下心の豪邸
気がついたら 鳥のさえずりが聞こえる朝だった。
まずい!早く起きて 祭壇の準備をしなければ!
とガバッと起きた健太。
ドアを開けると、おばちゃん達の声と
朝食のニオイがした。
「おはようございます。これから起こしに参ろうとしていました。」
昨日よく聞いた覚えのある声だ、足元を見ると 部屋の前で座って僕を見る中村くんが居た。
「昨日、きのう僕はどうした?」
「グッスリ寝ておられましたよ。」
「ちがう!祭壇の準備があるから 目覚ましを掛けるはずなのに それもしていないなんて……。」
「ボクが起こしに行きますと言ったら、喜んで寝ておられましたけど?」
「そ ん な……。」
「覚えてらっしゃらない?」
ない!
昨日の風呂上がりの記憶をたどってみる。
まさか、目覚ましを掛けないで寝るなんて 自分として有りえない。
「とりあえず、ご朝食はこちらが準備しております。どうぞ顔を洗って食堂までいらして下さい。旦那様がご挨拶すると思います。」
「寿樹は?昨日、風呂から一度も会わずじまいなんだ。」
これもおかしい。
夜に必ず打ち合わせや挨拶をするのに、昨日はお風呂を上がってからというもの、本当に記憶がなくなってしまったぞ!!
どうした自分。
「側近さま、朝から顔色が悪そうだね。眠れなかったですか?」
黒田家の主、村長だ。
「中村、もういい。下がって。」
「はい。」
「寿樹は!?寿樹はどこにいますか?」
昨晩、この男と寿樹がベッタリくっついている姿を見てから 寿樹と会っていない。
「御師さまはね、朝のお風呂へ入っています。」
「昨日の晩 何があったんですか!」
「お喋りしていました。久々お会いしたもので。」
(ウソだ。)
寿樹は21時には寝てしまう。
僕がお風呂へ入ったのが20時、その後お風呂へ入ったとしても21時にはいつも寝てしまうんだ。お喋りなんかしている時間なんてなかったはず。
「御師は21時には消灯するはずです。」
「ちゃんと、お喋りしていましたよ。御師さまに聞いてみればわかる事です。」
寿樹が髪を乾かして、風呂から出て来た。
「寿樹!」
寿樹は健太を見て 動きが止まった。
「昨日は、何も言わずしてスマナカッタな。」
「ちゃんと、寝たの?」
「お前の案ずる事ではない。朝食に行くぞ。」
なんとなく、寿樹が寝不足そうな顔に見えた。
朝食が終わって、直ぐに祭壇の準備へと取り掛かる。
村の人が集結するとあって、徐々に人が混み始めた。
寿樹と僕はフェイスシールドを装着した。
村長もフェイスシールドを着けると、集まって来た村人たちに告げた。
「長椅子には決められた距離を保って、お座り頂けたかと思います。」
村の人がお喋りを 止める。
「この度は お集まり頂きありがとうございます。新型コロナウイルスで自粛生活が長く続きますが、この村は幸いな事に感染者は0です。」
よかったわー。と言う声が聞こえる。
「……幸いではありますが、私たちの生活は今もなお、窮屈な生活を強いられます。満足に外出も出来ず『楽しみ』の少ない日々ですが、お盆くらいは先祖の霊を弔ってあげましょう。今年も御嶽霊山 真正寿樹御師にお越し頂きました。」
拍手が起こる。
「拍手は良いですが、お喋りはお控え下さい。」
簫など音のなるモノはないから、テープを流してごまかす。
中村くんが手伝いに来てくれた。
「何かお手伝いしましょうか?」
「ありがと。」
音響の担当になってもらった。
「僕が合図をしたら、小さく絞って停止してくれる?」
「はい。」
「やり方わかる?」
「ここの機材なんで、分かります。」
「そっか、頼もしいな中村くんは。」
本当に頼もしかった。我が真正家にも欲しいくらい、よく出来た人材だった。ただ、僕をうまく騙したりしなければの話だが。
昨晩はどこで騙されたんだろう?
寿樹と村長がくっつき始めた時に 中村くんにお風呂へ連れていかれ、出て用意してあったお茶を飲んで、部屋まで送ってもらった。その後すぐに寿樹を探しに出たのだけれど、どこにいるか分からず、また中村くんに押し戻された。
寿樹はお風呂に入っているからと、出たら教えてくれと言っておいたのに、凄く眠くなってそのまま朝まで気が付かなかった。
中村くんはタイミングよく音響をこなしてくれた。
何でもできる優れた子だ。
僕なんか騙すのも、朝飯前なんだろうな。
寿樹の祈祷後も 村長のスピーチが繰り広げられる。
なんだかんだ、村の人に人気に見えるこの村長も この村の人たちのお金集めて豪邸に住んでいる。