第5話 凍りついた表情 ★
現時点で、全5話中3話分が過去編になっていますが、今後は割合を少なくしていく予定なので、お付き合いいただければ、と思います。
あとは、毎日投稿がいつまで続くか…ですね。
隣の家の向こうで麻衣ちゃんが、笑みを浮かべながら、両手を広げてぐるぐると回っていた。
その麻衣ちゃんの姿に、僕はどこか釘付けになった。
理由は、彼女が回っている姿がどこか美しかったからだ。
初対面で会ったかわいさとは、また違ったものを感じた。
まだ…といっても、今日が初対面だったわけだが、もっともっと彼女の新たな一面を見たいと強く思った。
しばらくすると、麻衣ちゃんの身体がふらつき始めた。
表情を見ても、明らかに目が回っている。
そこから3秒ぐらいすると、麻衣ちゃんの姿が見えなくなった。
おそらく倒れたのだろう。
少し心配にはなったが、まぁ大丈夫だろうと結論づけた。
それでも心配ではあるので、明日聞きに行こう。
うんっ、これで明日会う理由が作れた。
それに、僕たちが通う小学校は、どういう雰囲気の学校かを教える必要がある。
今日も、会う前は麻衣ちゃんのお母さんの後ろに隠れていた。
新たな学校生活も最初は不安な気持ちに違いない。
だったら少しでも、麻衣ちゃんの不安が消えるようにしていかなければいけない。
明日、何時ぐらいに行けばいいかな…。
~そして次の日~
行くタイミングを前日から考えた結果、行くなら昼頃かな…と思っていたが、僕から行く必要がなくなった。
なぜなら…僕が行く前に、麻衣ちゃんが僕の家に来たからだ。
『優くんっ。おはよう!!』
麻衣ちゃんが来た時間は、朝の9時だった。
僕と違って行動が早い…。
まぁ僕の事情を麻衣ちゃんが知るよしもないのだが。
『あ、今日も昨日と同じで、僕の部屋に入る?』
『うんっ!!おじゃましま~す。』
さらっと今回も麻衣ちゃんを自分の部屋に誘ったけど、冷静に考えてみれば、男女が二人っきりという状況なんだよな。
しかも、昨日が初対面という。
うん…それは、麻衣ちゃんが僕のことを信頼しているからだと思う。
だから、その信頼を裏切らないようにしたい。
『お茶を出すから、ちょっと待っててね。』
『あっ、何かゴメンね…。』
『ううん、全然いいよ。』
『優くん…ありがと。』
お茶を出す以外に、部屋を抜けた理由はもうひとつある。
それは、少し頭の中を整理して、落ち着きたかったからだ。
まずは、麻衣ちゃんがここに来た理由を聞くのがいいだろう。
コンコン
『はぁ~い。』
『おまたせ。お茶もってきたよ。』
『ありがと~。じゃあいただくねっ。』
お茶を飲んでお互いに一息ついたところで、僕のほうから話を切り出した。
『今日はどうしたの?』
『あっ、そうだね。いきなり来たからビックリしたよね。』
『ううん、別に大丈夫だよ。』
嘘です。実はビックリしました。
『えっと、まだ来たばかりで分からないことが多いから、優くんに色々と教えてもらおうと思って。学校のこととか。』
どうやら、僕が麻衣ちゃんに会おうとしてた理由と、ほぼ同じ理由らしい。
『そうなんだ。実は、僕も麻衣ちゃんと同じ理由で、昼頃に行こうかな…って思ってたから、ちょうど良かった。』
『そっかぁ…優くんも同じことを考えてたんだ。でも…そうなると、麻衣が先に動いたから、麻衣の勝ちだねっ。』
いつの間にか麻衣ちゃんの中では勝負になってて、僕は負けてしまったようだ。
でもまぁ確かに…と納得はしていたので
『次は負けないよ。』
と言っておいた。
そこからは、僕たちが住んでいる町の情報や、学校の情報などを麻衣ちゃんに教えた。
色々なことを教えている内に、時刻は11時になっていた。
麻衣ちゃんが家に来てから、2時間経過していたことになる。
『もう2時間経ってたんだね。』
『うん…すごくはやい。』
『学校楽しみになってきた?』
『うんっ!!まだ少し不安はあるけど、優くんもいるから。』
うん、良かった。
これで今日の目標は、ほぼ達成したようなものだ。
麻衣ちゃんにとっても良かったと思う。
『新しいところで、初めて仲良くなった人が優くんで良かった。昨日会ったばかりの麻衣にとても優しくしてくれたから。』
『うん…。僕も麻衣ちゃんと仲良くなれて良かったと思ってるよ。』
なんか照れる。
麻衣ちゃんも『えへへぇ~』って笑ってるし。
そんな穏やかな雰囲気のなかで、【昨日】というフレーズが出たことで、ある出来事を思い出した。
『あっ…そういえば、昨日のことで思い出したんだけど…。』
『ん?なあに?』
僕が今日麻衣ちゃんに会ったら、聞いておきたかったことの一つだ。
『昨日の夕方ぐらいのとき、麻衣ちゃんぐるぐる回って倒れてたよね。あのあとケガとかしてなかった?』
今日一緒に話をしている限りでは、ケガをしてるような素振りはなかった。
だから大丈夫だとは思うが、それでも心配ではあった。
僕からすれば、特におかしいことを言ったつもりはないと思う。
しかし…
『えっ………。ど、どうして………。』
僕の質問を聞いた彼女は、凍りついた表情を浮かべていた。
次の話で、2人の出会いに関する過去編は終わります。