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雑な感じの転生だった(前編)

不定期更新、全25話予定



誤字報告大感謝。(はくり)剥がれ落ちちゃダメ。

 ある時私は気がついた。これは、乙女ゲーム世界の中なのだと。



 まあ、何というか、無芸大食の無害な人生を終えて、そこそこ裕福な田舎貴族に生まれ変わった。

 名前は、テレサ・デ・ラゴサ。優しい父母、賢い長兄、逞しい次兄、穏やかな姉、第四子の私。その他に、警備隊5名を含めた20人位の使用人。護衛騎士なんて御大層なものはいない。それが私の家族である。



 夢の中で、こことは違う何処かの生活を見た。起きていても、家族の知らない物を欲しがって泣いた。地図に無い国の話をして面白がられた。

 呑気な家族は、想像力豊かな子供だといって誉めてくれた。


 前世の記憶は断片的で、子供の想像と言われる範囲に収まっていた。7歳位になって、現世私が住む地域は、中世騎士物語的な田舎町でありながら、最新家電が普及している事に多少の違和感を覚えた。



 エネルギーはすべて魔力。だから、家魔と言うのが正しいが、魔法家電と呼ばれている。電力は存在しないのに。なんとなく魔力で動くという認識だ。操作パネルが付属していて、幼児でも簡単に使える。


 わがセンテルニヤ王国の民は、全員が遺伝的に魔法を使える「魔法民族」だ。魔法民族は他国にもいるが、その数は少ない。

 他国はどうやら多民族国家らしい。センテルニヤ王国だけは、なぜか単一民族国家である。

 小学校で理由を聞いたが、理屈っぽいと怒られた。理不尽だ。


 調理器具や水道は、幼児の魔力では動かない。悪戯による事故を防止する為だ。妙なところで細かい。

 そんなに近代的なのに、わがラゴサ領には農耕機械もない。周辺地域の果樹園と酪農地区は、魔法があるのに手作業だ。

 極めつけは、移動手段が徒歩か馬車。魔法科学どうした。

 飛行手段は飛竜(ワイバーン)。普通の人は乗れない。



 この国、センテルニヤは、中央集権で世襲制の専制王政国家。そのくせ教育制度は、ほぼ現代日本モデルである。家庭教師ではない。西洋中世風田舎なのに、王立(こくりつ)の保育園と幼稚園と小学校と中学校がある。

 参政権は、女性どころか一部の名門貴族にしかないというのに、何故か平等な初等教育と中等教育が義務である。


 平等の定義も暗闇に包まれているが、何処にそんな財力があるのか。魔法家電は超絶発達している。しかし、周辺諸国には魔法民族が少ない。魔力が無いと使えない家電は、輸出は出来ないと思われる。そして、他に特産品は無いようだ。



 中でも財源不明なのが、「アラン王子記念王立魔法学園」だ。

 魔法的才能が高い国民は総て、王都にあるその学園に強制入学させられるのである。無料だ。他の教育機関同様、身分差は無く平等の教育機会を与えられる。

 そこで得た知識や技術を平民がどこで使うのかは、明かされていない。



 王国の人口は、700万人程度。大小合わせて140にも昇る都市がある。森あり山あり荒地ありの中々に広い国だ。

 そこから集められる学園生は、一体何人くらいなのか。


 10歳で行われる魔法能力検定(マジックトライアル)で、わがラゴサ領から選ばれた同世代の学園生は、私独りであった。


 ラゴサは丘陵地帯である。果樹園と酪農が主な産業だ。しかし、土地の広さに対して、町がひとつあるだけ。人口は30000人程度。

 あってしかるべき農村が存在しない。前世の記憶があるせいで、子どもながらに釈然としなかった。


「あの人たちは、何処に住んでいるの?」


 子供の活動時間には既に働いていて、子供の帰宅時間にはまだ働いている。農園労働者達は、一体何処から来るのだろうか。

 不思議に思って聞いてみたが、返ってきたのはとんちんかんな答え。


「みんな自分のおうちがあるのよ。心配しなくて大丈夫」




 だが、現世に於ける総ての原理は、学園に到着した時に理解した。



「これって、あれか。題名忘れたけど、乙女ゲーム。しかもネタゲー」


 曰く、驚異的(アストニッシング)

 曰く、突出的(アウトスタンディング)


 何に於いてかというと。



 その(ラフ)さに刮目せよ。



 とフェイクキャッチフレーズがつけられる程の、あらゆる局面での雑さ加減に於いてである。

 外観から想像不可能な広さや狭さを誇る亜空間内装。理性に挑戦する風景と文明の乖離。漠然とした地理。曖昧な歴史。


 人物設定もいい加減だ。年齢設定がなされていない。学園物だが、入学式はなくて、何年生なのかも解らない。

 そもそも、学園の在学生が何歳なのか、学園自体が何年制なのかも示されていない。


 私が書類上入学したのは、10歳の誕生日に義務づけられている魔法能力検定(マジックトライアル)当日だ。検定直後に親と一緒にサインさせられた。そのまま馬車の旅である。



 王都の中心街に位置するというのに、森が周囲にある広大な敷地を持つ学園。そこまでは、まだよい。庭園や邸宅は、前世の記憶でも都市に存在する。

 解せないのは、その広大な土地を、学園生が門から徒歩で登校することだ。どうみても一時間くらいかかる距離だった。

 寮生というものも存在するが、寮が何処にあるかは解らない。彼等の移動手段も謎だ。


 5人いる恋人候補(こうりゃくたいしょう)の1人、田舎騎士爵家のマルコ・セレナードは寮生設定なのだが、正門で遭遇(エンカウント)するイベントがあった。


 奴は、外から正門へと登校する主人公の後ろから追い抜いてぶつかるのである。

 魔法騎士の卵が、のそのそ歩く主人公を避けられないとは。それもおかしいが、寮のロケーションがあやふやなのだ。

 このシーンから推測するに、寮は徒歩圏内の街中にある筈だ。


 しかし下校シーンでは、短髪赤毛で赤に近い濃いピンクブラウンの瞳をきらめかせ、爽やかな笑顔を見せたマルコが、


「またな。俺、寮だからこっち~」


 と別れる時に、主人公が言うのである。


「寮は学園内だから、一緒に下校出来なくて寂しいな」


 ゲームなので、他の選択肢からセリフを選ぶことが出来る。しかし、寮の場所に言及しているのはこのセリフだけなので、割愛する。いや、正直に言おう。他の選択肢は覚えていない。



 更に、マルコが遅刻ギリギリで滑り込んだときに、校則違反のワイバーンに乗って登校してくるシーンがある。

 奴の言い訳は、


「寮遠いからさ~、馬車の乗り換えミスったら遅刻すんだろ」


 学園内に寮があるって言っていたじゃないか。広大な敷地だからだろうか。学園内では、皆徒歩移動の描写しかないのだが。馬車の路線が幾つもあるのか、学園敷地内には。だいたい、登校イベントの時は外から来ましたが。その日マルコは外泊したのか。


 そもそも、ワイバーンの飼育自体が校則違反だ。巨大なワイバーンの飼育・発着を発覚せずに続けられた程のスペースが、寮にはあったということだ。

 街中ならば、どれだけ王都は広いのか。或いは、王都には王宮と学園と寮しかないのか。

 街へお出かけイベントは、別の街へ行ったのかも知れない。



 もうひとつ、マルコのイベントでは、寮に言及しているシーンがある。寮の厨房に工事が入り、一時的に食事の提供を受けられなくなるのだ。心配して


「お弁当作ろうか?」


 と申し出る主人公に(これも他の選択肢は忘れた)、赤毛少年マルコは答える。


「寮は買い物便利な中心街にあるから、大丈夫だぜ。でも、ありがとな」


 中心街なら、学園のある地区だ。寮は校舎から遠く馬車なら乗り換えが必要だと、マルコから聞いたと思うのだが。

 結局どこなんだ。

 私も、これから卒業まで寮生なんだけど。

 場所は「学園寮」、期間は「卒業まで」としか知らされていない。


 ここ、「ゲーム世界」であって、「ゲームシステムの中」じゃないといいなあ。ホラー系の閉じ込められて永劫ループは嫌だ。こんな漠然とした雑な環境で。


「私も彼等も、これが現世の現実だ」

「みんな、生きていて感じて考える」

「ゲームなんかじゃない」

「キャラクターじゃない」


 というお決まりのターニングポイントが来ることを期待しよう。

 今のところ、人々は私にとって生きた人間だし、世の中はよく解らないながらも回っている。

 ここは雑な世界だが、特に不便は感じていない。いや、馬車は快適とは言えないか。まあ、しょっちゅう使うものでもないし。


 田舎貴族の10歳が知りうる情報なんて、どのみちたかが知れているのだ。フラストレーションが溜まるので、考えるのをやめた。



 精緻な鋼鉄細工の門を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。私は、中途半端な場所に立ち止まっているのに、特に叱責してくる人はいなかった。皆穏やかな性格らしい。


 車寄せもない正門に、次々馬車が止まる。

 馬車から降りた制服姿の貴族達が、徒歩で街から来る学園生に合流する。貴族は、制服に階級章という襟章を付けているからすぐに解る。

 平等の定義は、相変わらず暗闇の中で佇んでいるようだ。



「あ、来た」


 学園制服のシンプルな紺無地ブレザースーツを、可愛らしく着こなした主人公っぽい少女がやって来た。私と同じくらいの歳だ。

 のそのそ歩いている。

 そこに、友達との話に夢中で気づかないイケメンがぶつかった。イケメンというか、イケショタというか。顔立ちの整った自信満々の子供だ。


 オープニングシーンだろうか。


 主人公の基本設定は忘れた。色々見た目や数値を決められるんだっけ。今、門に向かう水色ロングヘアーに透き通ったピンクアイの少女は、メーカーのイメージイラストにでかでかと乗った男性キャラクターの後ろで、小さく描かれていたような気がする。いわゆるデフォルトのままという状態だ。


 ぶつかったイケメンは、さっぱりと学生らしい黒髪青目の少年だ。よく見れば、青にピンクのマーブルが見える。加えて、なにやら支配者オーラがある。メインヒーローに違いない。名前は……、何だっけ。そして何者?


 前世の私は、学園寮の場所が余程気になったのだろう。マルコの言動はかなり詳しく記憶に残っている。しかし、主人公含めて他の情報は、朧気だ。

 もともと総てが朧気なゲームなので、余計に思い出せない。


 しかしそんな内容は、現時点では私に関係が無さそうだった。テレサ・デ・ラゴサ(10)は、センテルニヤに多い茶色い癖毛にピンクがかった薄茶色の瞳をした、平均身長平均体重の少女である。


 ピンクの瞳は、魔法使いとしての能力が高い印だ。私は茶色が強いので、普通よりも少し得意な程度。

 もっとも、成長と共にピンクと茶色の割合が逆転することも、魔法民族にはよくある現象らしい。

 ただし、いくら魔法民族であっても、ピンクが少しも混じらない一般人は、高い能力を後天的に得ることは無い。



 特に入学式もなく、編入の挨拶もなく、その日からいきなり授業は始まった。

 指示された席に着くと、教員が点呼魔法で一瞬にして出席を取る。これは、ラゴサの保育園から変わらない方法だ。この国の教員には必須とされる魔法なのだと思う。


 10歳クラスの授業は、一般小学校の範囲のほかに、一年間魔力操作の科目がある。年間を通して延々とやる。だから、いつ入学しても同じことを繰返し習うのだ。


 ゲームとは違って、この魔法学園ではちゃんと学年が別れていた。学年と言う呼び方ではなく、年齢別のクラスと言う位置付けだが。明確な順位付けもあった。

 特に、能力順位は重要だ。能力が高い学生は、耐久性の高い教室に入れられる。

 10歳クラスは能力別に3教室あり、私は一番下の第三教室だった。主人公達は、第一教室での受講だ。


 主人公達は見た目からして特別な潜在能力を示していた。私はきっとモブだろう。背景で顔も描かれない、人らしき何か。

後編もよろしくお願い致します

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