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当然の質問だ。
私は答えに窮した。
まさか「君の火遊びの相手の夫だ」と言うわけにもいかない。
しかもこの場には、妻の絞殺死体があるのだ。
私の素性を明かすのは抵抗があった。
「探偵の中田という者だ」
気がつくと、私は嘘をついていた。
真実を告げ、男が逆上し、もしも私を襲ってきたら今の疲労ぶりでは、ひとたまりもなく倒されてしまうだろう。
とにかく、体力を回復する時間が欲しい。
「探偵?」と男。
「ああ、大原夫人の浮気調査の依頼を受けてね。彼女の後をつけて、この廃坑に」
私は、たたみかけた。
中田が実在しただけに、すらすらと嘘が出てくる。
「君は大原夫人の浮気相手だね?」
私の質問に男はハッとなった。
妙な表情をしている。
しばらくして意を決したように、こう言った。
「そうです。僕は小野といいます」
「私は夫人に続いてここまで来たが…すでに彼女は殺されていた。それで犯人がまだ、その辺りに居るに違いないと少し奥を探索していたんだ。結局、誰も見つからず、戻ってきたところで君と出くわした」
「そうですか…」
小野は落ち着かなげだった。
両手の指を組んで、視線をあちこちに走らせる。
「このかたのことはともかく」
小野が言った。
愛する者を「このかた」とは…死んだとはいえ、何と冷たい態度か。
小野の妻に対する愛は、その程度のものだったのだ。
「どうにかして、ここから出ないと。携帯も通じません」
小野が続けた。
確かに生き埋めは、ごめん被りたい。
殺人の罪を逃れるうんぬん依然の問題だ。
私は小野が調べたという入口を自分の目で確認しようと思い、私と中田が使った道と違う通路へと進もうとした。
「無駄です」
小野が私の前に立ち塞がった。
そこから動こうとしない。
私は諦め、壁にもたれかかって座った。
立っているのがつらくなってきたからだ。
「2つの入口が塞がっているなら、奥に行くしかない」
小野が言った。
「やめろ!」
私は大声を出した。
小野がビクッと震えた。




