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初めまして、こういうものです。

作者: 伊藤@

  ……ここは?

 緑、緑、深緑、黄緑……周り見渡す限りの森。

 木が鬱蒼と生い茂り暗い印象を受け、空気が重く澱んでいる。

 市役所は?五月蝿いくらいの蝉は?電信柱に緑のフェンスすらない、車の走行音も無ければ、人の話し声も聞こえない。


 どんよりとした雰囲気に不安を感じる。

 自分の頭がおかしくなったのか、自分以外がおかしくなったのか、元々ここに居たのか、記憶喪失になったのか。


 有給をとって市役所に行った帰りなのに。

 離婚届けを出したら、変な事になったよ!あぁもう助けて誰か。


 ………ふぅ、取り乱しても仕方ない。


『お前の冷静なところが鼻につくんだよ』


 ふと、元夫の声が甦る。

 子供が好きな元夫と仕事が好きな自分、結婚して1年程でレスになった。

 2年目には姑から孫コールが鳴り響き、会社が右肩上がりで業績が伸びて私は出世した。

 3年目には自分の実家からも孫コールダブル、そして先週、元夫の浮気と浮気相手の妊娠が発覚したので追い出した。

 

 付き合って2年で結婚した、離婚しますと伝えると財産分与がどうとか言いだしたので、この家具も車も私が購入したものだし離婚は弁護士を通して貴方と浮気相手に慰謝料請求しますと伝えると黙った。


 虚しい、役所に届けを出した時思ってしまった。


 まあ、現実逃避してても仕方ないか。

 

 自分の周りだけ草木が生い茂ってない、丸くぽっかりと固い土が見えている、うーん、動くとヤバそうだわ。

 木々は生い茂り過ぎてみっちりと壁のような有り様で、自分は綿麻混合のさらりとしたワンピースに羽織ものと軽装もいいとこだ。

 こんな姿で動くとか自殺行為だな。

 しかしここ何処なんだろう、スマホを取り出し確認してみるも、データ通信が死んでる、あんまり弄るとバッテリー無くなるか。

 手に持って見ていたら、通信機能が止まっているのに新規メールが届いた、ゾワッと鳥肌が立つ。


『件名、迎えにいきます』


 ゾワゾワゾワー!背筋に悪寒が走る。

 何これどんなホラーなの?!もしかして、メリーさんぽいやつ?私幽霊とか怪奇現象とか無理、無理、無理。

 うぅ…見たくないけど、見ないで何かあったら困るし。

 ごくりと唾を飲み込み着信内容を見る。


『どうも、初めまして✳✳✳(文字化けして読めない)課のヨルです。この度は召喚に応じて頂きましてありがとうございます』


 は?召喚?いや応じてないよ!


『つきましては、直ぐそちらへスタッフが迎えに参りますのでこの文へ返信して下さい。

 なお急行致しますが、時間が掛かるとおもいますのでステータスと唱えて頂き、ご自身のステータス確認をして頂けだますと時間短縮になり大変有り難く』


 空メールでいいのか?まあいいか。

 ぽちっと返信してみた。


「ステータス」


 古池小春 (コイケコハル)

 人族

 年齢 30

 体力 98

 魔力 ∞

 スキル 素材収集


 あ、ちゃんと結婚前の姓になってる。

 変な所で感動しちゃった。

 むっつりと考え事をしているとスマホに影ができた。


 ん?何で影が?


 上を見ると赤褐色の肌をした、ムキムキで上半身剥き出しなおにいさんが、バサバサと背中から生えてるデカイ翼を動かしながらホバリングして私をガン見してる。


 ポカーン。


 5秒くらい見つめあう。


「✳✳✳✳?」

「え?」


 翼持ちのおにいさんは、めっちゃイケメンで目が潰れるかと思った、イケメン耐性は無いなのですよ。


「✳✳✳✳、✳✳✳✳✳?」

「ちょっと何言ってるかわかんないです、お迎えの方ですか?」


 空飛ぶイケメンは舌打ちをした。

 よく見ると耳にはインカム装着していて、インカムに怒鳴りはじめてます、イケメン怒ると恐いけど格好いいって知らなかった、呆然としていると、スマホにメールの着信音が。


『件名、申し訳ございません』


 はい?題名からして凄く嫌な予感が…。

 恐る恐る内容を見ると。


『担当の手違いで召喚契約していない貴方様を召喚してしまいました、大変申し訳ありません』

 

 ガーン、手違いってあんた。


『つきましては損失補償の話し合いと貴方様の保護の為そちらにいるスタッフが送迎致します、言語の互換性を助けるアイテムを渡されると思いますので着けて頂けると助かります』


 メールを読み終えると目の前に空飛ぶイケメンがいた。

 気配全くしなかったんですけど、見上げる程の大男は無表情にネックレスを私に寄越す。

 男の瞳みたいな真っ赤な石がチャームになっていて革紐に通されている、凄く素朴な感じなのに可愛い。

 喜んだのが顔に出て微笑んでしまった。


「✳✳!」


 ネックレスを着けると、空飛ぶイケメンに子供を抱っこするように片腕で抱き上げられた。


「大丈夫だ、これから移動する」

「!」

「荷物はそれだけか?」


 ヒイイイィ!声が!腰にダイレクトに響く!

 イケメンで更に声がヤバイ、何これ夢なの。

 いやいや落ち着け自分、私からトートバッグを受け取ると、彼は音もなく浮き上がった。

 ひゅっと息を飲むと、地面からどんどん離れてゆく。


 あぁ…気絶したい、気絶できたら絶対楽なのに、こんな時でも頭の何処かで冷静なのが嫌になる。

 空気が流れて風になり、水の粒子が雲になって景色はあまり見えず、自分は髪はバサバサで息を吸うのも一苦労。

 

 誰かと触れ合う温もりは2年ぶりで、元夫とは全然違う感触に戸惑ってしてしまう、彼の体は全て固くてガッチガチ岩みたい、そして目の前で優雅に動く鷹の色合いをした大きな翼は艶やかで思わず手で触れてみたい誘惑にかられる…。


 やっぱり触ったら怒るよね。


 飛行速度がゆっくりとなり、時間にして5分弱で目的地に着いた、すとんと地面に下ろされても足が震えて上手く立てない。

 ふっと鼻で笑われると、私をまた腕に抱き上げ歩き出す。

 不安定なので必然的に彼の首へ抱きついてしまう。


「ご、ごめんなさい!」


 彼は、無言で歩くけど耳が真っ赤になってて不覚にもきゅんとした。


 きゅん?


 え、な、何なんなの私!イケメン耐性無さすぎ!

 彼に抱き上げられながらひとり勝手に悶えた。

 こんな私の何処が冷静だなんて言えるんだろう。


「なんて名前?」

「え!」

「俺はカノープス」

「あっ!初めましてこうゆうものです」


 あ、なに条件反射で名刺出しちゃったんだろ。

 彼はふっと笑って。


「ばーか、読めねえよ」


 と言いながら私の名刺を貰ってくれた。

 その笑顔反則…うええ、何これ、心臓がドキドキする。

 てかなんなの自分、さっきまでシリアスに元夫に捨てられた可哀想な自分してたじゃない。

 こ、これじゃまるで。


「ほら、名前教えろ」


 そう言うと、カノープスはぎゅうと私を抱き込んだ。


「小春」

「コハル、コハル」


 すりっと私の首に顔を擦り付けた。

 うを、なんか、もう色々どうしよう。

 

 …いや、いいか。

 認めなくても怒る人居ないし!


 すみません、自分でもびっくりなんだけど、なんか異世界きて羽の生えてるイケメンに、私一目惚れしちゃったみたいです!


 くっそ!異世界恐るべし!!幸せになってやる!!




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