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実技テストは慎重に

 暑くなり始めた7月の教室で、マルコが私に寄ってきた。最近、学校でも遠慮無く寄って来るな。


「最近テレサ、どんどん綺麗になってね?俺心配なんだけど」


 とか宣う。大丈夫だ。それは、「俺の彼女は世界一」と言う青少年特有の現象である。世界一もどんどん綺麗になるも、事実ではない。勿論、後にも先にも、マルコ以外にモテた試しはない。


「マルコこそ、モテモテじゃないの。前から」

「いや。キャーキャー言うのが楽しいだけだろ。モテた事はねえよ?」

「お菓子とか貰わないの?」


 そう言えば、見たこと無いかも。


「特に貰わない」

「意外~」



「マルコは観賞用だからねー。性格が残念過ぎるから」


 通称王子の、本物のセンテルニヤ王国王子様がやって来た。本当の名前はエンリケ・ルチアーノ・ホセ・イル・アズレス・デ・センテルニヤ。誰も覚えていないけど。

 そんな王子様は、今日も黒髪をサラサラさせ、ピンクの混じるノーブルな碧眼からイケメンビームを発している。


「なんだよ、王子。こっちくんな」

「最近は、見た目まで残念になっちゃったよね」


 王子よ。マルコは優しくて頼りになるぞ。見た目、最近ちょっとワイルドというか、野生そのものになったけど。『海の宝石亭』に入るとシーンて静かになるけども。


 モテないなんて、嘘だ。きっとファンクラブが抜け駆け禁止とかやってんだろうな。私、よく無事だなあ。今からでも、廊下は独りで歩かないようにしよう。


「王子~先生が呼んでる」


 銀髪巨人デレクが、王子をつれて行く。不機嫌な様子でその背中を見送るマルコ。心配しすぎ。あと、王子は特に好みじゃないです。良い奴だと思うけど、殆んど交流が無いので知らないし。



「テレサ、今度の実技試験誰と組むの?」


 王子の背中が完全に見えなくなってから、マルコが私に聞いてきた。

 実技試験は2人一組だ。2ヶ月毎に行われる。誕生日で切り替わる完全年齢制クラスの為、節目のテストは行われない。他の学校とは制度が違う、独自の評価方法であった。


 センテルニヤ王国に於いて、通常の教育機関は現代日本モデルである。4月に年度が始まり、中間、期末、学年末の学力考査が実施されるのだ。


 そんな中、この学園だけは、何故か独特の教育制度を採用している。特に理由は無いらしい。まあ、いつものことだ。

 ついでに、ゲームでは一切魔法実技試験について触れられていなかった。ゲームの舞台でもあるここは、魔法学園なんだけれども。



 会計年度も分かりやすく4月始まり。つまり、『アラン王子記念王立魔法学園』在学生は、生まれ月によって就職迄の空白期間が発生してしまうのだ。皆、特に気にすることもなく、バイトするなり旅行するなり、自由な時を過ごしているようだが。



「ペアはまだ決めてない。課題発表もまだだからね」

「俺となら、どんな課題でも高得点じゃね?」

「でも、マルコもう卒業じゃないの?研修だってあるし」


 「5月くらい」が誕生日と言っていなかったか?もう7月なんですけど。ほんと、どうしてこんないい加減な男が生徒会書記なんだろうか。もっと几帳面な人がいただろうに。



「それがさあ。出席日数足りなくて卒業延期なの」

「はあ?研修で単位振替じゃなかったっけ?」

「実技試験免除と、ある程度の公休扱いはあるけど」


 毎朝日帰り討伐しているけど。朝だけとか半日の日は学校にも来ているのだ。一方、中央魔法騎士団の鬼畜研修には、欠かさず出席している。学校に来られない日も多いので、出席日数が足りなくなってしまったらしい。


「えっ、研修も休んだらダメなんでしょ?」

「うん。そっちも出席足りなければ正式入団出来ない」


 やはり、研修を休んで学園の出席日数を稼ぐという方法も取れないようだ。


「どうすんのー」

「大丈夫だって。新年度までには、学園卒業出来そうだぜ」



 卒業出来なかったら入団取り消しかな。でも、見習いは常に募集しているから、ずっと見習いなんだろうか。そうなると、当分は研修という名の過酷な討伐演習を毎日行う生活だな。


「心配すんな」


 顔に出てたかな。


「うん」

「テレサの魔法剣の加護があるから死なねえよ」


 何の何だって?


「加護?」

「ちゃんと誓言も使って捧げた魔法剣だからな。剣に赤い実の精霊の加護が付いたのさ」


 捧げた相手の魔法的能力に関わる精霊から、魔法剣と共に魂を受け取った印として、何らかの加護が剣に付くものらしい。知らなかった。

 赤い実の精霊なら、治癒に関する加護なのだろう。死なないとはまた大袈裟な。



「過信しちゃ駄目よ?」

「いや、死なねえよ。捧げた精霊本人からの加護だからな」

「え?」

「あっ、いや」


 マルコは、うっかり口を滑らせたようだ。

 察するに、「先祖がえり」の秘密に含まれる内容だろう。一族の秘密を開示されていない私本人もさることながら、周囲に無関係の一般人いますが。ここ、教室なんだけど。


「テレサ最高」


 ごまかしと本気がごちゃ混ぜになって、学校だと言うのにマルコがぎゅうぎゅう抱きついてきた。

 そして、実技試験の話題は何処かに消え去った。


「えっ!ちょっ!マルコっ!やめっ」

「テレサ、恥ずかしがっちゃって可愛い~」


 寮生にとってははすでに見慣れた光景なので、彼等は無反応である。マルコがワイバーン登下校を始めてからは、自宅生にも生暖かく見守られてはいた。


 しかし、マルコも多少の良識があるらしく、ここまであからさまなベタベタは、学園敷地内では控えていたのだ。自宅生達、特にマルコ・セレナードファンのクラスメート達は、ショックで顔を蒼くしている。


 自分達にもまだチャンスがあると狙っていて絶望した人も、多少はいるかも知れない。しかし、爽やか少年(外面)マルコ・セレナードのデレッデレに鼻の下を伸ばした姿にドン引きしたファンのほうが、遥かに多そうである。



 溺愛にキュンキュンするのは、創作物だけだ。バカップルになりたいとは、あまり思わないのが現実と言うものである。


「マルコ!離れてよ」

「やだ。実技試験、組も?」


 その話題、復活したか。


「マルコ、免除じゃなかった?」

「そうだけど、受けてもいいんだよ」

「うーん」

「ね、テレサ、俺と組もうぜ~」


 本当は、課題が発表されてから最適な相手を探すのがセオリーだ。まあ、確かにマルコと私が組めば、魔法実技試験の課題なら全方位的に隙なんかない。


 戦略的なセンスを問われたらマルコに任せて、私は指示通り動けばよい。魔法を活かした体術中心なら、私は加速と強化で撹乱し、マルコが攻撃と防御をする。

 魔法武器術なら、私はひたすら後方支援でマルコを攻撃に集中させるのがいい。


 創造魔法や土木、そして治癒や回復等の魔法なら、私の得意魔法を、マルコにブーストかけて貰う。

 飛翔や移動なら、相乗効果で他ペアの追随を許さない。オリジナル披露なら、互いの被験者として信頼度が申し分ない。


 ただ、純粋魔法戦闘なら、組めば過剰戦力である。ペアを組むのを試験官に止められるかもしれない。



 暫くして、課題が発表になった。


「おー、戦闘魔法演習試験だぜ」

「何でもありの魔法戦闘だね」


 マルコが燃える。迷惑なのでやめてほしい。現役の中央魔法騎士団見習いに本気を出されたら、魔法学園が焦土と化すだろう。ここに魔獣はいないのだ。たまに反撃してくる、よくわからない形の魔法機械があるだけだ。


 試験まで1ヶ月の間にペアで準備をする。何とか穏便に済ませるよう、説得しなくては。今回はその間に一般課目の試験もある。一般課目は、同じ教室でも進度別に問題が違う。



 魔法実技試験が進度関係無く定期的に行われるだけなのに対して、一般課目試験は通常の学校に準ずる。

 かなり無理のあるカリキュラムだ。現実補正が無いため、通常と同じ年度別のカリキュラムに、完全年齢制のクラスで挑む。生まれ月による有利不利が顕著だ。


 その救済措置として、現世では試験問題が進度別なのだろう。そうは言っても、一般課目だけ4月から3月のサイクルなので、次の年齢クラスに上がると、大抵の人が暫くの間授業は全くわからない先の方だ。順番を逆に習うのだから。


 その間学園生は、未習得部分を自習する。試験は「1か月目」「2か月目」等の区分で問題を配布されるのだ。

 そんな環境で一般課目も優秀な成績を納めている、乙女ゲームメインキャラクターグループは、大したものだと思う。私たち一般学園生とは住む世界が違うのだ。


「はあー。準備両方かあ」

「任せろ。一緒に勉強と対策しようぜ」


 そこで、ゲームの試験勉強イベントを思い出す。あれは、一般課目としか思えない。魔法実技試験なら、私たち魔法学園生は「勉強」ではなく「対策」と呼ぶ。



 私達が発表の張り紙の前でダラダラしていたら、変な髪型の緑髪攻略対象キャラクターがやって来た。


「マルコ!今回は私の家でね」

「今回は行かねー。テレサと組むから」


 チビ緑、私キャラなんだよな。見た目は僕キャラっぽいけど。ゲームでの得意魔法は覚えていないが、現世ではサイコキネシスみたいなやつだ。手を触れずに物を動かす魔法。現世では、「物体操作魔法」という名前が付けられている。


 緑君、何か色々とアンバランスで痛々しい。現世に属性魔法は無いし、見た目と得意魔法に関係はない。緑だからと言って植物系魔法の達人ではないのだ。そこは、マルコも火炎系魔法が得意とは言えないので、センテルニヤ王国民としては普通だ。


 だが、彼はゲームでも現実でも「天才魔法少年」と呼ばれている。植物系も自在に操れるかと思うじゃないか。マルコのほうがずっと上手いよ。私の方が沢山応用魔法産み出したよ。植物系魔法で。納得がいかない。



「えっ、私困るんですが」


 メインキャラクターは、ヒロインのマーサ・フロレスを含めて6人。魔法実技試験でマルコが抜けたら1人余るのだ。マーサとお相手、あとの4人も適当に組む。あまり注目していなかったが、確かそんな風に現世の試験を受けてきた筈だ。


「知らねえよ。自分で探せよ。俺テレサがいるし」


 マルコは、私に抱きつきながら煩そうに答える。以前の爽やかそうな雰囲気は、今やすっかり消えてしまった。やはり、中央魔法騎士団の鬼畜研修の成果であろう。


お読み下さりありがとうございました。

次回、魔法戦闘機械人形

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