~21~ 協力
魔物側からの話し合いという提案......罠かもしれない。けれど、これは願ってもない提案だ。
と、思っていると紫オークがゴブリン達に武器をその場に置けと指示を出した。まあ、置いたところで能力があるから安心は出来ないけど。
ゴブリン達はその指示通り、地面へと武器を置いた。オークも斧を手前の方に置いて静かに落ち着いた口調で話しはじめた。
なんだろう......里で教えてもらって僕がイメージしていた魔物と、この魔物達は全然違う。
「話し合いの前に城を襲撃したお前の仲間をここへ呼んでほしい。 わしらの仲間はこれで全員じゃ」
いつのまにか他のゴブリン達も集まっている。って、あれ?ゴブリン十八匹いる!?
まさか城の外にも居たのか......?いまみたいに襲撃された時の為の見張り役?
危なっ......見つからなくて良かった。
「襲撃をかけたのは僕一人だよ......少し離れたとこに二人仲間がいるけど。 彼等は案内で来ていて、ここには近づかないよ。 生け贄の二人を取り戻しに来たのは僕だけ。 信じるかはそっち次第だけれど」
ひとり!?と、驚愕するゴブリンとオークの面々。「じゃあどうやって結界を破壊したんじゃ!?」と聞かれたけど、あれは普通に弓の神器で射ぬいた。
見えない的でも動かないモノであれば、僕は当てられる。弓は里にいたときシルフィのパーティーの一人、世界最強の弓使い(自分で言っていた)のモルハって人にならったし、一人でもめっっっっっちゃ練習した。頑張ったから多分外さない。
「そ、そうか......流石は勇者といったところか。 ふむ、わかった。 お前が一人で来た事は信じよう。 ではこちらも信用してもらうために、生け贄として連れてきた二人を眠りから起こそうか......」
そう言い、ゴブリンが一匹でてくる。このひとさっき隠れてたゴブリンだ。
あ、そっか、そういえば眠らせたっていってた。
指を一本立て、そこに魔力が集中する。ピンク色のもやもやとした魔力がオーラとして視覚化した。
それをまずステラの手の甲に当てた。すると、大体十秒くらいで目を覚ました。
「......これは、え?」
周囲には魔物の群れと、僕が一人。ステラは状況が飲めずにキョトンとしている。
「......ど、どういう状況、なのかしら?」
次にレナを起こしてもらい、混乱する二人に僕は説明をした。ステラとレナは拐われた時の記憶がなく、最後に覚えているのは宿を訪れた村長の家に居た使用人の女の人と会話をしていたと言う事だった。
やっぱり村長の意向だった。この急な生け贄の手配は。いや、今はこちらの問題が先だ......。
二人を起こし、これで良いかな?とオークが本題に入る。
「まず、ひとつ聞きたいんじゃが、その生け贄として用意されたの人は村の皆で決めたのではないのか? 選定はそちら側ですることになっているだろう。 この二人は、話し合いをして出された生け贄ではないのか?」
「そうだよ。 神様からの神託であの村は生け贄を決めているらしいんだ。 けれど、この二人が殺されてしまうのは見過ごせない」
オークは短く、ああ、そういう事か、と言い鼻をかいた。そして腕を組むと何かを考え始めた。
「ふむ。 ......では、代わりの生け贄を貰えると? このままその二人を持ち帰られてはわしらはどうしたらよいんじゃ?」
「どうしたら......君たちは人を食べないとダメなの? 人を食べずに暮らす事はできないの?」
知っている。力をつけるために人を食べる。でも、それなら代案がないわけではない。僕が仲間に入り、ここら一帯の領土にある村や町を守る。
それが僕のこの話し合いの切り札。
でも、話し合っても、どうしても人を食べないとダメだというなら......その時は仕方ない。残念だけど、戦うしかない。
僕はステラとレナの命が大切で大事だ。二人を守る。次は峰打ちをしたりとかそういう事はしない。容赦はしない。
全力で命を奪う。それなら、手加減をしなければ戦闘力の高いゴブリンもオークと言えど、全て倒せるはずだ。
したくはないんだけど。
紫オークがノアの疑問へと回答した。
「難しいのう。そもそも、わしらが何故、生け贄を求めるのかお前は知っとるのか?」
「うん。 生け贄の人を食べて魔力を高めるんでしょ? 他の魔物達を抑制するために......だったら提案があるんだ。」
ゴブリン達は皆、頭上に「?」を浮かべていた。僕は提案した。
ここで切り札を使う。大丈夫だ。求めているのが武力なら、飲んでくれるはず。
人が美味しいからと言う理由でなければ飲むはず。
「僕がここらの領土で魔物を抑制するよ。 僕が君たちの代わりに戦う!」
◆◇◆◇◆◇
「......ノア、上手くやれたかな?」
心配そうな顔で空を見上げながら寝転がっているアレオス。それに対し、ベルゴが「いや」と返答した。
「ノアが本気で殺しを厭わずに襲撃したのなら、おそらくもう此処にいる。 覚悟をしろと言ったが、無理だったようだな......」
ため息をついたベルゴを見ながら、アレオスも言う。
「ノアは優しい。 彼の優しさは他の勇者には無い。勇者は元々、生まれもっての性質で攻撃的だが、隠れ里で魔族と戦うためだけに育てられるため、より人の気持ちを理解できないようになってしまう傾向があるらしい......あ、これ聞いた話だけどね」
「......けれど、ノアは違う。 勇者の性質上、その旅路で最も難しいと言われている仲間集め。 彼なら、多くの仲間を集める事ができるだろう。 一緒に旅をしてみてわかった。 ノアは人を惹き付ける」
けれど......。
優しさや信じる心は時として悪意ある者に踏みにじられる。
「いつかあの甘さで命を落とすぞ。 もしくは、大切な何かをな」
「うん、そうだね。 命を奪いたくない......そんな綺麗事だけじゃこの世界は生きていけない」
話は終わりと言わんばかりに、ベルゴはアレオスに背を向けた。
「私はもう行く。 この戦いの結末は知れた。 生きていればまたな、と奴らに伝えておいてくれ」
「そっか、わかった......ベルゴさんも気をつけてね」
「......お前もな」
そしてアレオスを残し、ベルゴは別れ自分の道へと戻っていった。
ゆっくりと日が傾き始め、闇夜の気配が静かに確かに迫ってくるのをアレオスは感じた。
◆◇◆◇◆◇
ゴブリン達が声を荒げ、反対の意思を示す。紫オークも目を瞑り難しい顔をしていた。
!? そんなにダメな案だっかな......やっぱり人が美味しくて食べたいと言う事か?と内心焦りだす。
すると紫オークが閉ざしていた口を開く。
「話はそう簡単にはいかないんじゃよ。 まあ、本音を言えば、わしは出来る事なら人を食べたくはない。 しかしこれは国で決まっとるんじゃ......」
「国で......?」
「そうじゃ。 国の王が決めておる事じゃから、逆らえばわしらの命がない」
「......王様って、人だよね?」
「そうじゃよ。 人じゃ。 人である王がわしらを取り込み、生け贄を対価に魔物の力を得た」
「しかしそれ故に、魔物からの被害も格段に減り、この国は大きく強くなった。 隣国から攻められることも無くなり、平和がもたらされたんじゃ......」
「その平和のために王が生け贄を与え続けておるんじゃ。 その意思に逆らえば与えられるのは、今度はわしらの生け贄としての死、じゃ」
王様が国を強くするために、人の命を消費し続けている......これがこの国の形、里では教えてくれなかった世界。




