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~1~ 歴代最弱の勇者

 



 歴代最強といわれた勇者パーティーが魔王討伐に失敗し、約五年の月日が経った。


 最初にその話しを聞いたとき、僕はとても信じられなかった。

 どうしてかと言うと、その勇者パーティーは歴代最強といわれていて、魔王城へとたどり着ければ必ず魔王の首を持って帰ることが出来ると、世界中の国々で言われてたからだ。


 というよりも、僕がなによりも信じられなかったのは......信じたくなかったのは、勇者パーティーのメンバーであり師匠である、家族のように思っていた女性、シルフィがその戦いで亡くなってしまったと言う事だった。


 僕がたった一人の家族だったお母さんを病でなくし、ひとりぼっちになってしまってから、彼女は辛く悲しい時も支え親身に接してくれた。

 もう一人の家族のように思っていた人だ。


 そんな彼女、シルフィがもう帰ってこない。その事実に向き合わなくてはならなくて......。

 もう会えないという寂しさ、本当に僕は一人になってしまったんだ、という現実で押し潰されそうになった。


 しかし、次第に思うようになった。シルフィの望んだ事って何だったんだろう。

 命をかけてまで......。


 そうだ、僕が......シルフィの代わりに!


 僕は勇者になる明確な目的ができた。


 必ずシルフィの、師匠の敵を取り、望みを叶えてみせる。


 そうだ、僕が魔王を倒すのだと。かたく誓った......のだが。



「またかよ!! だんご虫かっつーの! おまえは!はは」


 ドカッ!バキッ!


「いッ......ぐあッ」


 頭を抱え、身を守る様は確かにだんご虫みたいだった。

 最早、戦う意志も折れ僕に与えられていた戦う術である訓練用の木刀は彼に奪われ二刀でぼこぼこに殴られ続けている。


 今まさに、僕に木刀を振るい続けている彼は、名前をアランと言って、この里の八人の勇者候補のリーダー的存在だ。

 その実力的に魔王討伐を期待されていて、里の先生や他の勇者候補達にも特別扱いされている。髪は金色で、整った顔立ち。


 そして、僕はアランのその猛攻がおさまるのを痛みに耐え、時が過ぎ収まるのを待つしかなかった。

 苦痛に耐える姿はそれはひどく惨めで不様で、他の勇者候補からも野次が飛ぶ。


「は!? まだ全然時間たってないぞ!?」「練習になんないじゃん......」「根性みせろよー。 おーい」「さすがノア。 殴られるために存在してるみたい」


 里の先生も、溜め息をついているのがわかる。戦わなければと、立ち向かわなければと心で思っても、()()()()()()()()()


「アランもういい! 止め! まったく......ノアはホントに。 そんなことでは勇者になんかなれないぞ。」


 そう言った後にぼそりと「......まあ、この弱さだとなれるわけないがな」と付け加えていた。


 体感にして数時間とも思える地獄の時が先生の発言により終わりを迎えた。しかし、アランは物足りないようで、僕の前髪をわしずかみにし頭を引っ張り、耳元で囁く。


「お前は勇者になんてなれねーよ。 なれても最弱......クク。 歴代最弱の勇者だな。」


 ポイっと投げられた僕の木刀が、目の前に音を立て転がる。


「ノア! いつまでうずくまってるんだ! 次の訓練の邪魔になる、どけろ! どれだけトロいんだ、まったく」


 先生に言われ、涙を汚れた服の袖で拭い、痛むからだを引きずりながら近くの木陰へと移動した。



 僕は思い出す。あれは......そうだ。

 僕へのイジメが始まったのは、確かお母さんが病で死んでからだったと思う。


 いつも優しく、僕を育ててくれたお母さんは、ただ一人の家族だった。だから死んでしまってから僕は心を塞いでしまって一人でいることが多くなっていった。

 元々、内向的で大人しかった僕は攻撃しやすそうに見えたのか、それを期にいじめられるようになって......。


 最初はなんとなくの居心地の悪さから始まり、後にはっきりとした暴力に変わった。

 そしてその時の恐怖が、トラウマになりアランや里の勇者候補の仲間と対したとき、体がすくみ動けなくなるようになっていた。だから訓練ではまともに体が動かず、一方的にやられるだけで......。

 普段の生活でもアラン達の顔色を伺って、うまく喋る事もできなくなった。


 けれど、そんないじめを、苦痛な時を耐えてこられたのには理由がある。


 勇者候補と言うのは特別で、その体に流れる勇者の血により普通の人とは違い、魔物や魔族といった敵と戦うために成長するに従い体が丈夫になったり力がつく。

 そして、十五歳を迎えた者は儀式により《神器》と呼ばれる自分だけの強力な武器が出せるようになのだ。


 これは、勇者の血による神力と言うオーラから発現する物で、どんな攻撃でも絶対に壊れる事はないと言われている。

 剣はもちろん、大きな斧や、鞭など色々な物があるが、それは勇者候補の潜在能力を現しているようであり、歴代の勇者と照らし合わされ、里では魔王討伐における勇者の力を測るひとつの指標になる。


「勇者としての資質を測る......神器次第では、こんな僕にも強くなれる希望がある」


 歴代最強の勇者は金色に輝く、美しいロングソードだった。他の強かった勇者達も殆んど何かしらの剣である事が多かった。

 僕にも可能性があるんだ。そのために今日まで耐えてきた。努力してきた。頑張ってきた。


 ――お願いします、神様。僕に......力を下さい。



 ◆◇◆◇◆◇



「――では、勇者候補のお前達の勇者となる儀式を始める」


「今から行われる儀式。発現する武器により皆の勇者としての価値と資質が決まる」


 集められた八人の勇者候補の前にいるのは、先生とそして白い着物を着た女性が立っていた。誰だろう?この里の人ではない。

 そう思っていたら、その疑問には先生がすぐに答えた。


「この人はお前達が潜在能力を引き出せるようにするために来ていただいた。 ......皆も、もう知っている通り、今日の儀式は神器を引き出すためのものだ。覚悟を決めろよ」


 我が子が勇者となる儀式ともあって、この日は勇者候補の親達や里の長も場にいあわせている。

 広場では、集まった親同士の子供の自慢やマウントの取り合いなどの会話が聞こえていた。

 唯一親がいない僕にはやっぱり居心地がわるい。


 そして、始まる儀式の時。簡易的に設置された壇上には着物の女性が白い杖を持ち登った。

 女性は頭からフードのようなモノを被っていたので、あまり顔が見えなかったけど、微かに見える目下からはおそらく美人であることが伺えた。

 赤く塗られた唇が動き、艶のある声で勇者候補を呼ぶ。


「では、そこの方......来て下さい。」


 そう女性が指を指し、選ばれた勇者候補の一人が前へと進み壇上へと登った。

 女性は杖を振りかざすと、短く何かを唱えた。よく聞き取れなかったけど、神器を発現させるための呪文を唱えたのだろう。

 そして杖が淡く光ると候補者の体に光が移り、目前で勇者候補の体から漂う金色の光が、武器を形作る。あれは......


「おお! やったぞ! 《大剣》だ!!」


 オオオーッ!と、周囲から歓声がわく。

 神器の大剣は、最初の勇者が使っていたとされる物で、勇者の資質を測る上ではかなり期待される武器だった。

 同期の勇者候補が発現させた神器に、僕の期待値があがり気持ちも高揚する。

 僕も......僕の武器だって、きっと!


 そして、その後の候補者も強力な武器を発現させて勇者へとなっていく。

 勇者候補から神器が発現される度に、観客となっている里の人達からは歓声があがる。

 これはすごい!剣ばかりじゃないか!とか、今回の勇者は期待できるやつばかりだな!とか聞こえてきた。


 ついに最後の二人になり、まずアランが呼ばれ壇上へと歩き出す。

 彼は自信に溢れた表情で、自身の力を少しも疑っていない様子だった。


「では......」


 そう言った着物の女性が神器を発現させるため呪文を唱え、アランの体が光だした......すると女性の顔色が変わる。

 とてつもなく星の瞬きにも似た、それまでの勇者候補の誰よりも眩しい光がアランを包む。

 そしてその一際輝きの光が収束し、アランの武器を構築した。


 それは、歴代最強の勇者が使っていた《ロングソード》だった。


 細部までそっくりなその武器を発現したアランは、その誰の神器よりも金色に美しく輝く、綺麗な刀身の神器を見せつけるように、堂々と高らかに掲げる。すると、その儀式会場はアランへの声援でおおわれ尽くした。


 里の大人達の中には、アランが最強の勇者の生まれ変わりだと言う人もいた。

 里の長は静かに頷き、他の勇者候補達もまたアランを称えていた。


「さすがアランだな」「アラン......やっぱりすごい。カッコいい」「あいつこそが、最強の勇者になる器だったんだ」


 まるでもう魔王を討ち取ったかのように沸く広場。アランが壇上から降りてきて、入れ替わりかに僕が登る。


「では......」


 と、女性が言い前の勇者達と同様、光が僕を包み込む。

 そして、目の前に神器と思われる物が現れた。しかしどうも様子がおかしい。


 光が消えかかっている......?


 やがて、消えた光のあとを見ると、そこにあったのは《小さく歪んだボロボロの盾》であった。






「......え?」




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