~17~ 母と子
「......強い子だね」
生け贄にされるとわかっても彼女は、レナは落ち着いていて、それどころか母親を気遣うように気丈に振る舞っていた。
それに対して、ベルゴが言う。
「まだ現実味がないのだろう。......死に対する恐怖が無い者などいない」
部屋で、僕とステラはこの村での生け贄を用いた儀式の話を聞いた。アレオスとベルゴは儀式の事を知っていたみたいで、だからこそアレオスは驚いていた。
なぜあんな若い子が、と。
「普通、生け贄は年老いた人や罪人が選ばれるんだけどね。 年若い人間や子供は人の未来だ。 これからを育んでいく人間が生け贄になるなんて、何かおかしい......」
「おかしい......それは生け贄がではなくて? 私はお爺ちゃんやお婆ちゃん、罪を犯してしまった人であっても命をそんな風に捧げるのは嫌だわ!」
ステラは顔を歪めそう言った。
ふっ、そうか。......そう言う事かと、その言葉を聞き、ベルゴが鼻で笑い言う。
「お前達は、この村で生け贄が必要とされている意味を......理由を知らないだろう。 ならば教えてやる」
そうだ。そもそも何で生け贄なんて必要なんだ?それを知れば助ける道も......。
「それは魔物による被害を減らすためだ」
魔物による被害......?
「この国では格領土に対し、人の領主そして魔族の領主がいる。 その魔族の領主が人を襲う魔物や外敵から、村人や町の住人を守っているのだ。しかし、その為には強い魔族の力が要る......」
......そういうことか。
「魔族を強くさせる一番の簡単な方法、それは人を食らわせることだ」
「故に定期的に人を差し出し、魔族の領主やその仲間が力をつける。そして、代わりにその魔物達が村人を外敵から守るのだ。 そうやってこの村、引いては国が成り立っている」
アレオスが言う。
「むしろ何で二人は知らなかったんだ? この国の人間じゃない......のか? あ、ノアは勇者だからか......隠れ里はその限りじゃないもんね」
「まあ、でも、この格領土に魔族による支配者を置くという施策をする前は、魔物による被害はかなり大きいものだったんだよ。 それこそ一夜にして村が無くなったなんて事があったくらいだ」
ステラはそれでも受け入れられないようで、床に視線を落とす。
「......他に方法は、無いの......?」
「そんなものがあるのならば、現実にこのような事は行われていないだろう。 ......何かを守るためには、犠牲や対価は必要だ」
ベルゴの声色が微かに変わったように感じた。
「......」
「......わたし、レナのところへ行くわ」
部屋を出ていくステラ。僕は......どうしたら良いんだ。
魔族との共存......それが、その形がこんなものだったなんて。
僕らの旅の先行きは、明るくないのかもしれない。
「さっき、若い人が選ばれるのがおかしいって......生け贄はどうやって決めているの?」
ベルゴは国王が格町や村の長にその選出のやり方は任せてあると言った。この村は
「村長が神より受ける、神託だ」
◇◆◇◆◇◆
「......あ、ステラさん」
「レナ。......お洗濯?」
「はい、乾いたので取り込み中です」
「私も手伝うわ。 よいしょ......と」
宿屋の中を探して居なかったので、外へでて見ると洗濯物を取り込んでいるレナが居た。
どう話しかけたらいいかわからない。でも、レナには側にいる人が必要だ。それは、わかる。
私も同じ、殺されるはずの魔族だったから。
「ありがとう、ステラさん。 とっても助かります! えへへ」
「このくらい良いのよ。 あなたは友達なのだから......あ」
近くで見ると、レナの手が、体が震えているのがわかった。
驚く私に、顔を向けて少し困ったような顔をし、笑う。
「平気だと......思ったんですけど。 どうしてでしょう」
彼女の頬に涙が伝い流れる。
「死ぬのも怖い、けど......でも、それよりも......」
「残されるお母さんの事を......これからは洗濯物も、食事の用意も、何もかも......一人で......考えたら」
そうか......怖いのは、死ぬことだけではないのだわ。家族の、たった一人の母の事を想って......。
私も家族の事が好きだった。でも、今はいない。私は失ったのだわ。
レナは、まだ......間に合うはず。私が、なんとかする。
「レナ、あなたは生け贄にはさせない」
え、とレナは私を見つめる。
「大丈夫、それに私もあなたを失いたくないの。 友達になって、まだまだレナの事を知らない......だから、仲良くなってたくさん知りたいのだわ。 あなたの、レナの事を」
ステラは泣き崩れるレナを抱きしめた。
「大丈夫、私がなんとかする......レナは友達だもん」
◆◇◆◇◆◇
神託......どういうことだろう。なんだか胡散臭くない?
と、思っていたら、アレオスが今それを口にした。
「胡散臭いなあー。 それ、本当に神託なの? ちょっと信じらんない」
「確かにな。 生け贄を神が選ぶなど私も他では聞いたことがない」
二人の反応でもしかしたらと思った。
「村長さんって、もしかして自分が選ばれないようにしてるんじゃ......?」
すると、アレオスが言う。
「無いとはいえないね。 人は皆、欲望で出来ている。 この不自然さを考えれば可能性は高い......村長の所へいってみようか」
ベルゴはふむ、と腕を組み直し言う。
「それで、もし神託が嘘であるなら、もう一度選出をしなおさせる。そう言うことか?」
「でも、生け贄は必要だよねえ......」
そうだ。生け贄は、必要だ......代わりをたてることになるけれど、代わりは......代わり?
そうだ、代わりはいる!
「僕に考えがある。 代わりなら、いる。」




