~18~ 領主の獣
ガチャンと、僕達の宿泊している部屋の扉が開く。入ってきたのはステラだった。その顔の表情は何かを決めたようで、赤い眼には強い想いが秘められている。
「......レナは、どうだった? 話せたのかな」
僕がステラに聞くと、ステラは頷く。
「うん、話せたわ。 とても辛そうだったのだわ。」
アレオスがふう、と一息吐き出し言う。
「それはそうだろうね。 村のために、逃れられない死を受け入れるしかないんだから。 ......怖いに決まっている」
「......あの子、お母さんの心配ばかりしていたの。 私が居なくなったら、ひとりぼっちで寂しい思いをするんじゃないかって」
お母さん......そうか。僕もお母さんを病気で亡くしている。あの時は、寂しくて辛くて、どうしようもない感情が僕の中で渦巻いていた。
なぜ、お母さんが病気で死ななければいけなかったのか......どうしようもないと言う事実も受け入れられずに苦しんでいた。
きっとそれは、僕とお母さんが逆の立場でもそうだったと思う。
僕には、シルフィと言う師匠がいたから、支えがあったから耐えられたけど、レナ達親子はたった二人の家族だ。
どちらが欠けてもダメなのだ。
「ノア、私、生け贄になるわ。」
僕は驚いた。ステラも同じ事を考えていたのだ。
「わかった。 けど、それはステラだけじゃない。 僕も生け贄になる」
ステラはまさか、良いよと言われるとは思って無かったようで、目をぱちくりとしていた。
ステラの提案、代わりの生け贄をたてる。それは僕が考えていた事でもある。
そして、勿論、生け贄になって食べられたり命を奪われるつもりはない。
僕が裏で牛耳っている魔物を倒し、ここの裏の領主となる。
それが僕の策だ。
ベルゴとアレオスにはステラが戻って来る前に説明したが、あまり良く言われなかった。
まず、村長が生け贄の代行を認めるかどうか。これは、どこの馬の骨ともわからない旅人に任せる事はしないんじゃないかと言うアレオスの指摘。
逆の立場、村長からすればもしかしたら土壇場で逃げる可能性があるし、任せないかな~。ていうか代わりに命を差し出すとか怪しすぎるし。と言われた。
ベルゴには、その通りだな。何か企みがあると直ぐにバレるだろう。
そして裏の領主になると言う話。ここらを治めている魔物はとても力のあるオークだ。人を何人も喰っている。それ故にかなりの魔力を保有していて魔物としての位もかなりのものだ。
そしてそのオークについている兵隊、ゴブリン。こいつらは戦闘訓練を施されていて一匹でも国の下級騎士くらいなら簡単に倒せる程の力を持つ。それをオークは十数匹を従えているらしい。
そもそも、お前はそいつらに勝てるのか?
殆んど実戦の経験が無いお前に対し、戦いのなかで、命のやり取りばかりの生活をしてきたやつらに、勝てるのか?と、言われた。
正直、それはわからない。けれど、やらないとレナが死んでしまう。
僕は、大切だと思う人のために戦う。
アレオスが口を開く。
「まあ、生け贄代行はともかく、村長に聞けば生け贄を受け渡す日は教えてくれるんじゃないかな。 行くかい?」
そうだ、どうするにしても一度会って話をしてみないとだ。
「うん、行こう」
◆◇◆◇◆◇
村の北側、一軒だけ赤い屋根の屋敷がある。それが、村長であるアルダという男の住む場所だという。
代々、村長になった者はその屋敷に住んでいて、魔族側の領主が村長の居場所を把握しやすくするために、その屋敷に住むという決まりになっている。屋根が赤いのはそのため。
村長を訪ねると、意外にもすんなりと通され家の中にまで招いてくれて、紅茶も出してもらえた。美味しい。
使用人のお姉さんはにこにことしながら、これも食べる?と白くてふわふわとした、甘いお菓子をくれてステラは大喜びかと思いきや、やっぱりレナの事があって浮かない顔のままだ。(紅茶とお菓子はしっかり食べていたけど)
「成る程、友達だから別れるその日まで沢山の思い出を作りたいと......だから生け贄に出される日にちを知りたい、か」
村長のアルダは長く白い髭を撫でた。ちなみに髪の毛はなくてツルツルでテカテカと輝いている。
「生け贄はなあ、本来はワシらのような爺さんや婆さんがなった方が良いんじゃよ。 けれども、神の御告げじゃからのう......子と、その親の気持ちを考えるとやりきれない思いでいっぱいになるが、こればかりはどうにもならん」
村長は寂しく悲しそうにうつむき、言葉は重く声が落ちる。
そして答えてくれた。
「明後日の夜じゃ。明後日の夜に......魔族のゴブリンがレナを引き取りにくる予定じゃ」
明後日か......意外と時間はある。もしかしたら、当日までにもっと良い案がでるかもしれない。
すると仕様人さんが話しかけてきた。
「ふふっ、レナちゃんの事本当に好きなのね。 沢山一緒にいてあげてね。 神はその行いを御覧になっています。 きっとあなた方のその愛情をもって、安らかに天へと誘ってくれるでしょう」
◆◇◆◇◆◇
???「村長、これはいけませんね。 彼等はきっと生け贄の儀を阻むつもりですよ? せっかく神より神託をいただいたのに。 失敗は絶対にできませんよ?」
???「そうじゃのう......これで万が一、生け贄の受け渡しに支障が出てしまったら、わしは......村の皆は無駄死にを免れんじゃろう」
???「そうです。 忘れてませんよね? 私との、神との契約を......」
???「勿論じゃ。絶対に邪魔などさせん......わしはこの村の長......なんじゃからの」
◆◇◆◇◆◇
宿屋の部屋に戻り、アレオスが言った。
「こんな事言うのもあれなんだけど......あの人たち、ふっつーに怪しくね?」
それに対しベルゴが軽くククッ笑い同意した。
「隠す気もないんだろう。 これは生け贄の受け渡しの日時も怪しいな」
けれど、僕は少しおかしいと思っていた。僕は人の嘘に敏感だ。
それは里でイジメや建前ばかり並べている人を目の当たりにしていたから、なんとなく心が反応してしまう。
それで言うなら、確かにあの仕様人の人は明らかに嘘をついていた。多分、神託は嘘であの人がレナを選んだんだ。
けれど、村長の言葉に嘘を感じなかった......なんでだろう。あの言葉は嘘じゃなかった。
ノア。と、ベルゴに呼ばれた。
「どうする? ここからはおそらく騙し合いになるぞ。 レナを見張っておかなくて良いのか?」
! そうだ、レナの所に行かないと。と、思い宿屋の中を捜したけど......何処にもレナの姿は無かった。
そしてステラの姿も。ステラは部屋に入る前レナの所に行くといっていた。そして二人とも消えた。
「もしかして、生け贄受け渡しの期日が過ぎるまで行方をくらます気かな? ちょっと強引な手だけど」
アレオスは顎に手を当て考える。
「いや、そんな事はステラはしないよ。 それをすれば親子が村でどうなるかわかってるはずだし......多分これは」
「成る程......拐われたか。 奴らに」
ベルゴがそう言った。アレオスは慌てて突っ込んだ。
「えええ、じゃあ早く見つけないと! どうやって後を追う?」
「私ならば追える......が、ノア。お前に聞いておく事がある」
ベルゴはステラとレナの後を追えるらしい。やった!正直可能性のある場所を村で聞き回り、その場所へと走り回るくらいしか出来ること無かったと思うから、本当に良かった。
「なに?ベルゴさん」
「お前は覚悟はあるのか? お前がここの裏の領主を倒せたとして、この地を治められると本気で思っているのか? まだ子供のお前に......世界の理を何も知らないも同然のお前に」
僕は目を閉じる。ステラの顔を思い浮かべ、確かな想いを言葉にする。
「僕は、それでも救いたい命のためにやるよ。 やってみせる」




