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魔物の誕生

 窓の外に見える有機的金属生命体が増えた。


 先頭に、マーサ・フロレスを追い立てたウネウネハンドの奴。少し遅れて、幅広のバネを巻いたりほどいたりしながらやって来る丸いシルエットの奴。歪な形の塊をコイルで繋ぎ合わせ、不規則な動きで転がってくる奴。


 ハサミとドリルを装備した二本の腕を持ち、黒々とした金属の光沢を自慢げに見せびらかして走る、殆んどヒトガタの奴。最後は、蜘蛛のようなケバケバした細い金属の脚で移動する、幾多の眼からビームを発する奴だ。



「気持ち悪いねえ」

「全部違う形してんだな」


 私達は、感想を述べ合う。マーサ・フロレスを追いかけて怪我を負わせた個体に続いて、五種類の元・戦闘機械人形(マシンドール)らしきものが視界に入ったのである。何か言わずにはいられないではないか。

 人はそれを、現実逃避とも呼ぶ。



「おいっ、制圧に行かなくて良いのかよ」


 王子が近付いてきてマルコに言った。お前は良いのかよ。王族だからって民衆を盾に出来ると思うなよ。戦闘能力に問題が無いことくらい知ってるんだ、こっちは。ゲームでは王子も魔物討伐に参加させられてたからな。


 攻略対象の5人組イケメンズは、マーサと共に全員出撃だった筈。あまりに唐突な戦闘局面(フェーズ)だったので、かなり鮮明に覚えている。


 当然のごとく、魔法で闘う者はいなかった。何度も言うが、ゲームの舞台はここ『アラン王子記念王立魔法学園』である。メインキャラクターは、総て魔法学園生だ。

 しかし、ゲーム中唯一(名目上は)魔法キャラである、「天才魔法使い」緑君も含めて、謎の道具と物理武具で戦っていた。



 謎の道具は、「道具」と言う選択肢があるだけで、説明もなければ画像もない。使ってみてもエフェクトもない。ダメージが入れば「攻撃成功」と言う文字が表示される。どんな効果があったのかも、まるで解らないのだ。


 戦闘フェーズでも、ダメージや体力の数値化は無く、ゲージが表示される気配も無かった。延々いろんな攻撃を試して、「失敗(即ちゲームオーバー)」もしくは「成功(各ルートの最終章に進む)」となる。


 ただし、マルコの『魔法剣』を使うと、一瞬で「殲滅成功」と言う表示が出て終了だ。何がどう魔法なのかわからないし、どう使ったのかも示されないが、とにかく現実世界での攻略作業時間は2秒くらいだ。感慨も達成感も無い。楽ではある。



「マルコ、中央魔法騎士団員だろ!」


 見習いだけど、確かに魔獣討伐と市中警備の職務がある。王子の言い分にも一理ある。一理は、だけども。


「今は勤務中じゃないし、だいたい見習いは個人の判断で勝手な行動できねえよ」


 マルコ、珍しく屁理屈じゃない。正論だな。


「せめて連絡しろよ」

「王子が通報すれば如何?」


 王子の後ろから、怜悧な白銀の乙女が冷たい声を響かせる。誰だっけ?真っ直ぐな銀髪に薄紫のつり目。薄い唇とスッキリした高い鼻。細く優雅な眉。青白い肌。華奢ながらも女性らしい程よい身長の女子学生だ。


「ルチアは黙ってろ。ややこしくなる」

「ややこしいことなぞ、なくってよ?」



「ルチア・デ・イエロは王子の幼馴染みだぜ。最有力婚約者候補ってやつらしい」


 マルコ解説員から情報がもたらされた。まずい、顔に疑問が出てたかな。


「なぜマルコさんにお願いしなければなりませんの?」

「そんなに言うなら、ルチアが連絡しろよ」

「まあ、呆れたこと。」


 なんだかギスギスしている。しかも、両方理不尽な物言いで平行線だ。


「貴族の未婚女性は、騎士団に通報禁止ですのよ。ご存知ないのかしら?」

「ちっ、忘れていた」



 えっ。

 理由があったんだ。

 何そのルール。


「風紀を乱さないためなんだよ」


 マルコ解説員再び。でも何で?よくわからない。


「命がけで国民を守る男達、っていう妄想を抱いてるお嬢さん方が、助けに来て下さいって呼びつけるからだよ」


 深爪で救急車呼ぶより酷いな。イケメン目当で警察呼ぶとか。いくらなんでも酷すぎる。禁止になる程頻繁に呼びつけられたんだろうな。



「挙げ句、高価なプレゼント責めにしたり、パトロンみたいなことしたり」

「団員も、それ受けちゃうんだ」

「相手は貴族だし、断ると色々問題があんのさ」


 それで、一切禁止になったのか。専制国家でよく実現したな。中央魔法騎士団は国立の警察組織である。警視庁のようなものだ。禁止事項もお願いではなく、何らかの法的根拠に基づいて設けられたのだろう。



 しかし、この雑王国センテルニヤに於いて、その規則が守られているのも驚きだ。

 ついでに、こんなにギスギスしてるのに最有力婚約者候補というのも驚きだ。


「10歳時点で、年齢差5歳迄の魔法能力高位女性を上から順位つけて候補にすんだよ」


 今日は解説員大活躍だな。何でそんなことに詳しいのかね?


「テレサの実力がどんどん上がって心配だから調べた」

「あら、そう」


 聞かなくても答えてくれる。ちょっぴり決まりが悪い。ポーカーフェイスの訓練をしたほうがいいかもね。


「テレサかわいい~」


 はいはい、いつものやつ。


 それにしても、中央騎士団遅いな。教員が通報してると思うんだけども。マルコの魔法剣はギラギラに輝いているけど。



「おっ、飛んだ」

「え、こっち来るよ?」


 マシンドールが5匹とも飛び上がって此方へ向かってきた。5機?5体?5個?5人?兎に角、襲ってきた。

 マルコがとうとう剣を抜く。騎士団云々言ってられないだろう。流石に命の危機を感じたならば、反撃しても怒られはしない筈だ。


「テレサ、下がって」


 マルコが構えた古代の魔法剣は、未知の効果を持つ武器だ。マルコの指示に素直に従って、教室の隅へと避難する。

 魔法剣の光は、金銀ラメを散りばめた、ほとんど赤と言えるピンクレッドだ。


 教室の窓に群がってマシンドールの猛攻を見下ろしていた野次馬学園生達も、蜘蛛の子を散らしたように逃げ去った。誰か教員に助けを求めるんでしょうね?まさか全員が校内に設置されたゲートで何処かへ逃げたりしませんよね?



 私はマルコと古代の魔法剣が気になるので、教室の隅に留まる。安定した体勢で、マルコが古代の魔法剣を構えている。教室の窓は、野次馬たちが全開にしたままだ。

 マルコは飛び出して行くことも、魔法強化硝子の窓を閉めることも選ばない。真っ正面から迎え撃つつもりだ。


 ぱっと見た感じでは、あの魔法戦闘有機機械人形(バトルドール)達は、第一教室の防御能力には叶わないと思う。

 最終年齢クラスで第一教室所属学園生の実力ともなれば、クラス最下位でさえ独りでセンテルニヤ王都を制圧出来る。そんな青少年が暴れても被害を出さない頑丈さ。窓に嵌められた魔法強化硝子の強度といったら、計り知れない。


 だが、今、この教室に私達が立てこもり、安全確保してしまったら、マシンドールはどこへ向かうだろう?どれだけ知恵があるのか解らないが、もしも攻略不可能とみて移動したら?無防備な低学年第三教室や、さらに無防備なセンテルニヤ市街を襲うかも知れないではないか。


 マルコには、迎撃しか選択肢は無いのだ。

 そういうやつなんだ。


 いや、でもどうかな。


 向かってくるから反撃しようと身構えているのか。単純に。



 最初にマーサを襲ったウネウネハンドが、マルコに向かって伸びる。マルコはさっと一振りで、自在にしなる多節金属棒を切り捨てる。魔法剣の効果なのか、金属棒は本体から切り離された部分が音もなく消滅する。


 その本体から伸びた電撃を放つ手が、攻撃準備で開かれる。しかし、電撃が落とされる(いとま)もなく、マルコの魔法剣が本体ごと機械の手を消し去った。



 続いて窓に迫るのは、丸いマシンドールだ。銀色にきらめく幅広の金属リボンで出来たバネを、新体操のリボン演技の如くしゅるしゅるっと伸ばしてくる。こちらも、最初の機械同様にマルコの魔法剣が消し去った。


 鮮やかな手並みではあるが、マルコの表情は厳しい。魔法剣がついに発動出来た喜びも驚きも一切見せず、唇を引き結び眉をつり上げて、生きた魔法金属達に立ち向かう。



 繋ぎ目のコイルが伸び縮みしながら、いびつな形の金属が不安定な飛行をしている。ふらふらと今にも墜ちそうな様子を見せる。しかし、案外図太く昇ってきた。


 マルコを射程に捉えると、コイルは限界まで伸びて金属塊を投げて寄越す。3回目ともなれば手慣れたもので、一見不規則な動きをしてきても、難なく本体ごと消滅させた。



 跳躍で窓際までやって来た人のような黒い金属生命体は、ハサミとドリルを交互につき出す。それもマルコは教室の中で冷静に待ち構え、攻撃圏内に入るや否や古代の魔法剣で消し去った。


 ハサミを払うとか、ドリルを弾くとか、細かい動作はまるでなく。狙いすました一撃で、まさに一刀両断だ。更に魔法剣の眩い光で、今度も本体ごと消滅した。



 黒いマシンドールの跳躍する脚にしがみついていた蜘蛛脚の機械生命体は、黒いほうが窓に到達するとパッと離れた。姿が見えなくなり、落下したかに見えたが、黒いのが消え失せた直後、極彩色のビームが教室を襲う。


 マルコと私自身に防護の魔法をかけながら、私は意を決して窓辺へと走る。どうせ教室の奥までビームは乱れうちだ。マルコの操る古代の魔法剣も、すべての光線を打ち払うことは出来ない。


 既に消された黒いマシンドールから離れた蜘蛛脚機械は、壁にとりつき沢山の眼からビームを放つ。今までの4機体と違い、教室に直接乗り込もうとはしてこない。


 蜘蛛のようなケバケバした細い金属の脚で、校舎の壁をわさわさと動き回る。体についた幾多の眼から出す殺人光線は、直進だけでは無かった。流石にこれでは、教室で待ち受けていても埒があかない。



「テレサっ逃げろっ!」


 マルコが叫ぶ。

 私は、足手まといだろうか。


「マルコはどうすんの」

「こいつを消す」

「だったら、外行こうよ」


 教室の強度は、蜘蛛型機械のビームに余裕で耐えている。備品に掠り傷ひとつ負わせていない。

 私はそれを見てとると、端から窓を閉めてまわった。


「積極的攻撃は規則違反なんだよ」

「ここに居たって、本体部分は乗り込んじゃあこないわよ」

「そりゃあそうなんだが」


 私は全身の防壁を極限まで上げ、最後に残ったマルコの目の前にある窓を、ピシャリと閉めた。


お読み下さりありがとうございます。

次回、魔の山で修行

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