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~29~ 闇を照らす

 


 星の流れる闇夜。レナの母親がその波間へと、消えて行く。


 座り込み泣き続けるレナの肩を抱いて、ステラも泣く。彼女の心に寄り添うように。


 アレオスが僕に言う。


「それは、君の神器の力なのか......? あれは魂だが、魂ではない......何かが違った......一体あれは」


「うん。 サリアさんの中にあった魂を、僕の神器が映し残したんだ。 レナのお母さんの記憶と想いの欠片を。 村人皆の魂はサリアさんと一体化していたから、一緒に消えてしまった......」


「ノア、君の神器は神器では無いのか? そんな力、普通の神器には無いはずだ」


「......わからない。 でも、里の長は僕の神器は最強だといっていた。 持ち主の心を映して形を変えるって」


 僕の神器は......心映はそれだけでは無い気がする。この想いを伝える力があれば、争いの無い世界がつくれるかもしれない......,!


 これを、王との話し合いの場を設けて貰う為の交渉に使う。危険な事かもしれないけれど、でも他に手だてが無い。

 なんでも良いから、興味をもって貰うことが大事だ。僕の力は多分欲しくなる。


 するとアレオスが考え込むノアに言う。


「ノア、君が何を考えているか当てようか。 王と話をするためにその能力を見せる気だね?」


 アレオスには、王と話をする事と次の生け贄の期日まで、魔物達は生け贄をとらない事。その二つの村へ帰る道中に言ってあった。


「それは絶対に止めといた方が良い。君はまだ知らないんだ。人は時として魔物や魔族以上に恐ろしい生き物だ。 その力は必ず利用され悲劇を生むよ......」


「でも、そうするしか......それに大丈夫。 僕は必ずやりとげて見せる。 彼女の想いを繋ぐと約束したから」


 そうだ。これはもう僕だけの願いでは無いんだ。だから、どんな事でもやれることはやらないと。

 アレオスが腕を組み、はあ、と溜め息をつく。



 ◆◇◆◇◆◇



 朝、僕らは誰もいない村で旅の支度をする。アレオスは簡易のお墓に祈りを捧げ、ステラはレナの旅支度を宿で手伝っている。

 僕は武器屋で投げナイフを四本貰い、代金を置いといた。


 ふと、手のひらをじっと見る。あの時の、彼女の体を貫く感触。命が消えゆく瞳......夢のようにも思えるくらい現実味がない。

 でも、僕は殺してしまったんだ。間違いなく......。


 手が震えだす。駄目だ、しっかりしないと。気を強く持て......僕にはやらなきゃいけないことがあるんだから。だから命を奪う覚悟を決めたんだ。そして失う覚悟も。


 全てを抑え込むように手を強く握った。




 昨日話し合いをした時に、国の巡回兵が来るまで待ってその人にこの惨劇を報告すると共に、国王へと話を取り持ってもらうという事を案としてアレオスに言ってみた。

 アレオスは、「いや、それならここから最も近い町、ミーナルにいる領主の方が良いだろう。 彼は人側の領主で、ここら辺の魔物の領主を統括している。 王への耳にも入りやすいはずだ」と言った。

 それならその方がいいかと思い、ミーナルへ目指す事になったのだ。


 けれど、そうなれば、逆に兵の来ない内に立ち去った方が良い。兵が来れば村でのこの惨劇の事情聴取等で、長い時間をとられる事になる。僕らにそんな時間はない。

 だから、兵が来る前に村を出ようという事になり、旅立ちの支度をしているところだった。


「ノアー! これ、レナがノアにだってー!」


 ステラが遠くから呼んでいる。隣にはレナが笑顔でいる。けれど、やはり空元気という面持ちだ。レナは頑張ってる......なんとか、支えてあげたい。


「どうしたの? これは......盾? 凄い綺麗だ」


 三角の形をした大きめの盾だ。三角だけど一角が長くなっている。

 これはカイトシールドというやつだ。


「お父さんが国の兵だったんです。 それで、その......形見なんですが、かなり良いものだと聞いていたので。 使えるかなあと。 でも、形見なのであれなら、捨てて行きます」


 レナが申し訳なさそうにこちらを上目遣いで見てくる。

 小動物のような、こう、無条件で守りたくなるような可愛さだった......はっ!と横のステラを見ると、にこにこしていた。良かった......でもこれは、笑って無い気がする。なんとなく。


「これは、立派な盾だ。 良いものを貰ったね、ノア。 けれど少し重そうだね、大丈夫かい?」


 アレオスが村人達への祈りを終え、戻ってきていた。


「うん、僕、これでも一応勇者として育てられたからね。 力は結構あるよ。 だから大丈夫」


 むしろこれくらいなら軽い方だ。ありがたく貰おう。レナは貴方の代わりに僕がちゃんと守るから......力を貸してね。そんな事を思いながら僕は盾を背負った。


「わあ、本当に勇者様みたい......あ、いえ、すみません。 絵本の勇者様のようだなあと、その腰の剣と背の盾。 とてもカッコいいです」


 あ、可愛い。レナの表情が明るむ。


「ノアさんは、本当に勇者様......なんですよね。 その、勇者様がこの村へと来るって言われてるのはまだ先の話で、私、初めて勇者様とお会いしたから......」


「最初は、普通の旅のお方だと思っていました」


 まあ、僕は勇者とは言えない勇者だけど。僕を勇者と認めてくれているのは、このステラはだけ......って、あれ?怒?なんで?


「ノアさん、私を助けてくれてありがとうございます」


 レナが僕の目を真っ直ぐに見ている。


 本当は辛くて仕方ない。でも頑張って笑顔をつくり、僕に感謝を伝えている。

 この気持ちに応えたい。これでも......里から逃げた落ちこぼれだけど、僕は勇者だから。


 ステラの勇者でずっといられるように。人の想いを繋いで、僕は勇者として生きていく。


 僕はレナに言葉を返す。笑顔で。


「......ありがとう、レナ」



 ◆◇◆◇◆◇



 それぞれ最後の別れに、村へと祈りを捧げる。レナが宿へと「行ってきます。お母さん」と手を振る。


「行こうか......」


 アレオスが言い、僕が頷く。ステラが「うん」と言い、「レナ」がはいっと短く返した。

 こうして四人の旅がまた始まった。


 ベルゴがいないけれど......さいごにちゃんとお別れとお礼を言いたかったな。

 まあ、生きていればまたいつか会えるかも。



 ◆◇◆◇◆◇



 ~ミーナル港町~



 ザザーン


 波の音が繰り返され、海辺に時折あがる楽しげな笑い声。ここミーナルは観光地としても有名で、また領主であるカジョウロウと言う男が住む大きな屋敷があることでも有名である。


 カジョウロウは腕の立つ兵を四人雇っていて、それにより町の警備は固く、付近の魔物はこの兵が処理していて領主の魔物は此処等には訪れない。


 その四人の兵は皆全身を鎧で固めていて、魔族なのか人なのかもわからない。

 ただ、戦闘力だけでいうなら、魔物以上の騎士以上。


 化け物だと言われている。




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