~14~ 魔物討伐
――来たか。
全身真っ黒な鎧の騎士が言い、側に立て掛けてあった布にくるまる物、恐らく大剣を手に取る。
ステラにダガーの使い方を稽古していた僕も、気がつく。
魔力の持つモノがこの野営地の回りを囲っている。
「ステラ、ちょっと中断。 何かいる」
「......ええ、囲まれてるわね。 魔獣......かしら?」
ステラも気がついていたみたいだ。握り構えていたナイフを下ろす。
商人やアレオスが眠りに落ちて数時間たったくらいで、それは来た。
黒い鎧の男は僕に聞く。
「少年、お前は戦えそうだな。 出来れば力を借りたい......やれるか?」
力を借りたい......違和感があった。多分、これは嘘だ。
「うん、わかった」
だってこの人、恐ろしく強い。
動きを見るだけでわかる。
でも、今はとにかく魔獣に囲まれているのは事実で、倒さなければいけない状況だ。
だから僕も戦う。
「......ん、むぁ。敵......?」
と、寝袋に入りいびきをかき続けていた白髪の女騎士(多分)が、起きた。
起きたといっても寝袋から出る気配はなく、手をひらひらさせ、僕を呼んだ。
呼ばれたので寝袋の側に行き、そして気がついた。
寝袋の中のこの人......
全裸(衣服無)だっ!!!!!
それはもう一糸纏わぬ姿で、一糸纏わぬ姿って言うのはまあそう言うことで、僕はすぐに目を隠した。
見てない、見てないよ。僕は何も......見えてしまったかも知れないけど、見てない。ステラ......ごめんなさい。(?)
女騎士は寝袋の中でごそごそすると、何かを渡すために手を出しかけ止まる。「あ、これじゃない......」と、出しかけた手を戻す。
なんか一瞬、白い下着のような物が握られていた気がするんだけど、気のせいだよね。
そして再度、手をだして受けとるように促される。
何か白い紙切れのような物を握っていて、僕にくれた。
「......それ、魔力流してつかえ」
人の形に切られている小さな紙だ。使い方はいまいちわからないけど、ありがとうと僕が言うと。
「......ん」
と女騎士は短く返事を返して、また眠りに落ちた。
すぐにグゴォオオオオッといびきをたて始め、この迫力あるいびきを聞かせたら魔獣も逃げてくのでは......と僕は一瞬思った。(失礼)
そして、騒動で起きたアレオスを連れて、黒い鎧の男と共に外へと出る。ステラはまだ戦えないからお留守番。
野営地には魔除結界があるけど、万一を考え魔物は討伐した方が良い。
ヘルハウンドか。と、アレオスが言う。ヘルハウンドはだいたい五~十匹で行動し、狩りを行う黒い犬のような魔獣だ。ちなみに多い群れだと三十匹にもなるという。
機動力が高く、冒険者や旅人の被害が多いと里で勉強した。
「ふむ。十二......か」
と、黒い鎧の男が言うと、布にくるまっている武器を野営地の塀に立て掛けた。
瞬間、男は消えた。
闇夜とそれが黒い鎧の保護色になっているのもあるけど、それを抜きにしても間違いなく、消えて見えるくらいの速さだった。
キャンッ!と子犬が鳴いたようなヘルハウンドの悲鳴が聞こえる。
腹を手刀で貫かれ、動かなくなった仲間。あまりの急な出来事で回りのヘルハウンドは一瞬なにが起こったのかわからないでいた。
その隙に二頭の首を跳ねる。流れで、一頭の足を払い転ばせ頭に足を落とし潰した。
黒い鎧の男のとてつもない強さに驚くと共に思った。
これ......必要ないじゃん!と、女騎士に貰った人形の紙を握りしめる。そしてポケットにしまった。
近接はあの人だけで良いかも......。
でも、さすがに何もしないのもあれだから《心映》を発動させる。
碧と翠の光から剣が形成される。と、思いきや見ると弓の形になっていた。
隣で驚くアレオス、「な、なにそれ!?」そして僕もいつもと違う弓での発現に、あれ!?なんで!?と驚く。アレオスに「わかんない!」と返すと、「えええ!?わかんないの!?」と困惑していた。
......もしかして、近接より遠距離が良いかもって思ったから?
だから弓に?でも確かに言ってた気がする。
《心映》は持ち手の心を反映するって。こういうことか......。
けど、里の戦闘訓練と自己鍛練で弓は使える。実戦は初めてだけど!
やってみよう。
一緒に顕現した矢を使い、弓を引く。
ここだ!ヒュッ――
放った矢は、風を切り光の道筋を闇夜に描く。
――パン!!と、ヘルハウンドの額に矢が見事に当たり、弾けた。ヒットしたヘルハウンドの頭は無くなりどこにも存在しない。
えぇっ......。頭が吹き飛び失くなる程の威力に一瞬ドン引いたが、しかし、この《心映》の弓が、かなり強いと確信した。
その後、黒い鎧の男と二人でヘルハウンドを全て討伐した。
「私の名はベルゴ。お前は?」
「ベルゴさん......僕はノア。 魔獣を倒してくれてありがとう」
「半分はお前が狩っている。 お前の戦果だ。」
ベルゴは僕に顔を近づける。そしてじっと見つめ、言葉を紡ぐ。
「お前、その武器......勇者だな? なぜお前のような若い勇者がここに居る? まだ時期は早いはず......」
「えええええ、勇者なの!?」と、アレオスが驚愕する。後ろの塀越しに見ていた商人のおじさんも「おいおい、マジかよ!」と叫んでいた。
「......あ、うん。 まあ、色々とあって......」
ベルゴはそうか、と言い、それ以上は追及することはなかった。
が、ひとつだけ教えてやると言い指を指す。
「勇者は、勇者と言うだけで厄介事に巻き込まれやすい。 その戦闘力を利用しようとする者、勇者という印象力を使おうとする者......様々な悪意ある奴等がこの世界には居る」
「その勇者たる証の《神器》は必要な時以外は出さない方がいい。 勇者と言うことは隠した方が良いぞ。」
そうか、成る程。武器を使った時点でわかるから、まずいのか。
普通の武器を使うようにしたほうがいいな。
「ありがとう、ベルゴさん!」
ベルゴは、「うむ」と短く答えた後、武器を担ぎ塀の中に戻っていった。
◇◆◇◆◇◆
「ノア! すごかった! ノアは弓も使えるのね! びっくりしたのだわ! 何でも出来るのね!」
中に入ると、戦闘を観戦していたステラが興奮気味に僕を出迎えた。
「うん、一応訓練とかしてるからね」
と、その時、横から商人のおじさんが話しに入ってきた。
「いやいや、本当にすごい戦いぶりだ。 私の護衛にしたいくらいの! 野営地を守ってくれた礼だ。これをあげよう」
そう言って、パンを三つくれた。三人分だ。
「いいの......?」
「いいさいいさ! 君を気に入ったんだ! どうだ? もし良ければ、わしの護衛にでもならないか? 給料は弾むぞ」
「ごめんなさい、僕達は目的があって旅をしているから......」
「そうか、それは残念だ。 しかし、もし気が向いたら訪ねてくるが良い。 わしはグライン王都で食料店を出している、ロドリゲスと言う。」
「まあ、王都に来た際には立ち寄ってくれ。 わしはお前を気に入った。 食事のひとつも用意しよう」
「うん、ありがとう! きっと食べに行くよ!」
うんうん、是非きてくれ。とロドリゲスは笑顔で言う。この人は多分、嘘はついてない。
本心で言ってる。
そして商人は自分の場所へと戻っていくと、アレオスが聞いてきた。
「君、勇者だったのか......なんか色々と失礼をしてる気がするが、許してくれる......?」
「え、失礼なんかしてないよ」
「そ、そうか......なら良いんだが......」
うん、と僕は言い、さっきロドリゲスに貰ったパンをステラとアレオスに渡す。
朝ごはんができたから、良かったな。
そして僕達も眠りにつく。
星空を見ながら、ステラの赤く綺麗な瞳を思いだし、目を閉じた。




