第1話 知られざる趣味
デビュー作です。
よろしくお願いいたします。
僕の名前は竹内優。中学1年生の13歳。
僕には彼女がいる。
その彼女は、隣の家に住んでいる同級生で、名前は芝原麻衣。同じく13歳。
小学5年のとき、麻衣の家族が隣に引っ越してきたことにより、僕たちは出会うことになった。
彼氏の僕が言うのもなんだが、麻衣は一言でいうと、かなりの美少女である。
髪はサラサラのロングヘアーで、前髪は目にかかるあたりで切り揃えられており、目もパッチリとしている。
成績は10位以内に入るほど頭もいいし、運動もできる。
さらに性格も良いので、周りからの信頼も厚い。
なので、彼女に告白しようという男子も少なくなかった。
小学生のときもそうだったし、中学校に入学したばかりのときは、他の小学校出身の男子からといった具合である。
しかし、しばらくするとそういったものがなくなっていく。
それは、僕と麻衣との間に入り込む余地がないからだ。
例えば、麻衣が告白を断るときは、必ずといっていいほど僕のいいところを熱弁し、相手の心を折ってしまう。
誤解してほしくないのは、別に彼女は相手を叩きのめすつもりで僕に関する話をしているわけではない。
ただ…なぜ断る際に、僕の話が出てくるのか疑問に思い聞いてみると、麻衣もなぜかそういう話になると僕が登場してしまうのだという。
それでも諦めきれない人も中にはいるのだが、そこでさらに見せつけられることになるのである。
休み時間だと、僕が麻衣に話しかけるか、麻衣が僕に話しかけるか、あるいは同時に話しかけるので、その人は会話に入れないし、移動教室のときも一緒に行くので会話に入れない。
昼食も一緒にとるし、部活終わりには一緒に帰るので、ここにも入り込むことができない上、僕たちの仲の良さを見せつけられる形になる。
ただ僕も麻衣も見せつけるつもりは全くない…というよりは、自然とそうなっているというのが正しい。
お互い困ったことがあったら助けるのは当然だし、助けてもらったら『ありがとう』というのは当然だし、もし故意ではなくとも相手にイヤな思いをさせたら『ごめんなさい』と謝る。
僕と麻衣はそういうことが自然にできるのだ。
そうなると、告白した人達も奪ってやろうという気持ちが起こらず、むしろ2人の更なる幸せを願うといった優しい世界になるという。
僕と麻衣の共通の友人に丸山希という女子がいる。
麻衣にとっては親友で、僕にとっては悪友のようなものだが、彼女が言うには…
『2人のそれは夫婦そのものだからね~。まぁ夫婦は夫婦でも、万年新婚夫婦だけど。』
とのこと。
といっても、ベタベタしたり、愛の言葉を囁きあうなど、TPOをわきまえないバカップルでは決してない。
そう…決して!!
ただ僕と麻衣がセットでいるのが自然になりすぎて、もはや学校の風物詩になりつつあるのは事実である。
というのも、どちらかがいない状態になると、話したことがない人から
『あれっ、相方or奥さんは?』
と聞かれるからである。
いや、ただ単にトイレに行くだけなんですけどね…と思いつつ。
これは麻衣に対しても同様のようで
『さっき、旦那さんはどうしたのって聞かれちゃった。えへへぇ~。』
と顔が蕩けそうな笑顔で言ってくることが何度かあった。。
…うん、かわいい。
ここまでが、僕の彼女である芝原麻衣の紹介と、僕と麻衣の学校生活の様子である。
そう…ここまでは学校で見せる麻衣の姿だ。
『今日、優くんの部屋に行っていい?』
と麻衣が言ってきた。
無論、断る理由がない。
麻衣も僕も学校だと周りの目があるから、思いっきり甘えるようなイチャイチャにはならない。
そのため、周りからはバカップルではなく夫婦と呼ばれるわけだが、もちろん我慢していないわけではない。
最初に紹介したが、僕と麻衣との家は隣同士なので、家に着いたあとはすぐに僕の家に行くことができるのだ。
お互い家に着いたあと、10分後に家のチャイムが鳴った。
玄関から出ると、予想どおりの人物が私服姿になっている。
『優くんっ、久しぶり!!』
『10分って久しぶりなの?』
『むぅ~…優くん冷たい。』
麻衣は学校では大人びた雰囲気を出すことが多いが、それ以外だと年相応…というより、少し幼い感じが出てくる。
まぁ学校でも素を出すことがたまにはあるが。
学校ではクールな一面、それ以外ではキュートな一面を見せる。
さまざまな面を見せてくれる麻衣は、毎日見てて飽きない。
『じゃあ入って。』
『うんっ。おじゃましま~す!!』
麻衣が僕の部屋に遊びに行くことは少なくない。
理由はふたつ。
ひとつは、一緒に勉強するため。
最初にも説明したが、麻衣は学年で10位以内に入るぐらい頭がいい。
僕は麻衣とはじめて会ったときは、中の中…すなわち平凡な成績だった。
ある出来事をきっかけに、麻衣に勉強を教えてほしいとお願いしたら、麻衣も嬉しさが隠しきれない表情で、そのことを了承したわけである。
その甲斐あってか、今では学年で20位前後の成績である。
学年全体で200人ほどいるので、かなり上の方にいるといっていいだろう。
そしてもうひとつは、麻衣の変わった趣味に関係している。
これを知っているのは、僕と希ぐらいだと思う。
『優くん、ちょっと休憩しよっか。』
『うん、いつもありがとう。』
『いいよいいよ。麻衣にとっても復習になるし、それに優くんと会えるし、一石二鳥だよっ。』
麻衣は、学校では【私】だが、このように二人っきりになると、一人称が【麻衣】になる。
僕に対しては特別という感じがするし、このような美少女が自分の名前を一人称で呼ぶと、どこかグッとくるものがある。
『じゃあお茶もなくなってきたから、入れてくるね。』
『うんっ、優くんありがとっ。』
お茶を入れるため、下のリビングまで移動し、冷蔵庫の中にあるお茶を入れる。
ふと思ったのが…
『麻衣…今アレをやってるかな?』
ということだった。
アレというのが、彼女の変わった趣味のことである。
そして部屋に戻ってみると、僕にとって予想どおりの光景だった。
『ただいま。うん、やっぱりね。』
『あっ、優くんおかえり~。』クルクル
麻衣は回転椅子で回っていた。
『相変わらず回るの好きだよね。』
『うんっ。学校でやると、変な目で見られると思うから。』クルクル
『いつぐらいから回ってたの?』
『う~んと、優くんが部屋を出てからすぐに!!』クルクル
じゃあ最低でも1分ぐらい回ってますね。
そろそろ止めておきますか。
『一緒にお茶飲みたいから、止めるよー。』
『うん、分かったぁ~。』クルクル
僕は麻衣が回っている椅子を止めた。
止まると、麻衣は背もたれに身を預けながら、頭をユラユラと揺らしていた。
『大丈夫?』
『うわっ…目が回るぅ~。』クラクラ
目を回している麻衣の表情を見ると、半笑いになりながら、目と口が半開きになっていた。
そして瞳をよく見ると、文字通り目がクルクルと回っている。
頭もまだユラユラと動いており、彼女から見た世界はまだ回っているようだ。
なんとか椅子から立ち上がり、移動しようとするが
『ぁあ~…ダメだぁ~。』
すぐに倒れると判断した麻衣は、近くにある僕のベッドにダイブした。
『今どんな感じ?』
『う~ん…世界がぐるぐるーってなってる。優くんが歪んで見える。ベッドが頭から離れません。結論、スゴく目が回ってますっ!!』
『こういうのって気持ち悪くならないの?いつも思っていることだけど。』
『う~ん…少しそう感じることはあるけど、でも、楽しいからやめられないんだぁ~。えへへぇ~。』
『まぁ楽しいんだったら大丈夫か。それに目を回している麻衣って、なんかいつも以上にカワイイし。』
『…っ!!じゃあもう一回回ろうかな…と思ったけどヤメトク…。麻衣の思った以上に目が回ってるから…。』
『じゃあ治まるまで、頭を撫でておくね。』
『うん、ありがと…えへへぇ~。』
麻衣の変わった趣味…それは、誰よりもぐるぐる回ることが好きなことである。
お読みいただきありがとうございました。
1日1話ペースは難しいかもしれませんが、遅いペースの投稿にならないように気をつけます。
改めてですが、よろしくお願いいたします。