プロローグ
新作です。よろしくお願いします!
今日は10話投稿します。
~五年前・勇者の隠れ里~
「―――お前は必ず強くなる」
歴代最強と謳われた勇者パーティー。その一人であり、僕の師匠であるその人は言った。
僕は早朝の剣の素振りを中断し、いつの間にか側で見ていた彼女へと顔を向ける。
「......そっか。 もう、行っちゃうんだね......」
「ああ。 ......そろそろ、勇者達が迎えにくる頃だな」
そう頷き、遥か彼方、魔王城のあると思われる方向へと彼女は視線を向ける。
日が登り始め、山々の狭間から光が射し、美しいシルフィの顔が照らし出される。
いつもは笑顔の彼女が、とても真剣な表情をしているのに気がつく。
確かな強い覚悟。彼女の瞳に映る燃える暁の緋は、その心を映し出している様にも見えた。
「やっと開けた魔王城への道だ。 長い、とても長い道のりだった。 ここまで三年もの月日を費やしたんだ。 必ず七つの大罪を討ち、その先に待つ魔王の首を取る。......ん?」
魔王城はその名の通り、魔僕達人類の敵である魔王の居る城だ。
そこに至るための道は恐ろしく困難で、人知を越える力を持つ魔物や魔族を倒し、更には幾つかの魔王の眷属である魔族、七つの大罪が構える城を突破しなければいけない。
これまでの歴史では、四組の勇者パーティーが到達した事があって、シルフィ達も三つの国の強力を得て幾多の人々の犠牲の上、道を切り開き到達する事ができた。
けれど......家族のように思っている彼女が、それに向かうのは僕はとても怖かった。
シルフィ達は歴代最強と言われていて、これまでの勇者パーティーで最も魔王討伐を期待されている。
しかし事実上は今まで多くの勇者が討伐へ行き、誰ひとりとして魔王を討ち果たし帰った者はいない。そう、皆命を失った。
大切な人が命を落とすかもしれない。それが、怖い。
そんな気持ちを隠せずに、浮かない顔をする僕に気が付いて彼女が顔を覗きこんでくる。
「あはは、大丈夫だよ。 俺は最強だし死なねーって! ちゃんと帰ってくるから、んな顔するな」
剣の腕前は勇者にも勝るとも劣らない、そう言われている魔法剣士の彼女は、悪戯に笑みを浮かべ僕の頭を優しくなでた。
「お前は俺が見てきた中で最も努力家で、最も才能がある」
「良い勇者になれよ、ノア」
――そして、彼女達、勇者パーティーは魔王討伐を失敗し、誰1人として帰って来る事はなかった。
◆◇◆◇◆◇
~勇者パーティーが魔王の討伐を失敗してから約五年後~
「――はははっ! ノア、お前、ホントに弱いなぁ......!オラッ」
バキッ
「うあっ......! ぐっふ......ッ!?」
訓練用の木刀を叩き落とされ、そのまま腹部へと蹴りを撃ち込まれた。苦痛に耐えかね、うめきながら地面へと転がり込み腹を守る。
い、息が......できな......!
「まだ終わらねーぞ!! おらよッ!」
彼は、地べたを這いつくばる僕の頭を蹴り抜こうと、足を振り抜いたが、腕を前にし盾にすることで、寸でのところで顔を守ることができた。
「ちっ......! ガードしてんじゃねえよ、面白くねーな。」
そこまで!!と、訓練を見ていた里の大人が声をあげた。
そしてうずくまり痛みに耐える僕にその人は心底呆れたように言う。
「なんだなんだ!だらしないぞ、ノア!もっと真剣にやりなさい!」
続いて、訓練相手であり僕を叩きのめした彼が言う。
「だめだなー。こいつじゃ訓練なんねーよ!弱すぎ!時間の無駄」
そして他の勇者候補達も、惨めたらしく地に伏した僕へと言葉を吐く。
「仕方ないよ。 だってノアだからな」「里、一番の弱者......か」「だ、ダメだよ、ノアなんだし」
「けど......ふ、ふふ。うあっ! だって、笑える。ふふっ」
「ああ まあ怯えた顔と悲鳴は合格だな! ははっ」
僕はこの里や仲間が嫌いだった。
早く、僕も勇者の証である神器をもらって、この里をでるんだ......。