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私は驚いた。
ナイフは取り出していたが、小野の予想外の動きに反応できなかった。
それでも何とか、ナイフの刃先だけは前に向け、小野を迎え撃とうとした。
が、小野は、あっという間に私の横を通り過ぎ、ランタンのある場所へと走り去った。
坑道に残された私は唖然とした。
やられた。
まんまと逃げられた。
いや、落ち着け。
小野は自ら行き止まりへと逃げ込んだ。
妻の死体のある場所からは、どちらの通路に行っても出口はない。
ナイフを持っている私が絶対的に有利だ。
私は油断なく周囲に気を配りながら、ランタンのある場所まで戻った。
小野は居なかった。
これで、どちらかの坑道に逃げたことになる。
私は中田と使ったほうではない、すなわち小野が入ってきた通路へと向かった。
右手にナイフを構え、ライトで前方を照らしながら慎重に進む。
不意を突かれないように気をつければ大丈夫だ。
そう、大丈夫だ。
どのくらい進んだろうか。




