~20~ 殺しあい
ノアは村で購入した銅のロングソードを鞘から抜き、考えた。
とりあえず、敵の位置を覚えて動きを予測しないと。それにはアレオスさんの《千里眼》の力が必要になってくる。
「アレオスさん、お願いがあるんだけど......千里眼で敵の位置を教えてくれないかな」
「......え、ごめん。 二回も千里眼使ったから、もう魔力殆んど無くなっちゃって、使えない......ごめん」
!?
そ、そうか。いや、当然と言えば当然か。そんな凄い能力、魔力消費が重くない訳がない。
ベルゴは完全に観戦モードで腕を組んだまま動かない。まあ、助けて貰おうなんて気持ちは無いけれど。
そういえば、城の結界って何に反応するんだ?アレオスさんの魔力には反応してなかった......いや、もしかしたら結界は反応していて敵側のアクションが無いだけかもしれないけど。
だとしたら、待ち構えられていて終了?うーん、わからない。
結界......か。とにかく、優先すべきは囚われているステラとレナの命。
なら......。
◇◆◇◆◇◆
「――ボス。 話の途中で悪いんだけど、結界が破壊された」
と、異変を感じたゴブリンが言った。
「......何?」
と眉をひそめオークは顔を向ける。結界を破壊した......?
「僕の能力で作った結界張りの杭が破壊された。 四つの内三つ......北、西、南と殆んど同時に破壊されてる。 敵は単独じゃないと思う」
部下のゴブリンが状況を報告すると、オークは思案する。あの結界に用いた杭は特殊な物で簡単に壊されたりしないはず。相当な力を持った者が最低三人はいる、か。
慣れたようにオークは指示を出す。
「成る程な。 三匹一組で各杭の場所へ行け。 残り一組は生け贄の元に......横取りの可能性も高い。 敵の頭を見つけたらわしを呼べ。 わしが殺る」
その大きな鼻から息を噴出し、紫色のオークが巨体を起こした。
そして玉座の横に立て掛けていた、大きな斧を手に持ち歩きだす。
――な、なんだこりゃ?と、壊れた杭の所へ来たゴブリンが首を傾げた。
かなりの強度であるはずの杭が、見事に真っ二つに折られていた。とてつもない力で攻撃されていると予測できる程の綺麗な折れ口......なのに、魔力の痕跡が全くない。
魔力で破壊していないとしたら......いったい?
そして周囲を見渡すゴブリンはそれを見つけた。碧翆に輝き、地面へと刺さっているそれを。
ん?あれは......矢?
~生け贄保管室~
――(し、侵入者!?生け贄の準備していたら、急に人間が入ってきたんだが!とっさに隠れたから見つからなかったが......どういう事だ、仲間は何故来ない??)――
よし、ステラとレナは無事だ。良かった......ホントに。
神器の弓で、結界を形成してる杭を三ヶ所ほぼ同時に射ぬいたから二匹のゴブリンを相手にするだけで済んだ。多分、あの二匹は意識を取り戻すのに結構かかるだろう。
いまのうちに早くステラとレナの二人を起こして逃げないと。
「ステラ、ステラ! 起きて! ......?」
なんでだ?全然目を覚まさない。起きる気配さえない?
どうする......ゴブリン達が集まってくる前に......。
――(生け贄の仲間だったか......くくっ、でも残念。 そいつらはあと数時間は起きねえよ! 俺が能力解除しない限り、な)――
仕方がない、ステラを背負って......レナはちょっとごめんだけど、右に抱えて......。
早くしないとこのまま戦いになったら絶体絶命だ。とにかく二人を安全な所まで移動させて、それから......。
――(な、二人を担いでくのか!?......連れ去られるのはまずい!足止めだけでもしなければ!)――
「おい! まて、お前!」
え!? ゴブリン!?......隠れていたのか!!
「そのまま逃げられると思うなよ。そいつらは貴重な食糧なんだ......それにそいつらが眠っているのは俺の能力なんだよ。 俺が能力を解除しないとその二人は永遠に目を覚まさないぜ?」
ノアはゴブリンを覚めた目で見て、一言。
「嘘つき! べーっ」
「んなっ?!」
嘘を見破られ、舌をだした挑発に面食らうゴブリン。
そして背を向け逃げ出しすノア。
もし、二人にかけた能力がそういうのであってもばらす意味ないじゃん。あと嘘の匂いがした。
「っ! だから! 逃がさねえって! いや、早えええ!? 二人抱えてんのに!?」
二人を抱えて走るのは全然辛くはない。訓練ではもっと重いものを持ちながら走ったりしていたから。
しかしノアの逃走劇はすぐに終演を迎えた。扉を開け、逃げようと階段を降りた先に刀を抜いたゴブリンが待っていた。
こいつは逃げ切れる相手じゃない......ノアは待ち構えていたゴブリンからその強さを感じ取っていた。
やがて後ろからさっきの隠れていたゴブリンが追い付く。
刀のゴブリンが話しかけてくる。
「お前の目的......その生け贄か? 魔物の巣窟とも言える我々の拠点へと来るくらいだ。 家族か恋人か......余程大切な人間なのだろう」
......普通に......話を聞いてくれる、のか?切りかかってくると思っていた。
でも、話し合いで終われるなら終わりたい。けど......話し合いで終わらせる......?
僕は、魔物が会話できて意志疎通を図れる、それを今目の当たりにして心が揺らいでいる......殺したくない、と。
「......うん、この二人の命は差し出せない。 だから連れて帰る......ごめん」
ゴブリンが刀の持ち手を握り直し、静かに殺気を放つ。
「そうだな、その二人は我々の貴重な食糧だ。 そう簡単に言われても困るぞ」
......人の言葉を使うゴブリン。姿かたちは人とは違うけど、普通の人間のように話をする。だから、先に戦った二匹も結局は殺せなかった。
でも殺せなくて良かったんじゃないかと今は思う。
大丈夫......僕の力なら、殺さないで無力化できるはずだ。ステラだって、平和的に解決できる可能性を放棄して、命を奪うなんてダメだって言うと思う。
難しいだろうけれど、やってみせる。
本当は二人を安全な......アレオスとベルゴの元に連れ帰ってから、魔物達と戦いたかったけれど、もうこの場でやるしかない。
「――まて、人間。 もう少し話をしよう」
後ろから声がして振り返ると、そこには大きな、僕の二倍はあるんじゃないかという、巨大な斧を担いだ紫色のオークが立っていた。
「お前に暴れられると、甚大な被害をこうむりそうじゃ。 話し合いで解決はできぬか、若い勇者よ」




