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~28~ 心映

 


 ノアがサリアの遺体を背負う。気がつくと、うっすらと空が明るくなりはじめていた。


「ごめん。 来るのが遅れて。 間に合わなかった......」


 僕が、もっと早くに来られていたらまだ救えた命があったかもしれない。


「いいや。 お前がいなければわしらも死んでおった。 お前は救えなかったんじゃない......わしら二匹を救ったんじゃ。 前を向け、若き勇者よ」


「そうやって後悔しとる内に、また救える命がこぼれ落ちていくぞ? 胸を張って進め」


 そして、見せてくれ。


 死んでいったこやつらにも......新しい時代とその形を。


 紫オークは頷き、さあ行け仲間の元へ。と言葉短く言った。



 ◆◇◆◇◆◇



 村へ戻ると、アレオスが村人達を運んでいるのがみえた。ひとりでやっていたようで足がふらふらしている。

 ステラは多分、レナの側にいるんだと思う。


「アレオスさん、ただいま......」


「ノア! 良かった、無事だったのか! 本当に良かった......!」


 そして背負っているサリアを見て、一瞬驚いた表情になったが、すぐに悲しそうな顔になった。


「そうか......彼女を、サリアを倒したのか」


「うん、僕が殺した。 僕が決めたんだ。 そして覚悟した......サリアの想いを僕が背負っていくよ」


 そうか、とアレオスが頷く。


「ステラとレナは?」


「ああ、宿はレナの事があるから、近くの空き家に避難させてもらっているよ。 こっちだ」


 案内を経てついた空き家。ボロボロの屋根に所々破損している壁。

 扉をあける。


「――ノア!!!」


 ステラは僕をみると飛び込むように抱きついてきた。ひっくひっくと嗚咽も聞こえてきて、泣いているのが顔を見ないでもわかる。


「ごめん。 心配かけた」


 そういって僕はステラの頭を優しく撫でる。震えるからだにどれだけ僕のことを心配していたのかがうかがい知れる。


「本当にっ......本当なのだわっ」


「でも、ちゃんと帰って来てくれた......良かった。本当にっ......うああああん」


 号泣するステラの背中をさする。

 よしよし。心配かけて、本当にごめん。


 レナは部屋で眠っていると聞いき僕は向かった。

 扉の前に立ち、小さくノックをする。そして聞いているかはわからないけど、話しかける。


「レナ、僕......ノアだけど、戻ったよ。 後で見せたいものがあるんだ。 落ち着いたら来てほしい。 無理はしなくていいからね」


 ......。


 返事は、無い。ここはそっとしておいた方がいい。失ったものが大きすぎる彼女は、今は誰の言葉も届かない。


「アレオスさん、僕も村の事手伝うよ。 このままじゃ皆可哀想だよね」


「ありがとう、何せ村ひとつの人数だ。 ステラはレナの所に居て貰っていたし、ひとりでは限界があるからね」


「ごめんなさい、アレオスさん。 私も手伝えれば良いのだけれど......レナが心配で......」


 レナの気持ちを考えての事だろう。あれだけ仲の良くなった友達が、こんな悲劇に見舞わられて心配にならない訳がない。

 レナを任せられるのはステラしかいない。


「ステラがレナについていてくれるから、安心できるんだよ。 だからそんな悲しい顔しないで」


 僕はそう言ってステラの頬を撫でた。上目遣いでこちらを見るステラ。

 うん。と小さく頷いた。



 ◆◇◆◇◆◇



 気がつけば、日が沈み町にはまた明かりがついていた。どうやら、魔石の類いで光が灯るようで、日光が消えたら勝手につくみたいだ。


 なんとか一日がかりで村人達を埋めてあげる事ができた。しっかりしたお墓は作ってあげられないけれど。できるなら、皆が安らかに眠ってくれる事を願う。

 そう思い、祈りを込め目を閉じた。すると、空き家からステラとレナが出てきた。


「......レナ。 決着をつけてきたよ。 帰って来た 」


 レナは僕の顔を見ようとはしない。と言うより、誰とも顔を合わせたくはないんだと思う。


「......ありがとう、ございます。 ......ノアさんは、あの人を殺したんですか」


「うん」


 沈黙が流れる。僕がそれを肯定した時に彼女の表情が少し険しくなった気がした。


「......でも、お母さんは。......ごめんなさい。私、ごめんなさい。......お願いが、あります」


「私、もう......辛くて、苦しくて......だ、だから」


「殺して、ほしい。 私もここで、皆と......」


 ステラはその言葉を聞き、声をあげることも出来ずに静かに泣いていた。レナの気持ちがわかるから、止める事もできない。

 アレオスは静かにたたずみ、僕とレナを見ている。


「......レナ。 どうしてもそうして欲しいと言うなら、僕がやってあげる」


 僕は神器、心器を発動させる。碧と翆の細やかな光の粒が右手に収束し、美しいロングソードを形成した。

 暗き夜に光の影を作る。


「僕は君を止めることは出来ない。 けれど......その前に、渡すものがあるんだ」


 レナは虚ろな目をこちらに向けていた。もう僕の言葉が届いているのかわからない。


 そして僕はロングソードを振り上げる。レナの瞳が剣の光を映し、振り下ろされる死を待ち望んでいるのがわかる。


 そして僕はロングソードを、淡く燃えるような揺らめく光の球体へと変えた。


「あれは......」と、アレオスが気がつく。


 その光の球体は、ぼろぼろと崩れ始め、光の粒子になりやがてレナの前へと集まり始める。

 そして、人の形を作る。そうだ、これはサリアに奪われたレナの母の魂。


「......お母さん?」


 目を丸くし、驚くレナ。


 母親は優しくレナを抱き締めた。光が......母の記憶が、気持ちが、彼女を包み込む。









 ――






 ――レナ





 綺麗な花ね......お母さんに? ありがとう、レナ。



 私の大切な、レナ



 また夜更かししたの? いいわ、今日は寝ていなさい。



 大丈夫、レナと二人ならお母さん頑張れるから。



 レナ、レナ......レナ......



 たくさん苦労をかけて、本当にごめんね。



 あなたの事を、本当に、たくさん愛していたわ。



 ......



 ――





「......あ、あ」


 レナの目からはたくさんの涙が流れていた。


 そして、想いを果たした魂は、母親は、ゆっくりと静かに光の粒となり消えて行く。


「お母さん、行かないで!」


 追いすがるレナ。最後に触れたお母さんの光、想いの欠片。その時、レナは確かに言葉を聞いた。





 ――レナ、生きて――




 レナはその場に崩れ、泣き叫ぶ。母親の想いを抱きしめて。





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