~30~ 雨音と滴
道を歩くこと二時間。はあはあ、とレナの呼吸が荒い。辛そうだ。
「アレオスさん、そろそろ休憩しない?」
「ん。 そうだね、どこか適当な場所で休もうか」
「ご、ごめんなさい......私なら大丈夫ですから......頑張りますから」
レナが汗を袖で拭いながら僕らに言う。きっと気を使っているんだ。
辛いことがあったばかりで、心も体も消耗してるはずなのに......なんて声をかけてあげたら良いんだろう。まだ先は長いからゆっくり行こう?違うな。
そう思っているとステラがレナへと声をかけた。
「あー! レナ、みてみて! あの花、レナが言ってたやつじゃないかしら」
「え? あ......ほんとだ! すごい!」
「ね! レナの話していた通りとても綺麗な花なのだわ!」
「はい! 綺麗ですね!」
その花は暁葉薔薇と言う珍しい花だった。葉っぱが赤く、花弁は黄色みがかった白で、普通の薔薇とは全然違う色合いだった。
これは初めて宿に泊まった時に、ステラとレナが夜更かしをしながら見ていたレナの押し花の本に載っていた物で、楽しそうに話をしているのが聞こえていたので覚えている。
アレオスと僕も花を見る。
「あー、本当だね。 これは珍しい。 ノアは見たことあるかい?」
「ううん。 僕も初めて見た。 すごく綺麗だね」
ステラはレナの事を元気付けようとたくさん話しかけている。ステラのおかげでレナもだいぶ話をしてくれるようになってきた。
少しずつだけど笑顔も見せるようになってて、多分ステラの持つ優しくて明るく元気な性格による所もあるんだと思う。
彼女は側にいるだけで明るく人を照らす。
そして少しの休憩を経て、また港町ミーナルへ続く道へと歩き出す。
ちなみにミーナルへはおよそ二日かかるくらいの距離なので、まずは一番近い野営地を目指している。
無事につければ良いんだけど。
と、その時、鼻の頭を滴がポツリと濡らした。次第に地面へとポツポツと黒い影を落としていく。
雨だ。
「これはちょっとまずいかもね......向こうの空が真っ黒だ」
アレオスが指差す場所を見ると、大雨になるぞと言わんばかりの黒々とした雲がこちらに迫っていた。
あれに来られたら大変だ。
「雨宿りできる場所を探した方がいいわね。 レナ、これ被って」
と、ステラは自分の着ていたものをレナへとかけてあげる。弱っているレナは雨に濡れたら風邪をひきかねない。
ステラは本当に優しい。じゃあ、ステラには僕のやつを。
僕はふざけてステラの頭から被せる。視界が塞がれ慌てるステラ。
「わっ!? ......びっくりしたッ! 急に顔に被せないでよ、ノア! もー!」
ぺしっ!と僕の肩を平手ではたく。あははっと笑う僕。
ステラも風邪ひいたら大変だからね。
それに僕は勇者だからか、風邪をひかないみたいで生まれてから一度も経験がない。
ちなみに里の勇者候補も風邪をひいたのをみたことないし、この体質は本当に勇者だからだと思う。
ステラは小さく、「ありがと」と言った。
雨が強くなってきた。これは早く移動しないと。どこかに良い場所ないかな。
するとレナが、あの、と話しかけてくる。
「あそこに......あれ、お家じゃないですか?」
みてみると、木々の間から微かに黒い屋根らしきものが見えていた。
「あれは、家かもしれないね。 行ってみようか」
「流石レナなのだわ! 四百点あげるのだわ!」
「ありがとうございま......いや、多すぎませんかっ!?」
レナがステラに突っ込みをいれた!?いや四百点は多いけど!
そして僕達は家を目指し歩き出した。
? なんか足がふらつく......?
くらくら......する?
――ドサッ
◆◇◆◇◆◇
そして僕は風邪をひいた。
「だ、大丈夫ですか......?」
「ノア、苦しい? ごめんね、私がノアの上着を貰っちゃったから」
「......ううん。 大丈夫だよ、ステラが風邪をひくほうが嫌だし」
家は空き家で、結構な間使われてないようだった。
雨漏りもないし、僕も動けなくなってしまったので使わせてもらう事に。
ベッドとかはなかったから、床になるけどとりあえず寝袋で寝かせて貰っている。
アレオスの話だと正確には風邪ではないらしい。疲労とストレスからくる熱ではないか?との事だ。
どちらにせよ早く治さないと......急がないと行けない旅だ。
こんな事している場合じゃない。
だめだ、意識がぼーっとしてる。風邪をひくと熱がでると言うけれど、みんなこんな苦しみを耐えているのか......すごいな。
そんな事を色々と考えていたら、ステラが顔を覗きこみ言う。
「......ノア、だめよ。 今は何も考えないで、ゆっくり休むのだわ。 そのほうが治りは早いと思う」
「そうだね。 おそらく精神的なものが大きいと思う。 だからステラの言うとおり、あんまりものを考えずにゆっくり休んだほうがいいね」
頭を優しくステラが撫でている。なんだろう。すごく落ち着く。
僕は目を閉じ、深い眠りへと落ちた。
ふと、誰かが僕の頭を撫でている感触がして、目が覚める。
また、ステラが撫でてくれているのかなと薄目をあけ、みてみるとそれはレナの手だった。
視線だけで回りを確認すると誰も居ない。
ていうか、目が覚めて頭の位置が少し高いと思ったけど、レナの膝だったのか。寝づらそうにしていたかな?それで枕代わりに?
レナも優しい子だ。
......でも風邪うつったらあれなので、もう大丈夫だよと声をかけよう。と、そんな事を思っていたら急にレナの顔が僕の頭へと下がってきた。
そして額に柔らかな感触が......ん、あ?え?
ど、どどどど、どういうこと?
そしてゆっくりと顔を戻すレナ。その時、僕はびっくりしてレナを注視して固まっていたので自然と目が合う。
時が止まり、レナの顔がゆっくりと赤くなっていく。
「......ち、違うんです。 早く熱が下がるおまじないなんです。 これ私の村のやつで、知ってる人あんまりいなくて......あ、でも基本恥ずかしいので誰にも言わない方がいいです。 あとしない方が良いですよ。 びっくりしちゃうんで。 なにが言いたいかと言うと、誰にも言わないでくだしゃ......ください!」
めっちゃ喋るね!言葉噛んでるし。可愛いの極みだなこれは。
「う、うん......わかった」
僕の熱はしばらく下がりそうにないかもしれない......。




