~24~ 里の勇者達
――よし、やった、やったぞ!俺も里から逃げてやった!ノアに出来て俺が出来ない訳がない!
そうだ、このアランがこのまま里で使われ一生を終えるなんて、ありえねえ事だからな!
このまま迷いの森を抜けて、どっか適当な村か町で再起を図ってやる。
? なんだあれ。
遠くで光る赤い何か。それが気になりアランは確認しにその場へと寄っていく。
するとそこにいたのは四体の死体と、その光の元であろう魔法を両手に宿した二本の長い角が生えた魔族であった。
あ!?ま、魔族だと!?死んでるのは......ガードじゃねえか!
やべえぞ、あの魔力量は......!ここからでもわかる!かなりの力を持った魔族だ......どういう状況かはわからねえが、見つかる前に逃げねえと!
踵を返し、再度逃走しようと振り返ると、一人の男がいつの間にか背後に立っていた。気配が全然なく、そこらに生えている木々のように存在感がまるでない。
「やあ」と、話しかけてくる謎の男。
男は黒髪で肩まで髪が伸びていて、まるで鷹のように鋭い眼をしている。
「こんな夜遅くに出歩いてはダメじゃないか......よし、俺が送っていこう」
は?と言葉を吐く間もなく、出たのは腹部に拳を入れられ、うぐっと言う呻き声だけであった。
視界が暗くなる。
◆◇◆◇◆◇
――う、......ん、あ?
アランが意識を取り戻し、まず目に入ったのは巨大な炎であった。
焚き火と言うには大きすぎるその炎の中に、あってはならないものが見られた。
ひ、ひと......?
恐らくは、里の人間。火にくべられている黒い人の影が、炎に揺られ見える。
や、やべえ、これは。里が襲われてるってのはわかったが、でも何が狙いだ?
俺は生きていられるのか?この炎の中のやつらみたく燃やされんのか?
に、逃げなきゃまずい......!
しかし動こうとするが、アランはどうやら縛られているようで身動きが取れなかった。しっかりと頑丈なベルトで拘束され、どうにも取れそうにない。
抵抗し、もがき続け気がつく。回りを見ると、他の勇者も同様に縛りあげられ転がされていた。
拘束されているのは勇者だけ......?勇者が狙われたのか?だとしたら、いったいあいつらは誰なんだ?......俺は、ここで殺されるのか?それとも、連れ去られるのか?
訳がわからねえ。
そんな事を考えていると、少し離れた家から男が引きずり出されてきた。そして体格の良い大きな魔族が村長へと話しかけた。ちなみになぜ魔族だとわかったかというと、肌が赤色で手が四本あったからだ。
「村長、こんなところに隠れてたんですね......」
村長は、抵抗したせいか衣服がボロボロで、拘束具をされていた。
「貴様らは......なぜ、この里を襲ったんじゃ......」
「この里を襲う理由なんて知れてるじゃないですか。 ここは勇者の里ですよ? もう各国へと勇者を排出する時期ですよね? 俺らは、だから来たんです」
「......勇者を奪いにか。 じゃが、何故森の結界が機能しとらんかったんじゃ......お前達は何故里までたどり着けた......」
それは僕が案内したからですよ。と、一人の男が村長の目の前に現れた。
あ、あいつは!森で俺を気絶させた男!
「お久しぶりですね、村長。 お歳を召されてまだまだもとても元気そうだ。 ......僕を覚えてはいませんか?」
「あ......お、お前は、フラクタル......!? 生きておったのか。 アルマール国の勇者になり戦死したと神徒教会に聞いていたが......」
あはははは、とフラクタルと呼ばれる勇者は笑い醜悪を張り付けたような笑みを見せた。
「残念でした。 僕は生きていましたよ? 勇者は神徒教会が使う道具......その事も知っています」
村長はぐうっと言い、何も言えなくなった。
「安全に教会へと運ばせるために勇者は国に渡すという形で排出される。 そして教会まで運ばれた勇者は裏で教会に奪われ力を利用されるか、希にそのまま国へ使える」
な、なんの話をしてるんだ......こいつら。
簡単に言うと、俺らはその神徒教会か国に使われるただの道具だったと言うことか......?
マジか......それ?
村長が聞く。
「......では、お前は国の命令で里を襲ったと?」
「いや、違うよ。 僕はね、今は何処の国にも属してないんだ。 僕は僕の意思で考えで動き、この世界を変えるために動いている」
「な、なにを言っとるんじゃ......意味がわからぬ......」
「組織を作ったんだよ。 悪を裁き、正義を通せる武力を持った何処にも属さない組織を。 メンバーは人や魔族、魔物......僕に賛同する者が、あらゆる種が集まっている」
「この子達も勇者達も、僕の組織に加えたくてね。 来たんだよ」
す、すげえ、なんだその組織!そいつに入れば俺も......また強くなって戦えるのか?ノアに復讐できるのか?
「させぬぞ、わしが......この勇者達を育てた意味を無にさせてたまるものかよ」
村長の体が光を放つ。白い神気が布状になり村長を包む。手には杖があり、雷のような神気が立昇っている。
それを一振りすると、アラン達の側にあった家が杖から発せられた雷によりズガァアアアアアン!!と言う轟音と共に吹き飛んだ。
フラクタルとその仲間達は容易に回避してみせたが、村長の狙いはアラン達を縛り上げているモノだった。
拘束具が焼ききれる。
「逃げるんじゃ!!! 出来るだけ遠くへ!!! ゆけええええええええ!!!!」
フラクタルは大声で笑った。
「あはははははははは!!!! あんたにそんな力があったなんてなあ!? 命を、魂を燃やしてまで! 何故そこまでするんだあ?」
「まあ、いいさ。全ては無駄だ」
フラクタルの体を黒いオーラが包む。高濃度の魔力霧、恐ろしい程の魔力密度。
「こ、これは......バカな......おまえは......勇者の身でありながら、悪魔を身に宿したのか!!」
「そうだ、僕の体には大悪魔が宿っている」
「もう、話はこの辺で良いだろう」
――死ね。
◆◇◆◇◆◇
ノア達は村の中を警戒しながら進み、レナの母を探し宿屋へと向かう。
道中では村人が抵抗した跡が見え、武器や刃物等がそこら辺に散乱している。
いったい誰がこれ程の殺戮を繰り広げたのか。盗賊か、魔物か。しかし辺りにそれらしい影も無い。
目を覆いたくなるような死体だらけの道を行く。レナは今にも倒れそうな、ふらふらな足取りで歩いている。
彼女の受けている精神的な負荷は、絶対に僕達の比ではない。これでもし......。
やがて宿につき、扉の前へと立つ。レナに扉を開けさせるのは酷だ。僕がドアノブに手をかけ、握る。ゆっくりと扉を開き、警戒しつつアレオスと二人で中に入る。
そして、レナの母はすぐに見つかった。
おびただしい量の鮮血にまみれ、体をまるめて倒れていた。手にはカウンターにあったレナとの写真が握られていて、僕は今までに感じたことのない深い悲しみを受けた。
アレオスが側に駆け寄り状態を見る。が、すぐに首を横にふる。
僕は心が気持ちが締め付けられ、深い闇に落ちるような感覚に陥った。
そして、それと同時に悲しみと怒りが僕の頭をぐるぐると回った。僕の口から、言葉がこぼれた。
「......いったい、誰が......許せない、こんな......」
アレオスが言う。
「これは、多分......神降ろしの儀式だ。 村人達から魂が抜かれた形跡がある」
「......儀式?」
「最近、この国で多発していると言う噂を聞いたんだけど、神降ろしが行われているらしい」
「捧げる人の命に応じて、神が力を天から下ろしてくれると言う儀式さ。 そんな馬鹿げた儀式はただの噂だと思っていたが......まさか本当に行われているとは」
一旦外に出よう。辛いけど......レナに伝えなければ。とアレオスに言われるが、僕はレナの心はどうなってしまうのか?と言うことが気がかりで、この母の死を伝えるべきかどうか迷っていた。
この現実を受け止められるほど、彼女の心は強いのか?
僕が悩み佇んでいると、やがて宿の扉が静かに開く。
そこにはレナが立っていて、生気の無い瞳で、赤に染まる母を見ていた。
時が止まったかのような、数秒の沈黙。
「......お、おかあ......あ、ああ......うわああああ!」
受け入れたくない現実が心を締め付け、彼女は悲鳴にも似た泣き声で母を呼ぶ。
なんで、どうして、嫌だ、と泣き叫んだ。
そして、その声に誘き寄せられたかのように、来訪者が来た。
「ノ、ノア!」
と、外からステラの慌てた声が聞こえ、急いで宿から飛び出す。そこで僕が目にしたのは......
ニコニコと笑みを浮かべた、あの時の、村長の家の使用人だった。
「あら、どこへ行ってらしたの? とても心配したでしょう」
衣服や顔には村人の物と思われる血液が付いていて、その手にもまた血にまみれる凶器が握られていた。




