~22~ 国の形
「生け贄としての死ってどういう意味なの?」
紫オークが、その大きな鼻をもぞもぞ動かして問いに答えるをする。
「......うむ、平和を維持するために領主の魔物に力があるかの確認をしに、国から定期的に監査がくる。 そこで一定以上の魔力と力を見せられなければ別の魔物と交代させられるんじゃ」
「交代......?」
「まあ、交代という名の......処刑じゃな。 元領主の魔物は、人に危害を加える魔物として王都へ連れていかれ、多くの民衆が見ている中で、国がその武と力を魅せるために......最強の十二騎士が魔物を殺して見せる」
レナが虚ろな目でこちらを見て言う。
「ノアさん......」
魔物に囲まれているこの状況だしかも今の今まで生け贄として命を奪われかけていた。恐怖を感じていない訳がない......体を震わせている。
「......王は厳しいお方だと......私も聞いています。 力なきものは別の形で国へと役立たせる。 その代償がたとえ命であっても......」
......だから領主の魔物達は、生け贄を必死に求めるのか。
力がないと判断されれば殺されるから。
でも、そうだったら......。
「じゃあ、でも、やっぱり僕が領主の一人として力を見せれば......!」
「そうはいかん。 お前は勇者じゃろう。 勇者ともなれば国へと所属せねばならん。 国の部隊で魔王......もしくは他の国か。 戦う相手は用意されとるんじゃ......そこにお前の意志は関係無い」
そっか、そう言う事か......かわりに僕が領主を努めても時期に国から人が来て僕は連れていかれる。その時に生け贄を食べて魔力と力をつけることができていない、力の及ばない紫オークとゴブリンの皆は国に連れていかれて、殺されてしまうのか。
どうしたら良いんだ。
......。
あれほど出たくて仕方なかった里。息苦しくて辛い世界。
しかし、出た先の世界も、こんなに息苦しく辛いのか......。
里では何で教えてくれなかったんだ?
困り果てる僕。けれどその時、ステラが言った。
「生け贄を無くす......とても難しい......。 それには国を、それ自体を変えるしかないのかしら。 とても難しい事だけれど......」
そうか。そうだ......そもそも国に生け贄なんて物があるから、悲しみが生まれるんだ。なら、国を変えるしかない......?
「けれど、僕は生け贄なんて認めたくない......」
僕は見過ごせない、こんな平和の為に悲しみを生み続ける王を......国を。
王様は話し合って解決とか......出来ないのかな。
ステラが僕の名前を呼ぶ。
「ねえ、ノア......。 私は全然戦えないし、今回もこんなに簡単に拐われたりして、迷惑をかけたわ。 でも、自分勝手だとわかっているけれど」
赤い瞳で僕の瞳を見つめた。
「私は王都に行ってみたい......この人と魔物との関係性を変えられないか、確かめてみたい」
ステラも同じ気持ちだ。多分、僕らは子供なんだと思う。現実を受け入れられず、嫌だ嫌だとのたまう小さな子供だ。
わかってる。わかっているけど......なにもしないで受け入れられるほど強くもない。
可能性があるなら、いや、あると信じて、王都へ行き希望を見つけよう。
それに、王様も同じ人なんだ。レナは王様は厳しい人と言っていたけど、この魔物達と同じで対話を求めれば案外、話くらいは聞いてくれるんじゃ......?
「王様に会ってみよう。 僕が勇者の一人だとわかってくれれば話くらいはしてくれるんじゃないかな? 多分......」
刀を持つゴブリンが言う。いつのまにか刀を鞘に納めていたようだ。
「王都へ行くのは良いが、あそこは強者の巣窟だぞ。 お前と同等......それ以上の猛者が多くいる」
「人の身でありながら魔力を自在に操り、最強の王徒十二騎士を束ねるグライン王。 そしてその王と同等の権力を持ち合わせ裏の支配者と呼ばれている十二騎士の長、魔族であり魔界の王である七つの大罪ベルフェゴール......」
「他にも大規模レジスタンスのトップのグリヒルデや、殺しが趣味で上級騎士を何人も殺しているキラージャックと呼ばれる殺人鬼。 人も魔族も、数えればきりがないほどの化け物が沢山いる。 ......命を捨てに行くだけになるかもしれないぞ」
僕はゴブリンに言う。
「ありがとう。 君は優しいんだね......大丈夫、気を付けるよ」
紫オークもため息をつき仕方ない、と言ってノアに話しかける。
「わしらも、生け贄を食べなければいけない周期がある。 今回のはなんとかするが、いずれは食べなければならんからの。 ......次は1ヶ月後じゃ。それまでになんとかしとくれよ? わしらも生きなければならんからのう」
ノアは紫オークとゴブリン達の顔をみて頷いた。この人達は僕を信じてくれている。
期待にこたえないと。
決意を新たに気持ちを持ち直すと、ステラが僕の手を握った。
「ノア、私も戦えるように......がんばるのだわ」
◆◇◆◇◆◇
~王都グライン~
日の消えかかる裏路地。そこには行き倒れのたれ死んでいる死体が幾つかと、鮮血にまみれた幼い容姿の女がひとり。
切り落とした男の腕をくるくると回す。
「......情けないですね。 こんなか弱い女に傷ひとつ負わせられないだなんて。 それでもついてるんですか?」
腕を落とされ、バタバタとのたうち回る男は悲鳴を出せずに呻く。声が出せない......何故なら助けを呼べないように喉を潰されてしまっていたからだ。
(こ、この女......まさか、噂の......殺人鬼のジャックか!?こんな幼女みたいななりで......だ、だれか......助け......)
「まあ、良いです。 あと私、ジャックではないです。 私は王都十二騎士の一人。 キアリク・レーテ」
するとまた男の残りの片腕が切られ宙を舞った。彼女は刃物の類いは所持していない。
触れる事なく腕を切り裂く。
(ぎゅあがッ......いでえあああ......また......だ、なんで......なにも持ってないのに俺の腕が切られて......)
無表情に男を見下ろし、その手をかざす。
では、さようなら。そうキアリクが言うと、男の首がとれその生に幕が降りた。
漆黒のドレスを纏う十二騎士キアリクは、腰まで伸びる白髪をなびかせ、また幾つになるかもわからない赤黒い華を今日も王都に咲かせていた。




