。 争いの種』
うるさい。
うるさい......静かにしてくれ!
そして、リザードマンを殺しつくし、残りはトウガだけとなった。
こうなれば、彼も死を待つのみ。勝負は、戦いは決していた。
トウガはうつむき何かに頷くと、静かに語り出した。
「少年......この国を変えるといったな。 ならば教えてやろう。 この世界は争いで満ちている。 それは仕方のない事なのだ。 人、魔族に限らず、感情が存在し欲望が存在する」
「憎しみや悲しみ、復讐......そして、争いにより生まれる、利益や幸福。 幸せは悲しみの裏にある......それは国にも当てはまるのさ......」
そして、トウガは魔法を放つ。自分自身へと。
炎への耐性があるのか、圧縮された高密度の魔法を受け体は燃え上がったが、トウガは生物としての形を保っていた。
そして指を指し、喉を焼かれまともに喋れなくなった口でノアへと最後になるであろう言葉をなげた。
「......でき、ない......お前は、もう......」
――争いを生む側だ。
ノアはトウガの最後の言葉を聞くことは出来なかったが、なぜかそう言われた事がわかった。
――は......っ!
ノアがトウガに向かって走り出す。彼の事を知らなければならない。想いを、汲み取らなければ。消えていく前に。
神器をロングソードへと変え、炎を纏い死に行のみとなったトウガの胸をそれで貫く。
そうだ、僕はもう、この憎しみと争いの連鎖の中にいる。彼女に言われるまでもない。
だから、せめて......!
トウガに深く刺さった《心映》から、光と共に記憶と想いが流れ込んでくる。
――
――なあ、トウガ――
――俺達で、世界を変えよう――
――この国で、魔族や魔物が平和に暮らせるように、さ――
――む、村が、壊滅してる......誰か、いないのか――
――
――何でだよ......お前、信じてたのに......!なぜ皆を売った! 魔族の奴隷が人にどういう扱いをうけるか......知らないわけがないだろ!――
――トウガ、仕方なかったんだ。 俺達が生き残るには、こうするしか......そうだ、こうするしか。 お前もこい! ここで領主として、生きていれば......国に属していれば、殺される心配もない! 連れてかれたやつらのためにも......幸せになろう――
――連れていかれたやつら......? のため?――
――信じて......たのに――
――リーシャ......妹は、俺の......妹は......奴隷に――
――......必ず奪い返してやる――
――
......トウガ。裏切られ、全てを奪われた盗賊のリーダー、か。
魔族だって、心がある。当たり前の事だ。あのオーク達にも守りたいものがあったように、何かのために戦っている。
君の想い......仲間の想いを僕が受け継ぐ。
その時だった。
「ひ、ひいいい......お前は、一体なんなんだ......!?」
まだ一匹リザードマンが残っていた。ノアが殺し損ねていたようで、腰を抜かして動けずにいた。
「まだ......いたのか」
ノアはゆっくりとリザードマンへと近づく。トウガの血で滴る神器が妖艶に輝いている。
リザードマンは震え、怯えながらノアに言った。
「......死神......だ」
ピタリと足が止まる。
死神?......僕が?
血にまみれた手を眺める。
......ああ、そうか。僕は勇者ではなく死神だったのか。
いや、それで良いのかもしれない......だって、綺麗事だけでは......変わらない。
僕はこの国を変えると言った。手段を選べる程僕は強くもない。
沢山、殺してしまった。
けれど、僕は必ず......この犠牲を無駄にはしない。どんな事をしてでも、想いを果たす。
例えその果てに、僕が死ぬことになっても。「覚悟」は出来ている。




