~23~ 王都
~王都グライン~
国名がそのままついた王都グラインの人口は、約二十五万。この国で一番金銭が集まる経済の中心である王都には、各地から様々な目的で多くの人間が集まる。
一攫千金を狙う旅商人や、魔物に身内を殺され仇を討つため国の騎士を志望する者......または貴族の財産を狙おうとする盗賊など。
それらの人々により紡がれる物語は、国を様々に彩り飾る。
王都グライン。
~王宮内~
「ねえ。 定例会議は全員参加でしょ? なぜ、また十二騎士が半数も居ないの」
やや苛立った口調でキアリクが王に聞いた。
するとキアリクの隣で本を読んでいる、赤いリボン頭に巻き付けた、とろんと眠そうなタレ目の女がフフッと微笑した。
彼女は自分で持ち込んだティーセットで優雅にティータイムを楽しんでいる。
ふう、と一息つき静かにキアリクへと答えた。
「彼らは何を言っても無駄よ。 だって私達のトップがそうなのだから。 ベルフェゴール隊長だって、今どこでなにしてるかわからないでしょう? 上があれなら下の彼らだってそうなるわよ」
「......律儀に参加している私が馬鹿みたいでしょ」
すると王の近くの席に座る、長い髭を生やし後ろで髪を束ねた頭の中年男性が「んなこたァねえよ」と眠そうに言う。
「確かに働き国へと貢献していれば定例会議に参加しなくとも、まあ問題はねえ。 だが、王の駒になりえないと判断されれば処分されるんだ。 十二騎士で強力な力を持ちながら、定例会議すら出てこない忠誠心の無さ......あいつらは王にとっての驚異になりうるからな。 何かありゃ処分させる可能性がある」
「その点、毎回定例会議や他の雑務等に律儀に参加している俺らは忠実な駒として安泰なわけだ......多少の粗相をしてもな? キアリク、お前も昨日の粗相見逃してもらったんだろう?」
「......なんの事かしら。」
遠くの席から「ていうか、それ王の前で言ったら駄目だろう」と、角のある鎧をかぶる男が忠誠心の話に突っ込む。
「ははっ、いいさ。 そうだ、その通り」と王が笑う。
「隠し事をされるよりは、こうして思っている事を口に出してくれた方が、私としても気持ちが楽になって良い」
「そうだ。お前達のその大きな力を私は頼りにしているが、今この場に居るものと、見回りや監査へと外へ出ている者は、より信頼している」
王は白き鎧を身につけ、まるで月光のように煌めく金の髪。優しい眼差し。額に十字傷があった。
この定例会議に参加している王徒十二騎士は七名。五人の欠席だが、その内二人は各地、国内領土の見回りである。
そして残りの欠席、三人は王の召集を無視し各々の活動をしている。
今、王都では三大の大きな勢力がせめぎあっている。
1、ひとつは勿論、王の軍勢である「国王軍」。王有する王徒十二騎士の精鋭達である。彼等は王から与えられし宝王器を使い、更にその他に固有の能力を持つ。
2、ふたつ目は神に使えし者達、「神徒教会」。彼等は神による力を授かり、ある条件下でそれを発現させ戦う。その条件とは幾ばくかの人の命を捧げ儀式をする事。魔物への生け贄を阻止する事と、魔物や魔族を殲滅すべく動く。
3、みっつ目は上記二つに対しての対抗組織「レジスタンス」。王の生け贄を用いた魔物による国の力の底上げと、神徒教会による人の命を用いた武力行使を防ごうとしている。
国王軍は国の危険分子であるレジスタンスを排除したいが、迂闊に手を出すとその隙をつかれ、神徒教会に攻められる可能性がある。
昔、レジスタンスがまだ規模の小さい組織だったころ、その殲滅を図ったことがあったが、中々思うように成果もあがらなかったため、計画は中止となった。そして今では神徒教会が神降ろしなどで戦力を蓄えたため、とてもそれを無視してレジスタンス排除に力を入れるなどという事は出来なくなった。
三勢力とも今はタイミングみつつ戦力を集めている。確実に敵勢力を潰すために。なのでまだ戦力をまだ失いたくないといったところで、睨み合いの状態にあるのだった。
王が話を始める。
「では、定例会議を始める。 まずは、神徒教会が里や村の人間を利用し、神降ろしをし始めている件について、だ。 担当のヘンリー報告を頼む」
ヘンリーと呼ばれた中年の男は、髪が縮毛のくせ毛で黒髪。無精髭を生やしている。
眠そうな目で用意した資料をめくり、報告を開始する。
「えー、被害にあっているのは里で三件と、村で六件ですね。 町での被害が無いのはやはり兵が居るため神降ろしが容易ではないからかと思われます......あ、ちなみに先程、ベルフェゴール隊長がどこかほっつきあるいてんじゃねーか?と言う話がありましたが、この件について各里や村に出て見回られているようです。 サボりじゃないです」
いや、さっき言えよ!と、十二騎士の二人からツッコミが入る。王が思わず笑いだした。
◆◇◆◇◆◇
天井のステンドグラスから色とりどりの鮮やかな光の舞うなか祈りを捧げている、白髪の女がいた。白い着物を身に纏い、腰には厚い本を携えている。
光を浴びる彼女の姿は神々しい。
ここは神徒教会の本部。
我らは神から賜りし、聖なる力を宿すもの。
悪しき王を倒さねばなりません。
計画は順調でしょうか?と、多くの教徒に囲まれている女は言った。言ったと言うのは正確ではなく、彼女は言葉を口にしなくとも相手の意識に直接語りかける事ができる。
名はティアラ・シカリウス。神徒教会の大聖女であり頂点に位置する女である。
はい、と一人の教徒が報告をする。
「今、また新たに神降ろしをする村には三人の教徒が派遣されております。 その内、ダーナムに赴いたサリアは条件が整ったとの報告を受けており、時期に力を得て戻ってくるかと思われます」
サリアさんもあの辛く、苦しい試練を耐え抜いたのですね。素晴らしい。
神は犠牲となった人々も必ずお救いになるでしょう。
帰ってきたらたくさん誉めてあげないと、ですね。
ふふっ、とティアラは眼を閉じ天使のような顔で微笑んだ。
来るべき粛清の日は近いわ。必ず私達が、神の導きにより世界に平和をもたらしましょう。
まずは王、貴方の首をいただきます。楽しみね。ふふっ。
◆◇◆◇◆◇
「......なんだこれは」
アレオスが顔を歪めながら言った。
僕がアレオスに魔物達との話し合いの結果を伝え、皆でダーナムへと戻ると、村は明かりはついてはいたが人の気配が全くしなかった。
僕も、ステラも、アレオスも、レナも皆その異変にすぐ気がついた。
ステラは目に涙を浮かべ、レナはもはや泣く事もなく目を大きく見開く。僕らは日中の平穏で穏やだった村だとは信じられない光景を目の当たりにしている。
入り口から村を見ただけで二十人以上も倒れているのがわかり、そしてその全てが死んでいた。
どうしてそれがわかったのかと言うと、村人のものと思われるおびただしい量の黒い血溜まりが地を染め、皆ピクリとも動かない。村中から漂う血の臭い......。
アレオスが村に入り、その倒れている人を診てみる。
「......心臓を刃物で......手慣れている」
村人達が......みんな?殺された?信じられない。だって、あんなに元気で......笑っていたのに。誰か生きてる人は......。
あまりにも壮絶な殺戮の現場に、首謀者への警戒すら忘れ思考を巡らせる。
そして、不意に隣にいたレナが
「お母さん......は?」と、呟いた。




