~38~ 二人の死神
草木をかき分け道を進む。僕はエルナの先導について行き、ターゲットがいる場所へと走る。
ガンディーが結界を張った場所から、およそ三分くらいの場所に松明を持った奴らがいた。あの姿は、リザードマン......トカゲ男だ。
その数は予想より多く、五十匹はいるんじゃないかと言うくらいだ。
エルナが顔を近づけ小声で話す。
「おー、いたな。 リザードマンか......あいつら強いんだよな。 楽しみだねえ」
「ねえ、エルナ。 リザードマン達って言葉は通じるのかな」
「え? 言葉は通じるとは思うけど......ん、なんの話? 何で?」
「......ちょっと作戦変更していいかな。 ごめん!」
え、ちょま......と、止めるまもなく、ノアが隠れていた樹木の陰から出ていく。
さすがのエルナもまさかの行動に、ぎょっと目を見開く。何してるのこの人といった表情だ。しかしエルナを見ていないノアには何の意味もなく、魔物達の前へと出ていった。
「ねえ、君たち。 話を聞いて欲しいんだけど......」
「あ? な、なんだこいつ! いつの間に!?」
「ボ、ボス! あいつらの一人が! ど、どどどどどうします!?」
突如現れた人間に魔物達は驚き慌てる。僕に近い魔物は各々の武器を向け、戦闘態勢をとった。
僕は戦闘の意志が無いことを示すために、持っていた剣と盾をその場に置く。
「これで、いいかな......僕は話がしたいんだ。 少しで良い」
遠くからは見えなかったが、中央にボスらしき魔物がいた。彼の見た目は、まず特徴的なのはその炎のように逆立つ髪型。ゆらゆらと本物の火のように揺らめいている。
そしてもう一つは、四本の腕だ。あの腕分の武器を同時に使いこなせるのなら、かなりの脅威だろう。そのうちの一つの手に赤く光る玉を乗せている。
「貴様は......」
四本腕の魔族の男は、そこまで驚いている様子は無く抑揚のない声でノアへと返答する。
「......なんの用だ? 人間」
と、その四本腕の魔族が言った。
よし、紫オークやゴブリン達と同様に話が通じるなら、お互い血を流さないで終わらせられるかもしれない。
話をする気もあるみたいだし。
「突然ごめんなさい。 でも、君たちにお願いがあるんだ」
「お願い......? 殺されるかもしれないこの状況でのお願いか。 面白いな......良いぞ、言ってみろ」
彼の赤い目が僕を見つめる。月が明るく互いの顔がはっきりと見える。
「少しだけ、人間を食べるのをやめてほしい。 君達は国が怖くて、戦うために、もしくは国に雇われるために力を求め、人を食べている。 そうでしょ?」
彼の表情が揺らぐ。こちらを見る目が力強くなった。
「でも、僕が、これからこの国を変える......力が無くても、弱い人々も全て平等に暮らせる国に。 もちろん魔族も。 敵対する事がなければ、魔物だって......だから」
と、その時、拍手をしながら魔族の男が笑顔になり頷いた。
「そうか。 成る程、お前はこの国を変えてくれると言うのか。 素晴らしいじゃないか。 ならば我々が戦う必要も理由もないな。 成る程......」
! 後ろからリザーマンが近づいてくる。その手には鎖が握られている。
「しかし、我々はまだ出会ったばかりだ。 ......お前の話は信じたいが、嘘である可能性、疑念は拭いきれない。 俺も仲間の命を預かっているからな......簡単にはいかない」
「......だが、一人で我々の元へ来た、お前だからこそ俺は信用したい。 そんな幸せな時代が来るのなら、国が変わるのなら、喜んで言うとおりにしよう。 だから、そいつの持っている鎖に縛られてくれないか? その鎖には魔力放出を抑える魔法が宿っている。 そんなものを着けたら戦うことなど、出来なくなるだろう」
「しかし、だからこそ、それを着けることによって皆がお前を信用するだろう。 本当に対話をするために来たのだと......! 我々を信用させてくれないか?」
「......うん、わかった」
そしてノアは後ろに手を回され、リザーマンが持ってきた魔力制御の鎖で縛られた。
――(よし、勝ったな)――
ガサガサッ......。
「わーお、まじかい......!」
可愛らしい獣耳をぴんとたて、話を聞いていたエルナ。
いやいや、やべえな、ノア。何やってんだよ、あいつ!面白すぎだろーよ!
普通に思考がぶっとんでやがるな、あの魔物の群れを説得しようとか命知らず過ぎるだろ。
てか国を変えるって本気でいってんのか?だったら、もしかしたら......。
いや、今はそんな事考えている場合じゃないな。奇襲、完全に失敗してもーたな。作戦台無しだよー。こっからどうしたら良いんだ?......うーん、どうしよう。
そういや、あの四本腕って指名手配魔族だよな。懸賞金もかかってた。......ヤバい奴が出てきたなあ。
特徴的な四本腕と褐色の肌......焔光のトウガ。てことは、この魔物共がいくつもの村や町を燃やし、たくさんの人間を殺してきた、残虐な盗賊団で有名なトウガータか。
つかノア、お前は知らねえだろうが、そいつらは殺しが好きで人の鳴き声や悲鳴を楽しむような奴らなんだぞ。
できるだけ殺したくないって気持ちはわかるけど、そんなやつらと和解なんて無理だ。
その優しさに殺されるぞ......。
えーっとぉ、ざっと五十匹......回りの木の影にも十数匹隠れていて、多分弓とか遠距離武器を持ってるはず。(当初の作戦ではこの遠距離武器持ちを一匹づつ殺して、全滅させて近接武器持ちを倒す予定だった)
助けに行けば、そのまま二人共殺されてしまってもおかしくない......けど見捨てるのも嫌だ。あいつらが悲しむ。仕方ねえ、行くかー!
いや本当に死ぬかもだけど、まあ......友達だからな。出来るだけの事はするか。
◆◇◆◇◆◇
「なあ、少年。 お前は本当に凄い奴だな。 この状況で何の迷いもなく、罠かもしれない提案に乗った。 本当に対話が目的なのだな。 今もその証拠に敵意が無い。 ......であれば、俺はお前には正直でいようと思う」
「うん、そう......」
「が、その前に、俺の名を教えてやろう......我が名は、トウガータ盗賊団の首領、焔光のトウガだ。 今まで幾つもの村や町を蹂躙し、人を思うがまま殺し、喰らった」
「......トウガさんだね。 わかった」
ノアの様子は至って平常と言う感じで、焦りも恐怖も無いようにトウガの目に映る。
俺達を知らないのか......?だから、こんな冷静でいられる?......いや、そもそも魔物に囲まれているんだぞ。
こいつ、何かおかしい。......なぜそんな目で、態度で居られるんだ?
......。
「......少年、はっきり言おうか。 お前はこれから俺達に殺される。 しかしそれは仕方なのない事なんだよ。 さっきも言ったように、俺はこいつらの命を預かっている。 強くなければ生きては行けない......それは国がどうこうではない。 ......騙して悪いが、俺らの血肉となってくれ」
ノアは驚いた。何故なら自分の手に鎖がかかった時の場の空気の変化。話をしているときの、嘘の匂い。ここまではトウガは完全に騙すつもりで事を進めていたのに......今、この魔族は語る必要のない本音を出した。
それがノアには驚きだった。
「......悲しいね」
トウガとノアの目が合う。
「現実は悲しく苦い物だ。 お前には......わかるまい」
外に出たばかりのノア。圧倒的に少ない人生経験の中で、今やっとわかったことがある。どうにもならない想いの有り方。その現実の形。
トウガの言い分はその通りで、力がなければ消えていく。それは国がどうとかではなく、魔物としての有り方。
「うん、わかった。 じゃあ、行くよ」
と、ノアが言うと、後ろにいたリザードマンの首に碧翆のロングソードが突き刺さる。
「グゲッ!?ぐぶっ......」
後ろ手に出現した《神器》のロングソードに首を貫かれ、リザードマンは命を落とし、崩れ落ちた。
「まず、一匹」




