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異世界召喚されたのはまさかの幼児だった話

作者: 三須美ソウ


待ちに待った儀式がついに始ろうとしています。

物々しい空気が漂い、咳払いひとつも憚られるような雰囲気に全身が固まってしまいます。

代表国である我が国で行われるこの儀式では魔術師総出で総力をあげて、いや、振り絞って挑んでおります。

この儀式は世界の危機を救う希望を召喚する儀式。

練り上げた魔力を合図されたタイミングで魔術式に流し込みます。

失敗は許されない、許された機会はこれ一回きり。

元より魔術師として遅咲きの僕はそもそもの魔力量は保持してませんでしたがそれでも持てる力を振り絞って挑むのみです。

緊張も相まって額から汗が滴りましたが気にしていられません。ちらりと目の端で捉えた同僚も硬い表情をしているので恐らく僕と状況は大差ないでしょう。

魔力に反応し、描かれた魔術式が淡い光から強い光、ついには目を開けていられないほどの目映い光を放ち、次第に光が収まっていきます。

徐々に収まっていく光の中から人影がぼんやりと浮かんできました。

結果を見守っていた僕を含めた魔術式を取り囲む一同、望む結果を得られたのではないかと色めき立ちました。

『成功したのか?!』『やった……!』などと喜色の声が聞こえてきます。

周囲の緊張が溶けた雰囲気に押され、やりきったのだと肩の力を抜いた僕でしたが、様子がおかしいことに気づいてしまったのです。

光が晴れて人影がはっきり姿を現していく様子を注視していたら、誰だっておかしさに気づくはずです。

だって、なんだかとても小さい。

はっきり現れたその姿に、晴れやかだった周囲の様子も困惑や驚きに変わっていきます。

その小さき者と運良くなのか運悪くなのか、僕は目が合いました。

きょとんとした、くるんとした大きな瞳に見つめられ、びくんと、肩が揺れて固まってしまいました。

周囲も、目が合った僕と召喚された小さき者とを交互に見つめ、固唾を飲んでいるようです。

ずるい、僕もそっち側がいいです……

目をそらすことも憚られたので小さき者と目が合ったままの僕に、にこっと笑いかけてきて一言声をかけられました。

それが僕の運命は大きく変わったのです。


「まま!!」


僕は独身彼女募集の男です!!!!



****************



ことの始まりは世界を混沌に落とさんとする闇の組織との争いでした。

やつらに対抗する手段として、この世界とは違う、別の世界からもたらされるチカラを持って危機を退けるというものでした。

具体的には異世界からチカラある人物を呼び出す秘儀を用いること。

秘儀とされるだけあり、その存在を知るものすら各国の要人たちのみで、当初は秘密裏に行われる儀式であったようです。

各大陸を治める大国がそれぞれ必要な道具や手法、魔術式などを管理してましたので、代表国である我が国に集結させて実行予定だったようです。

ようです、というのは予定通りいかなかったということです。

なんと!対抗組織の間者が紛れ込んでいたようで、儀式に欠かせない重要人物が敵にさらわれてしまったのです。

相手側もこの秘儀を利用したいため解明できるまでは殺されないはず、と我が国の偉い人が仰ってました。

その時点で彼らを助けに向かうか、途中まで進めていたこの儀式を敢行してしまうか迷ったらしいのですが、書物管理者が参考文献を発見したおかげで方針が決まったとのことです。

結果、秘密とはなんだったのか、集められる人材集めるだけ集めて無理矢理儀式を成功させて召喚したチカラ持つ人物に彼らの救出もお願いしようと。

この集めれらた人材のなかに、つい先日晴れて城付きの魔術師となれた僕も加わっており、魔力を捧げたらあとは勇者(参考文献にはチカラ持つ者を勇者と記されていたので以後そう呼ぶとしましょう)がなんとかしてくれると思っていました。

いえ、僕だけではなく、この儀式に携わった多くの人々がそう思っていたに違いないです。


それが、あの結果です。

呼び出されたのは小さき者、おめめくるりんプニプニほっぺの幼児。

しかも僕をママと呼ぶのです。

同年代より体つきが細いからですか。

魔力を溜めやすくするために伸ばし続けてるこの髪のせいですか。

僕にはあなたを満足させるような胸はありませんよ!?

むしろそれは僕が触れたいところだ……いやいやなんでもありません。


魔術式により召喚されし幼児。

どうすんだよコレ……とチカラなき眼で権力上層部を見つめる下っ端。

どうしようコレ……とチカラなき目線が右往左往なお偉方。

幼児に手を伸ばされ仕方なく抱きかかえる僕。


ママではない!!ないが伸ばされた小さい手を取らないわけにはいかない……

……抱きかかえてはいけなかったのです僕は。

この図を見たお偉方が閃いたと言わんばかりに僕に押し寄せてこう言いました。


見た目はどうあれこの方は伝承通りの勇者のはずだ!

その勇者が君を見初めた!

つまり君は選ばれたのだ!

さぁ!勇者と手に手をとって我らを救っておくれ!!


そんな理不尽な!!?

僕は全力で抗議しました。いくら下っ端といえどもの申していいはずです。申したはずでした。

ですが残念ながら僕は下っ端魔術師。

上からのお前に任せたからな!!!という強い圧には勝てず、あれよあれという間に身支度を済まされ城を追い出されてしまいました。


そうしてあれよあれよという間に世界を救う旅が始まったのでした。

勇者という幼児を背中に。

そんな殺生な……



****************



こう言ってはなんですが、僕は下っ端魔術師なわけです。

魔術師の家系に生まれ、ありがたいことにその血もしっかり受け継ぎ素質を持たせてもらいましたが何分遅咲き気質であるようなのです。

同級生たちがクリアしていく問題にも何周か遅れて追いつく感じの。

城付きの魔術師試験にも3度目の正直でなんとか通った感じの。

落ちこぼれではありません、遅咲きなんです僕は!

なぜなら僕の家系は代々そんな感じで、大成してこれたのは35歳を過ぎたあたりからだったそうですから。

ですからきっと僕もそうなはずです。お父様もお爺様もそう言って僕を励ましてくれましたから。

現にお父様もお爺様も、その前の代々連なるご先祖様方はお城で立派にお役目を果たされておられました。

それでも僕は言いたい。将来大木になるのも結構ですが瑞々しい新緑の時代から輝きたかったですと。

真横ですくすく伸びていく同級生を見るのは辛かったですと。


それが今や出世も出世、大出世ですね。

世界の希望である勇者さまのお付きとして選ばれたのですから!

そうです、たとえそれが幼児であろうとも……泣いてはいません、ホコリが目に入っただけです。ええ、ホコリが……ホコリ?


「うわああああ!!?勇者さま!!?」


僭越ながら抱っこヒモで背負わせていただいております勇者さまが自らにくくりつけられたマントをバサバサと振り回しておられました。

そのマントからそれはもうこれでもかってほどのホコリが舞っております。

そういえば侍従らしき方が大層な宝飾が施されている古めかしい箱の奥から引っ張り出した布を勇者さまに括り付けていたなと、放り出される前の慌ただしく準備させられたときの記憶が蘇ります。

勇者様はきゃっきゃと笑いながらホコリまみれのマントで遊んでおられます。

何が楽しいんですか勇者様……僕にはわかりません……

少なくてもホコリまみれのマントを寄越してきたやつ、帰ってきたら文句言ってやります。……言ってやれたらいいな、うん。


ホコリで装飾されるのは大変遺憾なので、旅立ち前に城下にある自宅へ寄ることにしました。

身なりを整えついでに大事な用事のために。

先にも申し上げましたが僕は独身なのです。ついでに彼女も募集中です。

そんな僕に幼児の相手ができるとはとても思えません。

魔術の訓練はしても、育児の訓練は経験皆無です。

ですので経験者である我が母に基本だけでも教授願おうと参じた次第です。

まだまだ自分の身を立てるのも覚束ないし、勇者さまといえど幼児を守りながら旅ができるのだろうかと不安でたまらないのでそういう意味でもお世話係としてしばらく面倒見てもらいたい気持ちでいっぱいですが、今回はあくまで世界を救うという目的ある旅です。

危険が待っているとわかっている道のりについてきてとは言えません。さすがにもう大人ですしね。親離れ親離れ。

とりあえず突貫であれこれ教わり、さていよいよ旅立たないとなと立ち上がるとお母様がにこにこと僕を見ておりました。首を傾げて理由を尋ねます。


「なんだかんだ文句は言っても、あなたには行かないという選択肢はないのですね」


それはまぁ。そうですね。

境遇の理不尽さに文句は勿論ありますが、世界が大変だということは日々肌身を通して感じております。

結果がどうであれこの方は私たちの希望。(でも絶対何かのミスがありこの勇者さまが召喚されてしまったと思うのでミスした方々は許さない)

私たちの勝手でこんなところに呼んでしまったのですから必ずお守りして、役目を果たす所存ではあります。


「僕で世界が救える助けができるならやれるだけやりたいと思います」


そうですか、と。

お母様はひとつ頷き、きょろきょろとあたりを見回す勇者さまの両手を優しく握り包みました。

その両手に額をつけ、まるで祈るように囁きます。


「小さな勇者さま。わたくしの息子を、どうぞよろしくお願いいたします」


勇者さまはお母様を見つめます。

お母様の言葉を理解されているのかどうか分かりませんが、大きな瞳を三日月に変え、元気よく答えられました。


「あいっ!!」


不安100%の行く末ですが、なんだか大丈夫な気になってくるのも勇者さまのお力でしょうか。

つられて私も笑顔を浮かべてお母様に頭を下げました。


「お母様、行って参ります」



****************



城下地区をあとにし、大通りに沿って一般居住区、商業地区と抜けて国外との境界である門まで着きました。

家を出てしばらくは勇者さまと手をつないで歩いていたのですが、勇者さまはそもそもが足下も覚束ず、僕の手で引かれてようやく歩けるといった様子でした。

しかも出だしは良かったものの、途中で座り込んだり、『ままぁ……』とぐずり出す始末で。

僕はママではありません……と誰にも届かない密かな抵抗を示しながらも城から出たとき同様に背中に負ぶわせていただくことにしました。

このままでは目的地はおろか、現地点からも出られないのではないだろうかと途方にくれる光景が頭をよぎりましたので。


門を出る手続きを行ない、持たされた近隣の地図にて今後の道のりを確認です。

ひとまずは、幾ばくか先にある森を抜けた先の街へ向かうこととします。

森までの道のりは舗装も魔物よけもされているので戦闘の可能性は低いでしょうが、問題はその先の森です。

何度も申し上げますが(自分から言いたくはありませんが)僕は魔術師としては駆け出し魔術師です。

自分の魔力量的に言えば、初歩である炎の攻撃魔術を5~6回使えばすっからかんになりそうな具合です。

森はそこそこ深そうなので、次の街までたどり着くまでに力尽きないだろうかという不安にぶち当たります。

勇者さまの可能性が未知数なので戦闘に関しては自分一人で……、と考えているとふと思い出したことがあります。

超特急で準備されたリュックの中に便利道具があったな、と。

ごそごそと中身を取り出したのはネックレス型の……術具?

本来は勇者さまの持ち物らしいので、いったん勇者さまを地面に下ろし勇者さまの首に術具をかけてみました。

すると勝手に術具が動きだし一度ブオンと音が鳴るとそれきり音沙汰がなくなりました。

うーん、わかりません……なんでしょうこれ?

術具ならば勉強した知識を活かせるかもしれないですし、失礼しますねと勇者さまに声をかけて術具を手にしてみました。

こねくり回して見てみますが結局分からず仕舞いでしたのでリュックに戻すとしますかね。

肩透かしな気分で落胆していると、門の塀からニャアと鳴き声が聞こえてきました。

不思議と呼ばれたような気分になり猫へ視線を移した僕と、勇者さまも同じように感じたのか猫の鳴き声に反応して猫へ手を伸ばしています。


「ねこさんっ!」


きゃっきゃと嬉しそうな声で呼ばれたその黒猫は返事をするようにニャアと鳴き、身軽な動きで勇者さまの胸に飛び込んできました。


「まま、ねこさん!」


勇者さまはぎゅっと抱きしめた黒猫を僕に見せるように体を向けてくれました。

ママではないでs……もう、いいや、僕の呼び名が「まま」ってことにしましょう、終わらないです。

黒猫は僕に一目向けてから再びニャアと鳴き、毛艶の良い長い尻尾で勇者さまの首から心臓あたりをくるりと撫でました。

なんだか妙に艶めかしく感じるその動作に見とれていると、異変が起きました。


「あなた、彼のママなのかしら?」


確かに目の前の猫が鳴いているのが分かるのに、僕の耳には人語としてそれが聞こえたのです。

声もなく呆然と見つめていると、再度猫が口を開きました。


「ねぇあなた。私の言葉、聞こえてらして?」


「また聞こえた!なんですか!!?」


聞き間違えではありませんでした。

確かに目の前のこの黒猫が、僕に向けて言葉をかけてきていました。

目を白黒している僕は気づかなかったのですが、割と近くに立っていた門番が怪訝な顔をしてこちらを見ていたそうです。(後日そんな話を聞きました、恥ずかしい)


「それは追々お話して差し上げてよ。それよりも先を急ぐ旅なのではないかしら」


「はっ、はい、そうですが……」


「先ほど鞄にしまわれた術具、一度起動させると一緒に行動している仲間の状態を確認できるのよ。試しにご自分の状態を確認してごらんなさいな」


次々と起こる不可思議現象に戸惑いながら、言われるがままに念じてみます。

すると目の前に、名前、レベル、体力、精神力、使える魔術などといった自分のステータスのようなものが映し出されました。

体力も精神力も戦闘を行なっていないのでマックス値です。それはまぁ当然でしょうね。

術具の授業も受けてきた僕だが、原理がさっぱりです。

さっぱりですが、自分のステータス値が数字として可視化されるというのはなんとも……

僕のレベル……10か……高いか低いのか比較対象がないので分かりませんが、これまでの体感で考えれば高くはないのでしょうね。悲しい。

僕の悲しみはある意味いつものことなので、次に勇者さまです。

念じ直すと自分のステータスが消え代わりに勇者様のものが映し出されました。

レベルは勿論1。自分の数値と比べると、体力も精神力も幼児なんだからそりゃそうだよね、という印象の数値です。

自分のある意味正常値を確認したが故に分かることがありました。

勇者様の精神値が半分まで削れています。思い当たる節がまるでありません。むしろ僕がお運び申し上げているので僕より元気満々なのではないのですか。

体力値が削れているわけでなかったので一安心なのですが、なんだかひっかかります。


「これは、どうして」


「それはどうすることもできないわ。まずは先へ進むのが良いでしょう」


「お恥ずかしながら僕の力及ばずで森を突っ切るには不安要素がありまして……」


「私が魔物の少ない道を案内して差し上げましょう。さぁ、行きましょう」


「ええ………?」


僕を置き去りに、黒猫に促されるかのようによたよた前を歩く勇者さま。

分からないことも聞きたいことも盛り沢山ですが確かに立ち止まるわけにはいきません。


小さな勇者と喋る黒猫とへっぽこ魔術師(将来性有り)の旅はここから始まるのです。





*****END?*****



勇者の勝手に精神力使われてる問題とか、勇者の能力とか、黒猫がなにものなのか、とか考えてたことはありますがこれ以上踏み込むと固有名詞必要不可欠になってきそうなのでいったん保留です。

まま(魔術師LV10)に関しては特になにもありません。

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