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私はポケットから革手袋を出して、両手につけた。
そして、同じくポケットから細めのロープを取り出す。
前に出ようとしたところで、中田が私の腕を掴んだ。
首を横に振っている。
どうやら私の意図に気づいたようだ。
見過ごしてくれれば、いくらでも金は払うのだが。
中田はゲスな俗物だと思ったのに、人並みのモラルは持っているらしい。
暗闇のせいで中田の顔はよく見えないが、はたしてどんな顔をしているのか?
今回は中田が居る。
次回の密会に私が1人でここに来て、妻に裏切りの代償を払わせるのが現実的というものだろう。
しかし、もうダメなのだ。
それは手遅れというものだ。
何故かと言うと、私が妻の様子を見てしまったからだ。
私に向けない笑顔を浮かべ、恋に胸を焦がす少女のように歌を唄い、想い人を待つ姿を。
全身で喜びを現し、抑えることの出来ない気持ちが外へとこぼれ出す様を私が見てしまったからだ。