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~12~ 野営地の夜

 


 ああ、幸せなのだわッ!と、ステラが歓喜の雄叫び(雄叫びみたいだった)をあげると、ふと何かの視線と気配を感じた。


 ズリッ......ズリッ......と、何かが草むらの中で地面を這っている音が聞こえてくる。


「な、なに......?」


 ステラも気がついたようで、食べるのを中断し口に食べかすをつけまま真剣な顔をしている。


 まさか、今のステラの叫びに応じて魔物が来てしまったのか?けれど、魔力の気配を感じないから多分、獣の類い......かな。

 くっ......今度から物を食べたステラの口をすぐに塞がなきゃ(嘘)

 戦闘体制を取る僕と、ステラもシウからもらった刀身が赤みがかった綺麗なダガーを構える。


 そしてガサッ!と、草むらから出てきたのは......人の手だった。

 何かを求めるようにこちらへとその手を向けると、そのままパタリ地面へと落ちてしまった。


「だれ......?」


「何かしら......」


「......な、」


 な?


「......なにか......食べるもの......くださ......い」



 ◆◇◆◇◆◇



 ステラは倒れていた人に、卵巻の他に貰っていた手持ちのパンと蜂蜜の残りを渡してあげていた。

 あれだけ食べるの好きなのに、嫌な顔ひとつしないで差し出していたのに感心する。本当に優しい子なんだな、ステラは。

 あとで、僕のパンを半分こしよう。残りの僕の蜂蜜もあげよう。


「むぐんぐっ......ぷあっは。 はあ......」


 パンを食べ終わると、その人はこちらをみて頭を下げた。

 男の人で、見たところ年上の人かな、二十歳くらい?髪が綺麗な緑に近い金髪で、もじゃもじゃしてる。

 蛇が巻き付いた杖を持っていて、すごい杖だなぁと思った。


「ありがとう。 本当に死ぬとこだった。 この恩は忘れないよ......」


「たまたま私達がいて良かったのだわ。 動けそう?」


「ああ、おかげさまで。 まさか、迷いの森にいつのまにか侵入していたとは......三日さまよって食料も無くなってしまって死にかけた......。 僕の迷い癖に、今度ばかりは本気で戦慄したよ。 君たちに会えて本当に良かった」


 彼は溜め息を吐くと、顔をひきつらせ、ははっと乾いたような笑い声を漏らしていた。


「君たちは、ああ、そうだ。 名前......僕の名前はアレオス。 この国の王都を目指して旅している、魔法治療師(まほうちりょうし)だ。 君たちの名前は......?」


 魔法治療師!すごい!

 病気とか怪我を魔法で治す、すごく難しい職業だ。里にも一人だけ居たけど、人口約十五万人と言われているグラインの王都でも十人いるかいないかの貴重なモノだと、カイトが言っていた。

 腕のいい魔法治療師を仲間にできるかどうかで、勇者パーティーの未来が決まると言われているらしい。


 ほへーっと僕とステラは驚く。そして、僕から名を名乗った。


「僕はノア」


「私はステラよ」


「ノアとステラか。 うん。 素敵な名前だね。 助けてくれてありがとう、ノア、ステラ」


 ステラがにっこりと笑みで返事する。


「......君たちは、なぜここに? 旅の途中たまたま休憩していたといった所かな?」


 僕は道の途中にある矢印形の看板を指差し、言う。~この先ダーナム~


「うん、僕達はこの先にあるダーナムって村を目指しているんだ。 それで少し休憩でご飯食べていたらアレオスさんが這い出してきた」


「ええ、とてもびっくりしたのだわ」


「ああ、驚かせてすまなかった。 しかし、ダーナムか。 ふむ。」


 何かを思案するように、顎に手を当てるアレオス。


「どうだろう?僕もその旅に同行させてもらえないだろうか。 ダーナムは、僕の目的地のグライン王都へと続く道の途上にある村なんだ。」


「先ほども言った通り、僕は本当に道に迷いやすくて......だから、君たちについていきたい。 僕は治療師だからいざというときの役にも立てる。 ......どうかな?」


 ステラに目を向けると、うんうんと頭を縦に振っていた。


「うん、わかった。 一緒に行こう。 よろしく、アレオスさん 」


「よろしくね、アレオスさん!」


「ありがとう! よろしく、ノア、ステラ。 助かるよ......これで迷わずにすむ」


 迷いの森で地獄をみたからか、心底ほっとしているアレオス。たしかにあの森で三日さまようと言うのはキツイ。同じ景色が延々と続くのは精神的に苦しいと思う。基本森の中は暗いし。


 ふと日が傾きかけているのに気がつく。そろそろ出発した方が良いか。


「それじゃあ、日が暮れる前に野営地を目指そう」


「そうだね、ここら辺の魔物は結構危険だ。 僕も一応は結界を張れるが、心もとない」


「さあ、では行きましょ」


 ステラが手を拳にして握り、真上へ突き上げた。元気よくオーッ!と言うと、みんな歩き出す。

 目指すはこの先の旅人が夜を明かすために使っていると言う野営地。

 夜は魔物や魔族の活動しやすい時間帯で、獣も夜行性なのが多い。

 だから、簡易の魔除結界(まよけけっかい)がある野営地で明るくなる朝方までやりすごす。



 ◆◇◆◇◆



 うっすら暗くなりかけて来た頃、僕達は野営地へと到着した。

 野営地は少し高い所にあり、ちょっとした石の塀に囲まれている。所々に結界が張られている証の黄色い魔石が設置されていた。


 野営地内は結構広くて、中央では火が燃えている。

 見るともう既に人が何人かいて、商人らしき馬車を所有しているおじさんが一人に、全身黒い鎧に覆われ、顔まで隠れている騎士のような人が一人。布にくるまっている背丈程あるあの長いものは、おそらく大剣だろう。


 そして離れた所に、白い髪の女の人が一人。多分、横に鎧と剣が置かれている事から、騎士の人だと思う。ちなみにもう既に寝袋に入って寝ている。

 別に良いんだけれど、寝息が凄まじい......グゴォオオオオとかそんな感じで地響きのような、音を発していた。


 横でアレオスがぼそりと、「すげぇな......」と言っていたのはあのいびきの事だろう。


 僕らも場所を確保しよう。すみの方へ移動し、敷物をして荷物を下ろす。

 実のところ僕は初めての野営地で少しわくわくしている。外で眠るってどんな感じなんだろう......。

 アレオスは、商人に食べ物があれば何か売ってもらうと言い、向かっていった。


 ふと、見あげると深い水の底のように広がる黒に、魔術師が使う白く煌めく宝石がちりばめられたかのような、満天の星空が目に飛び込んでくる。

 星空は今までも沢山見てきたけれど、場所が違うとこんなにかわるのか......。


「すごいわね......ノア」


 と、言われて横に居たステラに気がつく。なんだろう、ドキドキする。

 ステラの星の光に照らされている横顔を見ていると、不覚にもポロッと言葉に出てしまう。


「綺麗だ......」


 しかし、タイミングが悪いのか良いのか、僕が言葉を口にする直前にステラはこちらへと顔を向けていた。


「......え。 あ......あり、がと?ん?あ、星空よね、勘違いした。 ごめんなさい」


 顔を赤くし、慌てふためくステラ。しまった......僕はなんてやつなんだ。

 これじゃあ、ただ辱しめただけだぞ......な、なんとかしないと。


「ち、違う! でも違ってなくて......」


「ステラの......瞳、星の光を映して、とても綺麗な、宝石のように美しい赤だよ......」


 ん、あれ?ん?


 うああああああああ、なに言ってるんだこれ!恥ずかしい!

 フォローになってるかも怪しいし、何より......恥ずかしいいいいいいいいいあああ!!


 と、内心悶えながら顔を赤くしながら何も無かったかのように、冷静を装い真顔になって空を見上げる。


 ステラももじもじしながら、うつむいた。

 そして、遠くに聞こえる虫達の声にすら消されそうな、小さな声で「......ありがとう......とても嬉しい」と言った。


 食料を買って帰ってきたアレオスが、「食事買えて良かったー!って、あれ?......どうした!?もしかして熱ある!?二人とも顔真っ赤だけど!?」と心配そうに慌てていた。

 無駄に心配させてごめんなさい。



 ◇◆◇◆◇◆



 アレオスは、僕達が別に病気とかではないと言うことがわかり、ゆっくりと食事を始める。

 その時に僕達の分も買ってくれたらしく、一緒に食べようと言い、黒くて丸いパンを僕とステラに手渡してくれた。


 黒い色のパンは初めて食べるもので、黒いというのに抵抗が少しあった。けれど、その甘い香りに誘われるように、口へとパンをちぎって運び咀嚼してみると、果物の味がしてとても甘くて美味しかった。


「グラフラッドっていう、色んな果物を混ぜこんで作るパンみたいだよ。 名前のグラッドと言う葡萄の粒に似ている形と色にちなんで、グラフラッドって名前のパンらしい」


「黒いから怖かったけれど、食べてみるととても美味しいわね......ありがとう。」


「ありがとう、アレオスさん。 でもお金......いくら払えば良いかな?」


 アレオスは微笑み首を振る。


「食べ物をくれただろ、だからいいよ。 それにこれからダーナムまでついていかせてもらうんだし、世話代だよ。 僕一人では死にかねないからね......ははっ」


 ダーナムからグラインへの道のりはどうするんだろう。

 僕はちょっと心配になってきたのだった。




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