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奥の坑道には中田の死体がある。
絶対に小野を行かせてはならない。
「また、天井が崩れるかもしれない。しばらくは動かずに居たほうが良い」
私はもっともらしいことを言って、小野を止めた。
小野は奥への道を、じっと見ていたが、やがて私のもたれる壁の反対側の壁を背に腰を下ろした。
やはり警戒されている。
当然だろう。
私と小野は黙ったまま座り続けた。
時計を見ると、5分ほど経っている。
何とか小野を止めてみたものの、この状況では外へ出られない。
よくよく考えてみれば、妻の死体を見られた時点で私の計画、廃坑内で妻と中田を殺し(中田は元々の計画ではないが)、妻の浮気相手に発見される前に隠すというもくろみは、すでに瓦解しているのだ。
ということは、ここから脱出するとしても、どこかの段階で小野も殺害しなければ私は警察によって、すぐに逮捕されてしまうではないか。
罪を逃れるために、さらに罪を犯す。
今日、すでに2人の人間を殺しているのに、続けてもう1人を殺害しようと考えている自分の残忍さに我ながら激しい恐怖を覚えた。
とりあえず、その考えを中断させたくて、私はこちらから小野に話しかけた。
「君は大原夫人を愛していたのか?」
小野は薄気味悪そうに動かない妻を見つめていたが、私へと視線を移した。




