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~9~ 森の家とお風呂

 


 カイト達に案内され、彼等が拠点てして使っている家が遠目に見えてきた。木造の小さい家。(つた)が所々にからまり、(こけ)が生えていたりと全体的に緑色の印象だ。


 先頭のカイトが足を止める。家はまだ先だけど。どうしたんだろう......?


 カイトはきょろきょろと辺りを見渡し、たまに里からの伝令が帰りを待っているからな。と様子を探っていた。

 ジタナイが、後、まあたまに迷い混んだ魔獣いるしな。 ゴブリンとか......オークとかな。と頭をかいて、眠そうにあくびをしながら言う。

 カイトが遠くをみるように目を細め言う。


「......オークか。 四隊全ての戦闘員総出で戦ったな。」


「あの女が来なければ、俺らは全滅だったな。 ははっ」


 ジタナイが笑い、それに対しシウがホントにね。とジト目で漏らした。


「......数年前、体長四、五メートルくらいのオークがこの森に侵入したんだ。 俺らの部隊は一から四の隊があって、その全ての隊で集まって倒したって事があったんだが、その時のはなしさ」


 と、ジーノが教えてくれる。オークは里での座学で聞いた事がある。

 肌は緑色で顔は猪のような鼻を持ち、口からは収まりきらない程の牙が下顎から左右に一本ずつ生えている。

 僕は実際には見たことがないからわからないけど、五メートルか......どれだけ大きいんだろう。想像つかないや。


 周囲の安全確認が終わり、家の中へと招かれる。カイトが鍵を使って入ると中は外から見た印象とはまた違って、いたるところが花や小物などで飾られ、とても生活感のある綺麗な住みかだった。小さめの家だけれど、部屋が幾つかあって、調理場や体を洗う所も備わっている。


 いずれも火の魔石と水の魔石が使われていて、それを利用して食材を焼いたり、お湯を沸かせたりが出来るようになっていた。

 魔石は里では話しに聞くだけで、見たことがなく僕は物珍しさに目を輝かせ聞いた。


「ねえ、この魔石って、どういう風に使うの? 僕、見るの初めてで」


 調理場の鉄板が設置されている台の下に固定されている赤い火の魔石を眺めながら僕が聞くと、ジタナイが来てくれた。

 あー、里は魔石とか回復魔法以外の魔法は禁止なんだったな。コイツはこうやって少し魔力を流してやると......。ジタナイが指を魔石に触れるか触れないかのとこで止め、魔力を指先から流す。

 すると、魔石は赤く光り熱を発した。


「魔族と違い、人の持つ魔力は微々たるものだが、その少しの魔力を流すだけで、魔石自体に蓄えられた魔法効果が発動させる事ができる......魔石ってのはホントに便利だよな」


 カイトが言い、そして付け足す。まあ、勇者のノアには魔石を使う事は出来ないが、と。

 するとステラは頭の上に「?」を浮かべて聞く。


「なぜ、ノアにはできないの?」


 カイトが答えてくれる。


「勇者には魔力が無いからだよ」


 そう、勇者には魔力が無い。かつて、魔王討伐に最も近かった歴代最強の勇者や、その他のとてつもない程の戦闘力を持っていた勇者達も、皆、魔法の類いを使わず戦い抜いた。


 ステラは目をパチクリさせ、え、でもそれでは魔力での身体強化を使わずにノアはあんな動きをしていたの?と聞く。


「僕たち勇者は、魔力は無いけどかわりにもっと強力なモノを持っているんだよ。 それが勇者が生まれ持つ、神から与えられし力......《神力(シンリョク)》」


「これによって勇者の体は常人の何倍も身体能力があるし、何倍も頑丈なんだ。 そしてそれを集約させる事で発現するのが《神器》なんだよ。」


 いや、でもノア、お前さっきの戦闘では神力を殆んど使ってなかっただろーが......ホントに末恐ろしいぜ。と、ジーノが苦笑いする。

 まだ敵がいたらヤバイなと思って、僕は神力をできるだけ使わないよう節約していた。


「まあ、でもステラがいるから大丈夫だな。 魔族だし、魔力使うのはお手のもんだろ」


 ステラはしゅんとして首を横に振る。


「私は魔力がないのよ。 この森に捨てられた時に封印されたの」


「お前、捨てられた魔族だったのか......何故、捨てられたんだ?」


 カイトの問に言葉か詰まる。流石に魔王の娘と言う事は言えないし、カイト達はそれを知れば困り悩むだろう。

 すると、シウがステラの気持ちを察したのか、後ろから抱き締め頭を撫でた。


「誰にだって、言いたくないこともあるわ。 大丈夫よ......」


 ステラはありがとうとシウに微笑んだ。



 ◇◆◇◆◇◆



 湯煙の中。


 ふわふわと泡が舞い、シウは木の容器ですくったお湯で、ステラの泡まみれの頭をざぱーっとかけ流す。

 汗や汚れが気持ち悪いので、夕食の前にお風呂に入るとシウが言い、お湯を沸かしだした。

 一緒に入りましょうと言い出し、今は私たち女性の二人が入浴中。

 私は、シウと森の道中でたくさんお話しして、会って間もないけれど、お姉ちゃんのように思っていた。

 だから、一緒のお風呂は嬉しいのだけど......女同士とはいえ、なんだか恥ずかしいのだわ......。


「すごい綺麗な髪だね。 こんなに長いのにどこも痛んでないし、ツヤツヤ......羨ましいわ」


 後ろにいるシウは流した後の私の髪を優しく撫でている。髪を褒められるのは嬉しいのだわ。


「あ、ありがとう......」


「それに......」


 スルッとシウの手が私の肩から前へ側と滑らせそれを触れる。


「ひゃんッ?!」


 ステラの艶のある声が浴室に響く。


「あなた、15歳なのよね? 大きい......大きいわね。 魔族は胸が大きくなりやすいのかしら」


「や、やめ......はぅ......あっ......」


「......あ、ごめんなさい。 珍しくて。 あははは」


 ふにふにと触る手を止め、ごめんごめんと頭を撫でシウは笑う。

 次は私の番、洗って綺麗にしてねとシウが言い交代。最初に頭を私がやってもらった同様に綺麗に流す。

 体も泡だらけにし、綺麗にする。――そして仕返しの時だ。


「シウさんも体綺麗ね。 こんなにすべすべ......」


「え、あっ......ちょっと、ひんッ......まっ」


 すべすべなのは泡で流した後なので当たり前だけれど、もはやなんでも良かったのだわ。

 とにかく、シウさんの体をせめるの。倍返しなのだわッ。


「ス、ステラ......だ、だめ......どこ触ってるの......やんッ」


「ふっふっふ......どう? 気持ちいいかしら、私のマッサージは!」


 私の攻撃がかなり効いたのか、シウはくたーっとなっていてその表情はとても艶っぽく、私は変な気分になった。ドキドキするのだわ......。

 どうみてもやり過ぎた。


「......ご、ごめんなさい、シウさん大丈夫?」


「ぷっ......ふふっ。 大丈夫よ、変態さん」


 イタズラな顔をしたシウがステラに言った。


「へ、へへへ、変態なんかじゃない!」


 小さいけれど、浴槽へと二人で入る。ぎゅうぎゅうでシウが後ろから私を抱くような形で仲良くお湯に浸かる。

 ぽちゃんと水滴が天井から落ち、疲れが取れていくのを感じる。

 ふと、シウが話しかけてくる。


「ステラは......ノアくんのこと好きなの?」


 !? へ......?と、間の抜けたリアクションをする私に対し、にやにやしながら続ける。


「ノアくん可愛いし、将来はきっとカッコよくなるわね。 私が貰っちゃおっかな~」


「な、なにを言ってるの! だ、だだだだだ、だめよ。 そんな事は許さないわ!」


「えーっ。......じゃあステラはノアくんの事、どう思っているの?」


 ノアの事......私は答える。ノアは......。


「ノアは......私は、ノアがいなかったら間違いなく死んでいたのだわ」


「森で殺されていたかも知れないし、里で処分されていたかも知れない......生きる希望だってなくて、死んでもいいと思っていたわ。」


「けれど、ノアは私に手を差し伸べてくれたの。里に居られなくなる事をわかった上で、私を守ってくれたわ。......こんな風にしてくれる人がいるなら、私はまだ生きていて良いんだと思えたの。......だから、私はノアが居ないと生きれない」


 でも


「......それとは別に、私は、ノアが人として好きだわ」


 彼の弱さも強さも......優しさも。


 私の話しを微笑みながら聞いていたシウはまた頭を優しく撫でてくれた。

 そして静かに言う。


「そっか、じゃあノアくんは諦めよう。 でもね、ステラ」


「私たちもステラの......ノアくんとステラの味方だよ。 困ったら頼りなさいね」


「......ありがとう。 シウさん」




 温くて幸せで、満たされたお風呂。

 優しさに体ごと包まれ、私は人の温もりを想った。




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