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極度に緊張した状況では、短い時間も長く感じる。
ライトが何かを照らした。
人だ。
人が倒れている。
小野が倒れているのか?
私は警戒しながら、倒れている人物に近づいた。
うつ伏せだ。
顔が見えない。
後頭部から血を流している。
頭のそばには野球のボールほどの大きさの石が転がっていた。
石には血がついている。
何だ、これは?
小野が殴られたのか?
誰に殴られたというのだ?
ここには私と小野しか、生きている者は居ないはずだ。
私はまったく動かない人物へと手を伸ばした。
ひどく嫌な予感がする。
何かがおかしい。
明らかにおかしなことが起こっている。
私はうつ伏せの人物の身体を仰向けに動かした。
小野ではない。
知らない男だ。
よく見てみれば、ハイキング向けの服を着ているが、小野のものとはデザインがまるで違う。
何なのだ、これは?
この男は、いったい誰なのか?
混乱する私の後ろから、ぬっと手が伸びてきて、右手のナイフを叩き落とした。
落ちたナイフを拾おうと反射的に屈んだ私を誰かが突き飛ばす。
私は簡単にバランスを崩し、地面へと倒れた。
とっさに両手を前に出す。
危うく顔面を打つのは回避できた。
倒れた状態から後ろへライトを向けると、そこにはナイフを拾った小野が立っていた。
またも、してやられた。
小野は、もうひとつの坑道に居たのか?
そして私をやり過ごし、背後から近づいたのか?
立場は逆転した。
私は狩る側から狩られる側になったのだ。
小野のライトが私を照らす。
「これは誰だ!?」
私は小野に訊いた。
まったく見当がつかなかった。
危機的状況だというのに好奇心が抑えられなかった。
小野は無表情だった。
「それは大原夫人の浮気相手の小野です」
小野が…いや、小野ではないと言いだした男が答えた。
恐怖がジワジワと全身を侵食していく。
「じゃあ…君は誰なんだ!?」
私は言った。




