~31~ 撃退
あの日、ノアがサリアを倒し帰って来た時、私は安堵の気持ちと共に不安にかられたのを覚えている。
ノアは彼女、サリアを......そう、殺したのだわ。
なのに、あれほど魔物でも魔族でも命を奪うことに対して否定的で、その大切さを知っていた彼なのに......動揺している素振りもなく、平然としていた。
けれど、私は感じていた。ノアが心の傷によって、里でのいじめによって、嘘を見抜くように。
私も彼が無理をしていることに気がついていた。
なのに、倒れるまで何も出来なかった。
私は、命を奪ったことを責めようだなんて思ってもいないし、ノアの事がとても大事だし、大切で大好きだ。
だから彼が死ぬくらいであれば、私は敵の命を奪ってほしい。そこになんの迷いもない。......そんな事を考えながら、私はあの時のサリアと結局は同じなのだとふと気がつく。
自分のために相手を殺す。それが力のためか生きるためかなんて関係ない。
殺したか殺してないか......それだけなのだわ。
自分の身勝手差に気持ちが暗くなる。悪魔と言われたサリアはショックを受けた顔をしていた。......悪魔は私もなのだわ。
ノアが倒れてしまった原因。アレオスが精神的なものだと診断して、私は確信する。やっぱり、サリアとの戦いで心に負担がかかっていた。
熱にうなされているノアをみながら私はもう守られるだけでは駄目だと、ノアと一緒に生きていくなら強くならなければと思った。
だったら、もっと強くしっかりと戦えるようにならないと。
今回のようにノアにだけが辛い目に合うなんて事がないように。私も出来るように。
そのためにはやっぱり、まずは魔族の戦闘力の大部分を占める魔力を使った戦いかたが出来るようにならないといけない。
この魔力の封印さえ解ければ......私の能力が使えるようになれば、ちょっとは役にたてれると思うのだけれど。
魔力の封印解除......どうしたら良いのだろう。
◆◇◆◇◆◇
けれど、とにかく今はノアの看病だ。アレオスが近くの森に熱を冷ます効果のある薬草があるかもしれないという事で、探しに来ている。
ノアはレナに任せてある。森は魔物がでるかもしれないから戦える私がアレオスと一緒に来ているのだ。
「......いるね。 魔獣の類いだ」
「......うん」
アレオスが小声で私に言う。そして私は頷き、目でその魔獣のいるであろう場所を指す。木々が囲む森のせいで、暗く見えないがあの先に魔獣がいる。
私は鼻が良い。気配を読むまでもなく、敵の居場所を正確に知ることが出来る。
私はシウに貰ったダガーを鞘から、するりと抜き腰を落とし構える。アレオスは護身のために杖を構えた。開戦の時を待つ。
逆手に持った赤く綺麗な刀身のダガー。素振り等の練習をしていたが、実戦は今が初めてだ。
心臓が私の中で破裂しそうなくらい暴れているのだわ。
そしてそれが私たちの前に姿を現した。
物凄い速さで突進してきたそれは、熊のような姿の魔獣。しかしただの熊と違うのはその大きさ。私よりも遥かに大きい体躯で、立てばアレオスの二倍くらいある。いや、それ以上?
ドオオオオン!!
私がギリギリでかわすとその熊は後ろにあった大木へ激突した。このままのびてくれれば良いのだけれど......と、思っていたのだけど、全然平気そうだ。頭から突っ込んだのに......。
「魔力が体に蓄積して体毛が赤くなっている......レッドグリズリーか......!」
! 返り血とかだと思っていたけれど、違うのね。良かった。ちょっと内心びっくりしていたから......血だったら怖すぎる。
でも......なんだろう、私、初めての戦闘なのに......怖くない?あれほどの見るからに恐ろしい魔物なのに。
とりあえず、このダガーがあの子の体にささるか......これが効かなければ最早攻撃手段がないのだけれど、アレオスに逃げる準備でもしておいて貰った方が良いかしら?......っと!
グルルルル......ゴアアアアア!!!!
レッドグリズリーの鋭く長い爪がステラを襲う。しかしステラもノア程ではないが反射神経があるようで、その全てをかわし続けている。
そして隙を見つけ、逆手に握ったダガーを叩きつけるようにレッドグリズリーの太もものあたりへと刺す。が、ステラもそうなるだろうと予想していたが、強靭な体毛に弾かれ全く刺さらなかった。
「――! やっぱり、攻撃が通らない!」
するとレッドグリズリーは引っ掻きが当たらないと見るや、その大きな体で潰そうとステラへと覆い被さってきた。
ズウウウウンンンン!!
あまりの重量に大地が揺れ地響きがしたように感じる。ステラは間一髪逃れたが、依然として倒す算段を立てられずにいた。
あの体重であの素早さはとても危険なのだわ。一回でもあたればそれで終わりかも。でも逆にそれを利用できれば......?
ノアなら、多分......こうする?ちょっと危ないけれど、でも確実にダメージは与えられる!
ステラはもう一度腕を体の前で交差させ、腰を落としダガーを構える。
レッドグリズリーは唸りながら、うろうろと歩きながら飛びかかるタイミングを見ている。
さあ、くるのだわッ!
するとレッドグリズリーは、グガアアアアアアアッ!!!と、またもや覆い被さるように両腕を広げ、飛びかかってきた。
ここだ!!狙う所......ここなら攻撃が通る!
私も体勢を低くし、飛び込みに応じ迎え撃つ。レッドグリズリーの凶器とも呼べる破壊力の爪と腕を、ステラは華麗な動きでするりと掻い潜り、後方へ抜ける。その通りすがりに目を斬りつけた。
グゴアアァ!?
普段の練習の効果もあり、正確に右目を攻撃することに成功した。これでレッドグリズリーに大きな死角が出来た。
これで、戦いを有利に進められるのだわ。
と考えていると、レッドグリズリーはもの凄いスピードで森の奥へと消えていった。
「......行っちゃったのだわ」
「す、凄いぞ、ステラ! 初の実戦なのにこんなに上手く動けるなんて! それにあのレッドグリズリーって名前は体毛が魔力で赤くなったと言うのもあるけど、冒険者達の血を沢山浴びて赤くなったって話もある。 それくらい強くて危険なんだよ。 すごいなあ!」
やっぱり血の赤なの!?ていうか危ない魔獣って早く言って欲しかったのだわ!
戦いに勝ったと言う喜びと、私も戦えるとわかった喜び。
しかしそれとは裏腹に手が震えている。それを眺め、ノアの力と気持ちを思いしった。
戦うのって、怖い。でも......。
ノアを支る。私が。
ステラも強くなりつつあった。大切な人の力になるめに。




