サクランボ色の艶やかな
2020/07/27
サクランボ色の艶やかな……。
健太が お風呂に入ろうとすると 着物が 脱いで置いてあった。
鬼空の忘れ物か?洗濯に出しておけよ……。
独り言を喋ったか 思っただけかは もう覚えていない。
あんな 衝撃的な事 起こるなんて 思ってもいなかったから……。
いつも通り 最後のお風呂へ 入ろうと 衣類を洗濯機に入れて 裸になる。
そこまでは いつも通りだった。
ガラガラとドアを開けると 湯けむりが出て来る。
その先に うなだれて座る 人の姿があったから かなり大きくビクッとした。
身体は色白で 裸、そりゃどうだ。 髪が垂れていて 顔がわからない。
とにかく 動いていないから こりゃ一大事だと思って 裸のまま 駆け付けた。
「鬼空!?」
肩を起こすと 目の前におっぱいが 見えた。
これは、当たりだ!
そうじゃない!
「寿樹!?」
寿樹は寝ていた。目を覚ますと びっくりした表情で タオルで胸を隠した。
「いや、違う。僕は居るの知らなくて……。」
とっさに やましい心もあったが 小股を閉じて 言い訳をする。
「いいんだ。私が 入って居眠りをしてしまったから……。」
「じゃあ、僕は出るね。」
「待て!」
寿樹は 恥ずかしそうに言った。
「ロウソクの油を 髪にこぼしてしまった。スマナイが手伝ってくれぬか?」
天使の声のように 聞こえた。
「えっと、僕裸だけど いい?」
厚手のタオルを 腰に巻き付ける。
「かまわぬ。」
話によると、ロウソクに火をともしていたところ モノを落として拾うとかがんだ時に ロウソクが倒れて来たらしい。
他が 燃えずに済んで良かったが、髪に油がかかっていたらしい。
なかなか 油が落とせずにいたところ コクリと居眠りをしてしまったそうだ。
「寿樹は いつもこの時間には寝ているもんね。」
また寿樹は 寝てしまいそうな 雰囲気だ。
サッサと洗って 寝かせてしまわないと。
寿樹は 早起きだから……。
コクリと船をこぎ始める 寿樹。
ゴクリと唾を飲み込み 横顔を覗き込む健太。
もう、おっぱいは バスタオルが体を一巻して見えないが、このお風呂の灯に照らされた寿樹の唇はサクランボ色に艶めき 潤いに満ちていた。
なんて キレイな唇をしているんだ。
まるで サクランボのような 瑞々しさがある。
おもわず 口に含みたくなるような 果実のようだった。
その唇に触れたら 僕は 後へ引けないのだろうな。
全身に 血が巡り きっと思考回路が ショートしてしまう。
そんなことに なる前に ここは 早く 早く クイックリー!
寿樹を起こして 脱衣所で着替えるように 促した。
脱衣所では モソモソ動いているのが見えたから ちゃんと着替えて出て行ったらしい。
ハァー。
ため息を ついて 自分の息子を眺める。
ドキドキしたな おまえも出番かと思ったろう。
おまえは 僕がいいと言ってないのに 勝手な行動を直ぐとるからな……。
でも アレは 僕も正直 押さえられないと思った。
目の前に ステーキが焼きたてで出された時のように もう ステーキの口になってしまったのと同じだと思った。
湯舟に浸かる健太。
当たりが来たな……。
来たところで 食べれるわけでもなく……。
とり逃がして しまった。
おしかった。
せめて サクランボ色の唇を 食してみたかった。
後からは なんとでも 思える。
健太が 風呂から出て、ドライヤーが無い事に気が付く。
使いっぱなしで その辺にあるのだろう。
と出ると 案の定 ドライヤーの音が居間から聞こえる。
「まだ 寝てなかったの?」
健太が 寿樹に声を掛けようとすると ビビった!
ソファーの上で 横になって寝ている寿樹。
ドライヤーはソファーの下で音を立てていた。
寿樹の髪はまだ 湿っている。
健太は 寿樹の髪にドライヤーをあてた。
気持ちよさそうに 寝ている姿を眺めながら。
長い髪の毛は なかなか 健太の髪のように乾かない。
僕の髪の方が 自然乾燥しそうだ。
反対に ゴロンと 寝返りを打たせても 起きなかった。
一瞬 エッチな事が 頭をよぎる。
いや、エッチは 起きる。
僕が 乾かしてるのを いい事に 寿樹は 半分寝ているな。
「寿樹、乾いたよ。起きて自分の部屋で寝るんだよ。」
スース―言ってる。
健太は自分にドライヤーをあてる。
乾かし終わった。
ドライヤーを戻して帰って来ると 寿樹は ソファーで本寝していた。
「寿樹!寿樹!起きて。」
何度も起こされて 機嫌の悪さ MAXといったところだ。
キャシャな寿樹の身体を 支えると 部屋の布団まで 連れて行った。
「どうして ここまで してあげてるのに 君は 不機嫌MAXなんだよ。」
布団で やっと安心したのか 直ぐに眠る寿樹。
健太は ご褒美として サクランボの唇にチュッとして オヤスミを言った。
健太の部屋で 息子に 小心者と愚痴られた。
おまえは 暴走するから ダメだ。
僕は 正々堂々と 寿樹から 貰うんだ。
次の朝
寿樹は いつも通り 朝の開門には起きていた。
きっと 僕より早く起きて 数々の祠に 祈祷をしてすませて来たのだろう。
「流石だね。ちゃんと起きれたんだね。」
寿樹に挨拶がてら 言うと
キッと寿樹に 睨まれた。
「え?何?睨まれるような事した?……あ、昨日のお風呂では ごめんね。」
「違う。」
「へ?違うの?……あ、あ、寿樹の裸は見てないよ。」
「違う。」
「え?僕、いやらしい事してないよ。」
「違う。」
「じゃあ、何なの????」
フイっと向いて 出て行ってしまった。
寿樹は 言えなかった。
健太が 帰り際に キスをしていって から 眠れなかったことなんて、言えなかった。
鬼空の 二の舞を踏むことになりそうで、とても言えなかった。