~36~ 温かな理由
翌朝、野営地を出発した僕達は、すぐに八匹の魔物の群れと遭遇した。
エルナ達は、魔物を発見するや否や、凄まじい速さで敵へと向かっていった。そして驚くべきは彼女達の戦闘力。とてつもない強さで、僕らが手を出す前に敵が断末魔をあげ、次々と倒されていく。
すごい......個々の技術も高いけど、それでいてしっかりと連携もしている。ポカーンとした表情で驚く僕やステラ、そしてアレオスが言う。
「彼らは戦闘のプロだね。 皆がその武器の性能を最大限引き出し戦っているように見える......」
「ほ、本当にすごいですね。 私はエルナさんの動きに目を回しそうです......というか、あの武器は......」
レナが気づく。エルナの武器はなんと神器だった。白く輝く二つの刃、ツインダガー。
そして、それを扱う獣人の少女エルナの動きは凄まじく、ダガーを振り回し、その武器の重さによる遠心力を利用し攻撃していた。その為、動きに緩急があり、独特のリズムが生まれる。敵側からすれば戦いにくいことこの上ないだろう。
ものの数秒で三匹を倒していた。強い。
それからまた何度か魔物と遭遇し、戦闘があったがいずれも難なく倒す事ができ、そのせいか結構な進行ペースで進んでいた。そして休憩中。
遠くで見張りをしていたエルナの元へ行き、僕はずっと気になっていた事を聞く。
「エルナは......それって、神器? 君は勇者なの......? あ、言いたくなかったら言わないで」
と、ノアが聞くと、エルナは「んーん」と否定した。
「これはな、形見なんよ。 僕の村はさ、神徒教会っつーイカれた奴らの標的にされてよー......神器を作るから皆魂捧げて死んでくれってやつな。 だからこのダガーには村の皆の魂が入ってるんだ。 んで、そんときに神徒の奴から奪ったんだよ。 だから形見」
サリアさんがやった......神降ろしか。そうか、生け贄の問題もあるけれど、その儀式も被害を生み続けているんだ。
でもエルナさんはそんな目にあって、何でこんなにも......。
「ごめんなさい、それは......辛かったよね。 ごめん」
「うんにゃあ、大丈夫だよ。 今はもう、大丈夫。 僕には家族みたいなのがいっからね。 辛くない。 だから、気にすんな。 てかさー」
「ノア......お前もだろ? 神器もってるの」
彼女はそう言い、じっと僕の目を見つめる。
「......なんでわかったの?」
「すまん、かまかけた。 お前、こんなん引っ掛かんなよなー。 可愛いな、ぷぷっ」
顔が赤くなるノア。今のスゴいな。嘘かまったくわからなかった。
「ま、他のやつらに言わねーから、安心しなよ。 神器持ち同士の秘密って事で」
「ありがとう......」
「お前さ、勇者なの?」
「僕は、勇者として育てられたけれど、勇者にはなれなかった......落ちこぼれなんだ」
「まじかぁー。 でもお前普通に強そうだけどなぁ。 あれか、よくハイムが言ってる、戦いが強くてもダメだみたいな事か!」
「そんな事言ってるの?」
「ああ、ハイムはなー、僕らの先生だからな。 戦いも勉強も教えてくれてんだよね。 そんときに言われたんだよ。 力があってもそれをどう使うかが重要、それで力の価値が初めて決まるんだってよ」
「そっか......」
「んまあ、要するに......守りたい人守れてるなら価値ある力なんじゃね?」
そうか。力自体には意味はなく、それをどう使うかで真価が決まる......僕は上手く使えてるのか?
守れたものと、守れなかったもの......まだその答えを出すには早すぎるのか。
「難しい顔してんなよなー! ほれ、笑顔笑顔。 せっかく可愛い顔してんだからよー」
と、エルナは僕の頬を指でつまみ上げ、強制的に笑顔を作る。
そして、ぷっぷぷぷ......と笑だす。
「あー! また、何やってるのー!! ノアをいじめたら駄目なんだからー!」
ステラがぷんぷんしながらエルナへと寄ってくる。わりーわりーと笑うエルナ。
ちなみにこの二人、というかレナ含め三人は一晩で仲良しになった。
早っ!と思ったけど、その実とても嬉しく思う。
ひとりぼっちの迷いの森では考えられなかった事だろう。たくさん大切な存在を作って、どんどん宝物にしていってほしい。
ハイムも笑っている。きっとハイムにとってエルナは娘のような存在なんだろう。なんとなくそんな気がする。
いい、家族のようなパーティーだな。僕もこんなパーティーが、家族が......いや、望みが大きくなれば歩く足は、その重さに引きずられ、やがて止まってしまう。
ましてや国の在り方を変えようなんて旅だ。望んではいけない。
彼女達の幸せそうな笑顔を眺めながら、僕は物思いにふけっていた。
◆◇◆◇◆◇
「キュウウッ......キュイッ?」
「よしよし、偉い偉いだよ。 なでなで」
魔物との戦闘が終わり、レナがリンドの活躍を誉めている。隙をついての死角から飛び出し、敵の急所を貫く。最後の一匹を仕留めたリンドは誇らしげにレナに撫でられている。
僕達は、野営地を出てからもう二十匹は魔物と遭遇し倒していた。かなりの数だ。
これは、ちょっとまずいかも......僕は全然大丈夫だけれど、皆の疲れが目に見えて出始めている。特に、レナとステラが辛そうだ。
そして心配な要因の一つに暑さがある。なんかものすごく暑い。皆汗をかいていて、黙って立っていると滴になってポタポタと落ちる程だ。
けれどおかしいな。曇りで日も陰っているのに、なんでこんなに暑いんだろう。何かおかしい......そういう気候の地域に入っているのかな?
そう思っていたら、エルナが近づいてきた。
「んなあ、ノア。 なんか異様に暑くね? 皆汗だらだらだしさ。 水もすぐ無くなるんじゃない? これ、どっか飲み水をくめる場所探したほうがよくないかー?」
「確かに......二つ目の野営地に着く前に体調を崩してしまう人が出るかもしれない」
ていうか、うちのパーティーがヤバイ。エルナ達はまだ大丈夫そうだけど......ていうか次の野営地で全然平気そう......ん?
もしかして......。
「エルナさん、うちのパーティーの事気にしてくれて......」
「んあ? あー......うー......」
? なんか頭を押さえてる?どうしたんだろう......熱でやられたのか!?
「いや......ステラとレナが、ほら、苦しそうだから。 だって、友達......だし」
恥ずかしさのあまりか、エルナの言葉が段々小さくなっていったが、最後の友達の下りがギリギリ聞こえた。友達か、成る程。
二人の事友達と思ってくれているのか。嬉しいな。
「......ありがとう。 エルナさん」
「な、なんでお前が礼を言うんだよっ! ていうか、「さん」つけんな! エルナで良い!」
ふふっ。可愛いなこの人。
「わかったよ、エルナ」
「あー! 何で笑ってんだよ! こいつ!」
ギュムムム!と、首を脇に抱えられる。
当たって!当たってる!これヤバいから!ほら、遠くから見てるから!凄い目で見てるんだからーっ!!
「はっはっは! どーだよ、まいったかっ!」
まいったよ、本当に......ガタガタガタ。
◆◇◆◇◆◇
???「あいつら凄いっすね、あれだけ差し向けた魔物を簡単に......」
???「中には結構な強さの奴もいたのに......なんであんなにつええんだ」
そりゃあ、そうだろう。と、座っていた褐色の肌の魔族が腰を起こした。
赤々とした炎のような色と形の髪。腰には二刀の剣。背には大剣。
「神器をもつ奴が一人、他に召喚士と、傭兵のような奴らが三人。 そして魔族の女......皆、かなりのレベルの強さだ」
「特にあの黒い服の剣と盾を使っている、少年。 動きに一切の無駄がない。 あいつが一番強い」
???「ち、ちなみにですけど、あの中の四人が領主の魔物を倒した者達ですぞ」
「おお、どうりでってやつだな? 楽しくなってきたなあ......じゃあ、予定通り奴らが次の野営地に着いたときに仕掛けるか」
四本のある腕の一つ、その手のひらには小さな太陽が浮かんでいた。




